ワケあり5人目⑩
クスティデル近衛騎士団長の初登場時に、フルネームの記載を忘れていたので、過去分に追記しました。
ですので、今回は前に名前が出た体で進めておりますのでご了承ください。
「……これさ、あたしらの事をゴミ掃除代わりにされてねえか?」
「無いとは言い切れないのが教国だよなあ」
教国首都のサンクリドを目前に、総計20回目となる野盗の襲撃を片付け、ジェーンがボヤいた。
この20回の襲撃は全て天然物の野盗であり、教国側が俺たちに打撃を与えられないと判断し、それなら国内を掃除してもらおう、なんて考えで天然物の野盗に情報を渡して襲わせていたのではないか。
そんな予想すら成り立つほどの野盗の多さである。
当然、襲撃の度に進行の足は止まるし、国境からここまで来るのに1週間を要したほどだ。
俺たちだけの時は、というか順調にいけば3日くらいで着くはずの距離なだけに、もうげんなりである。
「何かこっちに来るな」
もう襲撃は勘弁してほしいな、と思いつつも、遠目にこちらへと向かってくる一団に目を凝らす。
野盗、ではないな。
全員が騎兵だし、装備がかなりしっかりしてて統一されてる。
あれは教国軍かもしれないな。
騎兵のみで編成されているだけあって、その一団はすぐに俺たちの元へとやってきた。
およそ100騎で編成されたその集団は、俺たちから5メートルくらい離れた所で足を止め、集団の中から装備が少し豪華な1騎がこちらへと向かってくる。
「貴公らはリアムルド国からの来客とお見受けする。相違ないだろうか?」
全身をフルプレートの鎧に包んだ男から、少しくぐもった声で問いかけられた。
教国側からのお迎え、という事だろう。
まあ、それにしちゃあ来るのがおせーよって話なんだが。
「ええ、間違いありません」
「遠路はるばる、よくぞいらした。ここからは我々が護衛に付こう」
何が護衛に付こうだ。
もう1時間も移動したらサンクリドじゃねえか。
ここまでの道中を思えば、文句の一つも言いたくなったが、ここで問題を起こしてもしょうがないので、ぐっと堪えつつお願いしますと返答を返す。
…
……
………
「……ようやく到着であるな」
教国軍の騎兵が来て以降は、さすがに襲撃に遭う事も無く、すんなりとサンクリドへ入る事ができた。
さすがに貴賓扱いされているのか、近衛騎士団用に大きな宿を貸し切りにしてくれて、陛下を始めとする俺たち貴族組は大聖堂の中に宿泊する事に。
貴族には1人1部屋、その隣に従者用の部屋が1部屋、という割り当てで各部屋に案内され、それから一度陛下の部屋に集合と相成った。
俺、レマイア侯爵、メンディ伯爵、クスティデル近衛騎士団長が集まった所で、陛下は疲れた顔で呟く。
「とりあえず、この部屋の周囲に怪しい者はいませんし、間諜もいないでしょうから、ひとまずは安心していいかと」
「とはいえ、念には念を入れておくべきであろうな」
ひとまずは安心してもいい、というクスティデル近衛騎士団長の言葉に対し、陛下はあくまで安全策を取るべきだろう、とこちらに目配せをしたので、俺は無言でうなずき、部屋の中に遮音の魔術をかける。
これで外に音は漏れないし、外からの音は聞こえるようになった。
「エイジス、ハイト、まずは道中の護衛、ご苦労だった。特にハイトは少ない手勢で良く先行警戒と露払いを担ってくれた」
陛下から護衛を担当したクスティデル近衛騎士団長と俺に、労いの言葉がかかる。
ありがとうございます、と手短に会釈をすれば、陛下は一つ頷いて、次の話題に移っていく。
「ここからは我々の仕事が主になる。気合いを入れてもらうぞ。ジャン、グレゴリオ」
「言われるまでも無い」
「ええ、全力を尽くすわ」
ここにいるメンツはもう身内扱いなのか、レマイア侯爵とメンディ伯爵は特に言葉遣いや態度を取り繕っていない。
特に気負っている様子も無いし、心配は必要無さそうか。
これから会議に向けてあれこれ話し合いだな、と思っていた所に、部屋の扉がノックされる音がしたので、この場の全員に一瞬で緊張が走る。
「何用か?」
一瞬の沈黙の後、俺が遮音の魔術を解除したのを見計らって、陛下が誰何の声を投げかけた。
「教皇様から伝言でございます。入室してもよろしいでしょうか?」
柔らかい男性の声で入室を求める声があったので、俺たちはお互いに視線を交わしてから、無言で頷く。
「入室を許可する」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
一拍置いてから部屋に入ってきたのは、本部の黒い神官服を纏った中年くらいの男性で、立場的にはヒラかヒラの統括といった辺りの役職だろうか。
伝言があるとか言ってたので、会議の事かな?
「先ほど会議に参加される各国の皆様がお揃いになりましたので、今宵は歓待の宴を催し、明日の午前中から会議に入りたいと教皇様が仰っておりました。皆様はそれで問題ありませんでしょうか?」
「うむ、我が国はそれで問題ない。教皇によろしく伝えてくれ」
「かしこまりました。それでは、御前を失礼いたします」
要件が済むと、神官の男性はすぐに引き上げて行った。
他の国の方々も無事到着したらしいし、会議は無事に開催されるようだ。
差し当たっての問題は、今夜の歓待の宴とやらかな。
教皇からの使者が去った後、陛下から目配せがあったので、俺は再度部屋の中に遮音の魔術を施す。
「さて、今宵の歓待の宴だが、余は各国の王と接触したいと思う。事前に手紙でのやり取りはしておるが、やはり最終確認は必要だと思うのでな。エイジスは基本的に全体に目を光らせておいてくれ。身辺警護はハイトに任せる。ジャンとグレゴリオは共に来るように」
陛下の采配は、理に叶っているだろうと言える。
歓待の場には当然、武器など持ち込めないし、有事の場合にその場で魔術という武器を使える俺は護衛にうってつけだ。
経験豊富なクスティデル近衛騎士団長が全体を警戒し、社交のほうは陛下とレマイア侯爵とメンディ伯爵で行うという形である。
あとは各貴族の側仕え数名が会場に入れるくらいだろうか。
俺で言えばカナエとジェーンとオルフェさんのうち、1人か2人くらいは帯同が許されるだろう。
この場合は誰を同行させるかは迷う所だな。
毒殺なんかがあり得るから、その辺りを考慮するなら俺とオルフェさんが無難だろうか。
ジェーンは言葉遣いやキレやすさ、カナエは絶対に料理に意識が行くだろう、と考えると、むしろ消去法でオルフェさんしかいないな。
フリスさんは前回の教国入りの時に顔が割れている可能性があるし、そもそも放っておいても勝手に忍び込みそうだし。
「すまんがエイジスはこのまま護衛を頼む。ハイトは今まで疲れたであろう。歓待の宴までは身体を休めておけ」
「はい、お気遣いありがとうございます。それでは、一度失礼しますね」
陛下から、襲撃の際にほとんど実働の無かったクスティデル近衛騎士団長は残留が確定し、俺はいくらかの休憩が許されたので、お言葉に甘える事にして陛下の部屋を辞する。
自分の部屋に戻ると、護衛を担当しているのであろう、ジェーンが中にいた。
「どうした? 忘れ物か?」
「いや、休憩だよ。今夜の歓待まで休憩していいって言われたんでな」
「そうかい。それなら少し寝といたらどうだ? まあまあ酷いツラしてんぞ」
「そうするよ。ひっきりなしに襲撃が来てたから、ロクに休めてないしな。1時間くらいしたら起こしてくれ」
「わかった。あたしらも交代で仮眠取るから、残りの連中にも伝えとく」
「頼んだ」
ジェーンと会話をしてから、部屋のベッドに飛び込む。
行儀が悪いが、文句を言うような従者もいないので、問題は無い。
想像以上に疲れていたのか、すぐに俺は意識を失った。




