ワケあり5人目⑰
「存外、すんなりといくものだな」
3大国が協力して教国クリーン作戦を発動して早1週間。
教国内で汚職に関わった関係者各位はそのほとんどがお縄に付き、国軍も制圧済み。
順次余罪の追及をしていく段階となっているが、これがまた新しい証拠が出るわ出るわ。
そのせいで、余罪の追及の方が大仕事になってしまっているほどだ。
「所詮は私腹を肥やすしか能の無い豚共だ。一般信者の民はとんだとばっちりだろうな」
各大国の代表が書類を捌きつつ執務をしているのを、リアムルド王国近衛騎士団と俺たちで護衛しているわけだが、先日の暗殺者も襲って来ないし、今の所は何も問題が起きていない。
正直、ちょっと拍子抜けするくらいである。
「しかしこの後の教国の統治をどうすべきかという問題は残ります。しばらくは我々3大国で管理しなければ、民たちは露頭に迷いましょう」
「そこが問題であるな。仮に最終的には自治に任せるにしても、1から人材を育成せねばならん」
「さすがに人数が人数なだけに、国だけ潰して終わり、とは言えぬわな」
3大国のお偉いさん方がああでもないこうでもないと、教国の後始末に奔走する中で、俺たちは特に何も起こらない場の警備をしているだけで、退屈なものだ。
とはいえ、ここで下手に口を挟んで余計な仕事を回されるのは勘弁、というわけで大人しく護衛の役目を果たしている。
「王国、帝国、連合国から各何人出せば教国の運営ができる?」
「おおよそ5人ずつ、併せて15人もいればひとまず最低限は動くでしょう。あとは教国の人間に運営のノウハウを学ばせつつ、最終的には自治してもらうのが一番では?」
「とはいえ、最初は罪人の処理で人手がいるだろう。オレたちが直接関わるにしても、このままじゃ時間がかかって仕方ない」
「各国で応援を呼ぶのが無難か」
手元の書類を高速で処理しながらも、3大国の代表者たちは口頭で議論を重ねていく。
というかさ、護衛でこの場にいるからしょうがない事ではあるんだけどもさ。
普通に国家機密とか聞こえちゃうんだが。
いやまあ、俺を含め関係者がお口チャックすればいいだけなんけど。
知りたくもない情報をあれこれと知らされるの、俺としてはただのマイナスポイントなんよ。
いっその事、耳を塞いでいようか、なんて考えていた矢先、この大部屋の扉が勢い良く開かれる。
入ってきたのは、帝国兵だが、顔色が明らかにおかしい。
「教皇が、逃げ出し、ました……」
よろよろとよろめきながら前へと進むも、帝国兵はそのまま前のめりに倒れ、動かなくなってしまう。
オルフェさんと共に、慌てて帝国兵に駆け寄るも、彼は既に事切れていた。
苦悶の表情で亡くなっている帝国兵だが、左肩の辺りに何かを刺されたような傷口が。
細くて鋭利なものでの傷だろう。
そう考えて、先日の暗殺者が握っていた、赤いレイピアを思い出す。
「刺し傷にこの顔色……血染めの月の仕業か。最近帝国で見ないと思えば、教国で活動してたんだな」
帝国兵の死に顔を見て、皇帝が忌々しそうに表情を歪める。
何かしらの因縁がありそうな反応だが、血染めの月とは、いったいなんだろう?
「王国では聞かぬ名だな。その血染めの月とやらは、一体どういう連中だ?」
どうやら陛下も知らなかったようで、その場で疑問を呈してくれた。
名前からして、血がどうたらこうたらみたいな感じはするが。
「連合国にも血染めの月の名は聞こえています。詳しいわけではありませんが、何でも、裏の界隈では最高峰の暗殺者集団だとか」
連合国の代表がそう論じれば、皇帝は無言で頷く。
「最初に動きがあったのは、先々代の頃か。国内で次期皇帝の争いが起こった際に、血染めの月の首領がたった一人で、その時の皇太子とその護衛200人をたった1晩で皆殺しにした。その時の死体は、全てがその兵士みたいに、異常な顔色をした状態で、鋭利な獲物で一突きされた傷跡だけが残っててな。血染めの月の夜の事件って帝国じゃ有名な事件だ。それから何度か帝国内で暗躍があったが、未だに奴らの尻尾は掴めていない。判明してるのは、首領は吸血鬼族の女、謎の毒で掠ったらほぼ死ぬ、得物は赤いレイピア、それだけだな」
吸血鬼族の女、赤いレイピア……うん、間違いなく先日俺が襲われた暗殺者の方ですねこれは。
相当な凄腕らしいし、俺がこうして命を拾えてるの、もしかしてかなり運が良かったのでは?
とりあえず、状況からハッキリしているのは、俺は血染めの月のターゲットに入っているという事と、今の血染めの月の雇い主は教皇だ、という事くらいだ。
「とりあえず、相当な手練れが教皇についている、という事はわかった。して、ここを襲ってくると思うか?」
「仮に来るとすれば、この場の戦力で抵抗する事はできる事はできますか?」
陛下と連合国の代表から問い掛けられ、皇帝は腕を組んで難しい顔をする。
「帝国側も選りすぐりの精兵を連れてきちゃいるが、確実に勝てるとは言い難いな。過去に1対200の物量差で圧倒している事実がある以上、そこらの兵で止められる存在じゃあない」
皇帝の言葉に、陛下と連合国の代表は顔を見合わせた。
少なくとも、帝国の戦力で止められるような個人に心当たりは無い、という事になる。
俺は国同士のそういった戦力に関する事には詳しくないが、今現状でわかっている事は、俺なら首領の魔眼に対抗でき、フル装備のカナエとは戦いを避けたがる、という事だ。
敵の数次第だが、首領単騎での潜入であれば、俺とカナエの2人で少なくとも抑えるか、撤退させる事くらいはできそうか。
「……ハイト、お前はどう思う?」
陛下から水を向けられ、俺はどうしたものかと逡巡する。
この場で何とかなるかもしれない、と口にするのは簡単だが、前回の襲撃時に相手が本気を出していない可能性だってあるのだ。
ただ単にタダでは済まなくなるからカナエを避けただけであって、カナエに勝るような実力者である可能性も大いにあるわけで。
「……一応、私なら首領の絡め手の一つには対抗できますが、それくらいですかね。何せ、先日襲われましたし」
俺が襲われた話をすると、陛下が目を丸くし、皇帝と連合国の代表は興味深そうにこちらを見た。
まあ、そうなるよね。
そもそもが襲われたという報告こそ上げたものの、相手についてはわからない事だらけだったから、女性の暗殺者だった、としか伝えてないし。
「敵の手口の一つでも、対抗策があるというのなら僥倖であるな。ハイトよ、より警戒を厳にせよ。少なくとも、敵の脅威が無いと確認できるまではな」
「陛下の仰せのままに」
うーん、やっぱり最大限に警戒しろって言われるよな。
そりゃそうだ。
抗える可能性がある戦力がいるなら俺でもそうする。
とはいえ、あまりやり合いたくない相手ではあるな。
ただ、陛下に命じられた以上はもう避けられないし、俺たちだけで追撃に行けと言われない事を願っておこうか。
相手の出方を伺う形であれば、少なくとも自分から死地に飛び込むような事は無いし。
頼むから、これ以上の面倒を起こしてくれるなよ、と密かに心の中で念じるのだった。




