ワケあり5人目⑮
「それでは、今回の会議を始めたいと思う。この度、教国には会場を提供してもらい、感謝を述べたいと思う。進行は提案者であるリアムルド王国国王、ウィズリアル・リアムルドが担当させてもらうので、よろしく頼む」
夜の襲撃から明け、俺たちは昨日の歓待があった部屋に集まり、会議へと参加していた。
陛下が声を張り、最初の挨拶をすると、ぱちぱちとまばらな拍手が起こる。
「さて、各国に跨る大きな問題があり、その対策について話したいという事は事前に通達していたと思うが、機密保持の関係で詳細は明かしていなかった。その点に関してはこの場で謝罪しよう。だが、万が一にも情報が漏れて証拠を消されたりするのが問題だったゆえに、その点は理解してもらいたい」
「前置きはどうでも良い。時間は有限だ。疾く議題を述べるが良い」
陛下が前置きを話していると、教皇がそれを遮り、とっとと会議を進めろと急かす。
横目で見ると、陛下のこめかみにうっすらと青筋が浮いていたが、とりあえずはこらえるようだ。
まあ、どうせこれから教皇はこの大衆の面前で公開処刑されるわけだしな。
わざわざ怒る意味もないか。
「では、教皇から催促もされた事だ。早速議題を上げるとしようか。まず一つ目の議題だが、我が国が教国より受けた被害の訴えをしたいと思う」
「何の議題かと思えば、また異な事を。我が国が一体貴国へ何をしたというのかね?」
あくまでも知らぬ存ぜぬを通すつもりらしく、教皇は余裕たっぷりの様子である。
さて、その余裕の表情がいつまで保つかが見物だな。
「挙げればいくつもあるのだが、最大の被害は、王国の民を不正な手段で奴隷へと堕とし、教国へと連れ帰るばかりか、故意に死なせた事だ。この件は奴隷共通法への違反であり、貴国にも適用される法律ゆえに、言い逃れはさせぬ」
高圧的に陛下が罪状を言い放てば、主に教国側の方からざわめきが上がる。
一方で、帝国や連合国からは特に驚きも無く、この辺りは事前の打ち合わせをしていたのだろうな、と思う。
「それについては我々帝国の方でも同様の被害が確認されている。まあ、王国や連合国に比べれば被害は少ないがな」
帝国側も同じ被害が出てるぞ、と声を上げたのだが、皇帝らしき男は、俺が昨日の夜に会った大男だった。
やはり、という気持ちと、どうしてわざわざ俺に声をかけてきたのだろうか、という気持ちが沸き上がるものの、今は関係の無い話なので、一度思考の隅に追いやっておく。
「同じく、連合国でも被害が確認されています。被害で言えば、我が連合国が一番大きいですね」
続いて、連合国代表者であろう、女性のエルフが声を上げる。
見た目からすると、そこそこいい年齢の外見に見えるので、相当なご長寿なのだろう。
パッと見だと大体40代後半に差し掛かったくらいの年齢だろうか。
人間よりも遥かに老いの遅い種族だから、下手をすれば数百歳は下らない気がする。
「いくら大国の皆様とはいえ、我が国を侮辱するにも程があります! 証拠も無しに教国を貶めようなどと、恥を知りなさい!」
3大国からそれぞれ被害の訴えが上がり、それに反応して教国側から勢い良く立ち上がり、激昂して見せるのは、緑色の髪をした若い女性。
右の側頭部に白い花が咲いており、その花からは蔦が伸びて、髪に絡み付いている。
外見的な特徴からして、樹霊族だろうか。
「聖女の言う通りだ。証拠も無く、我が国を貶めるのはやめて頂きたい」
続いて、教皇も誠に遺憾である、とばかりに不快な顔をして見せるが、そもそも証拠が揃っているから、こうして人が集まっているとはどうして考えないのだろう。
まあ、己の欲望を満たす事にしか興味の無い類の人間なのだろうな、とは思うが。
「証拠ならある。各国へこれを」
証拠を出してみろ、とのたまった教国側に対し、陛下は冷静に使用人を通して証拠の写しを配る。
事前に共有されていたであろう大国の面々は、特段驚く事も無かったが、教国側の人間はそれを見て驚愕の表情となった。
「配ったのは写しの書面になるが、原本は我々が保管しておる。大司教や枢機卿を中心に、各国で現地の民を違法な手段を用いて奴隷化し、己が欲の捌け口にした上で死亡させておる。これは奴隷共通法に反すると共に、我が国においては人的資源の侵害、そして殺人罪、誘拐罪に問われる。これについて、教国はどう償うつもりか? そちらの返答次第では、我々は武力行使も厭わない。必要とあらば、教国を地図から消してもいい」
ブチギレた陛下から、余計な言い訳なんかしたらてめえら滅ぼすぞ、と脅しがかかる。
次いで帝国、連合国も似たような罪状があると述べ、完全に3大国VS教国の図が出来上がってしまった。
こうなってしまうと、国力の上で教国には欠片も勝ち目は無い。
3大国に属さない国としては最大の領土と勢力を持ってはいるものの、大国1つと比べたら半分にも満たない程度だ。
いかに秘密兵器があろうとも、3大国との国力の差は覆らないだろうし、そもそも100倍レベルの数の暴力には敵わないはず。
そんな心境を表すかのように、証拠を提示された教皇は贅肉をプルプルと振るわせている。
その横で証拠を見せつけられた聖女とやらは、青い顔でこんなのは噓です、と呟いているので、どうやら見た目通りに頭がお花畑だったらしい。
聖女とか言われてるくらいだし、温室育ちだったのだろう。
「……この度は、部下が貴国らに無礼を働いたようで、申し訳ない。関係した枢機卿や大司教は首を切ろう」
言い逃れができないと悟ったのか、教皇は思いの他すんなりと罪を認め、頭を下げた。
ただ、関係者の首を切る、という対処しか述べなかったので、トカゲの尻尾切りなのは丸わかりである。
「首を切るのは当たり前だ。もしも貴国が首を切らぬというなら、武力行使でこちらから切りに行ってやるわ。それで、賠償はどうする?」
罪人を処すのは当たり前だ、と前置きをしてから、陛下は賠償をどうするつもりだと凄む。
うん、怒りのオーラが見えそうなくらい陛下が激おこですね。
というか、昨日の話し合いではここまで激しい言い方はしない予定だったんだけど。
どうやら、教皇の態度が気に障ってブチ切れたっぽいな。
よしいいぞ、もっとやれ。
そんでこの勢いでオルフェさんの出番がないくらい、追い詰めてしまえ。
陛下ブチ切れの巻。
普段温厚な人は怒らせると手に負えなくなります。
これは大体そうだと思います。




