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ワケあり5人目⑳

「……やってしまいました」


 教国からの引き上げが決定して、王国へと帰る道中、私は自分の出身と、これといって突出したもののない能力に焦りを感じ、それを爆発させてしまった。

 そんなものは関係無いし、そもそも価値を感じていなければ最初から雇わない、とハイトさんに諭され、今まで溜まりに溜まっていた物が感極まって爆発。

 泣き出してしまった所を周囲のみんなから慰められて、年甲斐もなくギャンギャン泣き喚いてしまい、ちょっと気まずい。

 今は休憩で足を止めていて、小川のほとりで簡単な食事を摂ってから、思い思いに休憩をしている所で、ちょっと1人になりたかった私は、食器等の後片付けを買って出た、というわけだ。


「っしゃあ、今日こそ一本取ってやるぜ!」


「望むところ」


 私が小川で洗い物をしていると、ジェーンさんとカナエさんが模擬戦を始めていて、重厚な金属音が断続的に聞こえてくる。

 あの2人は、相当に強い。

 聞けば、私とそれほど年齢も変わらないというのに、戦闘力だけなら既にA級冒険者以上の域にいるといっていいだろうと思う。

 何度か合同依頼などでA級冒険者の実力の一端を見た事もあるけど、間違いなくそれ以上だし。


「怪我してもオルフェさんに治してもらえるからって、あんまりやりすぎるなよー」


 そんな2人を見かねたのか、ハイトさんがやりすぎないように注意を飛ばす。

 何度か2人の模擬戦は見学した事があるけれど、守りのカナエさんと速さのジェーンさん、といった感じで、いつも千日手となってしまい、お互いに有効打が無い。

 私も手合わせをしてもらった経験があるからわかるけど、カナエさんは本当に守りが固い。

 打ち込んだ時の感触からして、この人の防御を正面から破るのは無理だ、とハッキリ理解させられてしまう程度には。

 ジェーンさんは素早い身のこなしで、特大剣を使った一撃離脱戦法を得意としているけど、これまた動きがすごい。

 あんな金属の塊を持った状態で、人なんて余裕で飛び越えられるくらいのジャンプ力があるし、離れていると思ったら、気付けばもう間合いに入られている、なんて感覚。


「拭きますよ」


 模擬戦をしている2人に思いを馳せていたら、横から手が伸びてきて、洗い上げた食器を私の手から奪っていく。

 驚いて手の伸びてきた方向を見れば、いつの間にかそこにはフリスさんがいた。

 私の手から奪った食器を布で拭き上げて、収納用のカゴへと移すその姿を見て、いつの間に隣に来ていたのだろう、と首を傾げてしまう。


「あれから少し気まずそうにしていましたので、少しお話でも、と」


 笑顔で次の食器を渡して下さい、と私の方へと手を出した彼女を見て、私は自分の手が止まっている事に気付き、慌てて次の食器を洗い上げ、彼女に手渡せば、それを受け取って、拭き上げていく。


「私も、最初は自分の身分や生まれ、見た目を気にしていたんですよ」


 そう語るフリスさんは、少しだけ眉尻を下げながら、そう語った。

 獣人の狼耳に、虫人(むしびと)の触角、それぞれ違う左右の目、そしてもふもふの尻尾。

 食器を受け取りにこちらへと差し出された手は、人間のそれとは違う、無機質で硬質な甲殻のような前腕。

 話に聞けば、蟷螂系虫人という事で、ちょうど、手首の付け根の辺りから、蟷螂の前肢にある鎌のようなものがあり、今は折り畳まれている。

 まるで手甲を付けているかのように、肘の少し手前くらいからは人間と同じ柔肌が覗いていて、同じ人間という括りではあれど、不思議な特徴だなあ、という感想を抱く。

 こうして見ると、確かに見た目は気になるだろうか。

 人によっては、気持ち悪いと言う事もあるかもしれない。


「確かに、不思議な見た目ではあるかもしれないですね。そういう人もいるんだなあ、という感じですが」


 次々と洗い上げた食器を彼女に渡して、流れ作業で食器を片付けていきつつ、会話を続ける。


「オルフェさんのような感想を持つ方が多ければ、それが一番なのですけど」


 残念ながら、と前置きをして、簡単な彼女の生い立ちを聞いていると、その境遇に驚く。

 貧民街に生まれ、両親の顔を知らない私も、それなりに厳しい環境で生きてきたと思っていたけど、フリスさんの話の前には霞んでしまう。

 一つ幸いな事があるとすれば、彼女が家族から愛されていた、という事実くらいか。

 それも最近思い出したのですが、と彼女は皮肉げに笑った。

 とはいえ、それは自嘲めいたものではなく、どうして忘れていたのだろう、といった感じ。


「それもこれも、主様のおかげなんです。主様のおかげで、私は自分の事を好きになれましたし、生きていていいんだと思えるようになりました」


「そういう点では、私も一緒ですね。自分の生まれを卑下していましたけど、認めてくれる人は、生まれなんて関係なく認めてくれるんだって、ハイトさんが教えて下さいました」


「きっと、シャルロットさんもカナエさんもジェーンさんも、一緒なんだと思います。各々で事情は異なるでしょうが、主様に救われた。その一点においては、きっと共通しているはずです」


 ハイトさんに救われた点では共通している。

 そう言われてみれば、みんながハイトに協力的なのも理解できた。

 個々人で差はあれど、その恩義を感じていたり、ハイトさんの側の居心地の良さがあったりするのだろう。


「ありがとうございます。色々と腑に落ちました」


「いえ、あくまで推論の部分もありますから。それに、同じ主に仕える身としては、やっぱり主様の良さを分かってもらいたいじゃないですか」


 気付けば、気まずさは消えて、私はすっかりと気持ちが晴れていました。


「おーい、悪いけど腕治してくれ。勢いに乗りすぎちまった」


 ちょうど食器を片付け終わった辺りで、声を上げながらこちらに向かってくるジェーンさんとハイトさんの姿が。

 腕を治してほしい、というジェーンさんの状態を見て、私はぎょっとした。

 彼女の左腕が、あらぬ方向に曲がっているのだ。

 間違いなく、骨が折れている。

 なんで痛がりもせずに平然としているのだろうか。


「調子に乗るからだ」


「いやー、今日はイケると思ったんだよなー」


 とりあえず、慌ててジェーンさんに駆け寄って、折れた左腕に触れる。

 そのまま彼女の左腕に魔力を流して、骨折の状態を確認してみれば、変な折れ方はしておらず、このまま治療しても問題無い様子だった。


「少し、痛いですよ」


 両手で彼女の左腕を掴み、折れた腕の骨を本来の位置へと戻す。

 普通なら、痛みで大抵の人は騒ぐはずだけど、ジェーンさんは平然としている。


「痛くないんですか?」


「いや、普通に痛えぞ? 大騒ぎするほどじゃねえけどな」


 どういう神経をしているんだ、と思えば、痛みは普通に感じているという。

 ただ単に、痛みの耐性があるだけかもしれない。

 全く、しょうがない人だ、と思いつつも、私はジェーンさんに祈術(きじゅつ)による回復を施すのだった。

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