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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり5人目⑱

「脱走した教皇が発見されました。どうやら、血染めの月(ブラッドムーン)に殺されたようです」


 特別警戒態勢を取ってから3日が過ぎた頃、帝国兵がそんな報告を持ってきた。

 教皇が死ぬ、という何とも言えない結果に、すぐに言葉を発した者はいなかったものの、やがて上司である皇帝が、大きく息を吐く。


「……多分、報酬で揉めて殺された、って所だろう。血染めの月は、契約を重んずると聞いている。大方、逃げ出して金の無い教皇が無理を言ったんだろうぜ」


「では、雇い主がいなくなったのなら、こちらからは手を引くのでしょうか?」


 連合国の代表が、脅威は去ったのか、と問い掛ければ、皇帝は思案顔をしてから肩を竦める。


「さてな。帝国内で奴らが関わった事例で言うのなら、その殆どは契約が切れた時点で手を引いている。だが、自分たちの脅威となる存在がいる場合はその限りではない。それこそ、王国のリベルヤ子爵は、奴らに対抗できうる可能性があるなら、狙われるかもな」


 皇帝から目線を向けられ、それから少し遅れてこの場の方々からの視線が俺に向く。

 やめてくれ、いらん事で目立ちたくないんだよこっちは。


「……ふむ。であれば、ハイトには一度戻ってもらうか。我々という重荷が無ければ、少数でも立ち回りやすかろう。どちらにせよ、応援を呼ぶのに誰かは戻さねばならぬしな」


「賛成だ。ある意味、囮にするようで申し訳ないがな」


「とはいえ、安全を考えればそうせざるを得ないでしょう。それに、血染めの月の首領に単独で抗えるというのなら、確かに身軽な方が彼も楽でしょうね。今回、我々を守っていただいた礼は、教国の対応が落ち着き次第必ずさせていただきますので、どうかご無事で」


 そして、あれよあれよという間に、俺が王国に戻って文官の応援を呼ぶ係に任命されてしまう。

 陛下だけならまだしも、3大国の長に揃って名案だと頷かれてしまっては、俺如きがどうこうできるはうはずもなく。

 ならば準備は早い方がいいだろう、と3大国の凄まじい連携で持ち帰る書状だったり、道中の物資だったりが準備されていくのだった。

 陛下に、厄介払いみたいな真似をしやがって、と恨みがましい視線を向けてみれば、視線でそっぽを向かれる始末。

 一応、罪悪感のある色は見えるが、避けられる危険は避けたい、という事なのだろう。

 一国の王ともなれば、リスクヘッジ能力も必要なものだし、しょうがないと理解はできるが、心が納得できるかは別問題だ。

 とはいえ、王妃様という最強のお守りがついているので、なんだかんだで俺がいなくても問題無いという気はするが。


「……陛下の仰せのままに」


 結局は、文句を言いたい気持ちをグッと堪えて、俺は下された命に従うしかないのだった。

 1時間もしないうちに書状やら物資やらが完璧に準備されてしまい、俺たちはそのまま馬車に揺られて帰路へ着く事に。


「……完全に厄介払いじゃねえか」


「わざわざ危険を引き寄せる存在を王の側に置くわけにはいかないですしねー」


 カナエに御者を任せ、急に帰る事になった理由を馬車内で語ってみれば、体のいい厄介払いに顔をしかめるジェーンと、王族側の考え方のわかるフリスさんが苦笑い、という反対の反応が見られたが、オルフェさんはそこまで政治に明るくないためか、頭上に?マークを大量生産している。


「ま、前向きに考えるならお荷物がいないと考えるのがいいだろうな。少なくとも、変に戦えない人間を守るような事をしなくていい」


「言うなれば、主様を守ればいいだけなので、私たちはかなり自由に動けますしね」


 発想の転換で、身を守るにしても自由に動けるというのはかなり大きい。

 陛下たちという荷物を抱えていると、さすがに取れる選択肢もかなり少なくなるし、最悪の場合、自分の身体を張って彼らを守らなければならないリスクもある。

 しかし、俺たちだけというのなら、そもそも帰路の行軍速度はかなり早められるし、仮に襲撃があったとて、全力で相手を迎え撃つ事も可能だ。

 

「どうして……どうして皆さんはそこまで気楽に構えられるんですか? 相手は帝国ほどの大国でも手掛かりを得るのでやっとな裏の実力者ですよ?」


 まあ、なんとかなるでしょう。

 そんな空気感の漂う馬車内で、オルフェさんが1人、半泣き顔で何かを訴えようとしている。


「ん~……これは感覚だけどよ。マズイ状況になったとしても、結局の所はハイトならどうにかしそうなんだよな。絶対に無理だと思ってたあたしの解呪だってどうにかしやがったし」


「そうですね。主様は死を受け入れていたはずの私をその淵から掬い上げて下さいましたし」


「オルフェだって、奴隷にされて教国に連れてかれそうな所をハイトに助けて貰ったんだろ? だったら、その片鱗くらいは感じそうなもんだがな」


 あっ、ジェーンとフリスさんからの信頼が重い。

 なぜか同調圧力をかけられて、オルフェさんはもうわけがわからない、といった様相。

 うーん、カオス。


「ま、オルフェは難しく考えすぎなんだよ。あたしらがどうにもできねえ時は、ハイトがどうにかしてくれる。逆にハイトができねえ事をあたしらがどうにかする。主従の関係なんてそれでいいんだよ」


 最後には、呵々大笑しながらジェーンが締めくくる。

 結局の所、それは自分のできない事は棚上げしているだけだからな。

 これが真理だ、みたいに偉そうにするのはどうなんだ。

 とはいえ、それが間違っているか、と言われれば、そうとも言い切れないのが難しい話で。

 特に新興とはいえ貴族家の当主となった今、俺ができる事には色々と制限がかかる事も増えた。

 貴族となった事で手が届く範囲が増えた半面、逆に貴族だからこそ手を出せない事もある。

 つまるところ、貴族であるのも一長一短ではあるが、それを補ってくれているのがシャルロットやカナエたちであり、そうして俺を助けてくれるみんなを守り、時に助けるのはまた俺なのだ。


「オルフェさんには俺たちにない祈術(きじゅつ)という強みがある。カナエには圧倒的馬鹿力があるし、ジェーンには圧倒的瞬発力。フリスさんには影という独自技術がある。そのどれもが、今の俺にとって欠かせないものだ。多分だけど、戦闘能力とかで突出したものが無くて、オルフェさんは不安なんだと思う。でもオルフェさんの祈術があるから、俺たちは前よりも大胆な行動ができるし、何よりも今は医療について学んで、俺たちの誰にもできない分野を深めてくれてる。給金のために頑張るでもいいし、俺が教国の陰謀から助けた事に恩義を感じてくれているのなら、それを返すためでもいい。頑張る理由は人それぞれだし、みんなと同じ理由で頑張る必要なんてないんだ。オルフェさんはオルフェさんの、頑張りたい理由で頑張ってくれればいい」


 ちょーっとクサイ話になったかなーと思っていたら、半泣き顔だったオルフェさんの両目から、ぼろぼろと大粒の涙が溢れ出す。

 え、待って。

 俺、泣かすような事言ったつもりないんだけど!?


「こんな私でも、ここにいて、いいんですか」


 焦る俺の内心を知ってか知らずか、しゃくりあげを頑張って堪えようとして、それでも堪えられない様子ながらも、オルフェさんは真っ直ぐに俺を見ている。

 さすがにここで俺が動揺するわけにもいかないというのは、火を見るよりも明らかだ。


「最初にも言ったけど、俺はオルフェさんの能力が素晴らしいと思って、給金を出して雇うだけの価値があると思ったから部下にしたんだ。身分なんて関係ない。出自だって関係ない。俺がその能力に、人柄に、価値があると判断したんだ。自分で自分を卑下する必要なんて無いさ」


「カカッ、違えねえ。それを言ったらあたしだってカナエだってシャルロットだって奴隷の身分だ。ハイトの下でやってくなら、そんな些細な事で気に病んでたら精神が保たねえぜ?」


「私なんて特殊奴隷ですよ? 奴隷の階級で言ったら下から数えた方が早いですよ?」


 俺に追随するように、周囲のみんなから励ましの言葉をかけられ、オルフェさんはついに声を上げて泣き出してしまう。


「うえぇ……みなざん、ありがどうございまずぅ……」


 盛大に鼻声になって豪快に泣きながら、オルフェさんは頑張って笑みを浮かべようとした。

 涙と鼻水でグチャグチャのその顔は、正直に言うと酷いものだったけど、それでも、彼女が俺の元で働くようになってから、ようやく彼女らしい表情を見せてくれたように思う。

 彼女がどういう思いで悩んでいたのか、正確に理解はできていないのだが、こうして素の表情を見せてくれたという事は、彼女なりに納得して着地点を見つけられたんだろうな。


「おーよしよし。泣きたきゃ全部出しちまえ。どうせ普段から色々溜め込んでたんだろ」


 涙と鼻水で自分の服が汚れるのも厭わず、ジェーンがオルフェさんをその豊かな胸元に抱き寄せて、ぐりぐりと頭を撫で回す。

 慰め方が子供にするそれのような気がするが、オルフェさんはそのままジェーンに身体を預け、声を上げて泣いている。

 もしかすると、今回のプレッシャーのかかる仕事で、今まで内に押し込めてきた様々なものが溢れたのかもな。

 そんな感想を抱きながら、姉御肌で面倒見のいいジェーンが、オルフェさんを慰めているのを生暖かく見守るフリスさん、といった微笑ましい光景を見て、俺は1人笑みを浮かべる。

 願わくば、彼女たちがこれから欠ける事の無いように、とこれから先の展望を想像しながら。

 もしかすると、いつまでも俺の元で働く事は無いのかもしれないけど、それでも彼女たちの将来の幸せの一助にでもなれるよう、俺も頑張らなくてはいけないな、と気持ちを引き締め直すのだった。

ちょっとキリのいい所まで書いたら長めになってしまいましたが、お楽しみいただければと思います。

次回はちょっとオルフェさん視点で補足になります。

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