ワケあり5人目⑨
「来たぞ! さっそくお出迎えだ!」
「なるべく後ろに通すなよ! あと、カナエは道を壊さないようにな!」
教国の国境を越え、30分もしないうちに野盗の襲撃が発生。
数はおおよそ100人といったところか。
野盗としてはかなり大規模だが、これは天然物と養殖物のどっちだろう。
そんな事を考えつつ、大盾を構えたカナエを先頭に、俺たちは野盗へと突貫していく。
「ひゃっはぁ! いい女たちだ! 装備諸共美味しく頂いてやるぜぇ!」
「なるほど、天然物の方か。ま、どっちにしても襲い掛かってくるなら遠慮はいらん」
先頭の方にいる頭と思しき男の発言からして、天然物の野盗のようだった。
養殖物の方だったら、そもそも最初に降伏するように声をかけてくる事が多いし、動きが組織立っている。
今回の野盗は動きもてんでバラバラだし、練度も大した事が無さそうだ。
「鬼月旋」
先頭で突き進んでいたカナエが、その勢いのままに右手の重力の大斧鎚を横薙ぎに振り抜く。
カナエの圧倒的フィジカルでもって振り抜かれる、超重量武器からの一撃が普通であるはずもなく、直接武器が命中した野盗は胴体ごと切断され、振り抜かれた武器から扇状の延長線にいた大勢の野盗は、その衝撃波によって大きく吹き飛ぶ。
半ば無双ゲームのような一撃だが、これでカナエは全然本気じゃないのが恐ろしい。
というか、人間相手にはオーバーパワーすぎる。
「な、なんだこいつ!? 無茶苦茶すぎる!」
「逃げろ! こんなのとやりあったら命がいくつあっても足りやしねえ!」
100人くらいいたはずの野盗たちだが、当然ながらおよそ半数以上が一撃で死ぬか戦闘不能。
そんな圧倒的なパワーを見せつけられれば、野盗なんかが怖気づいて逃げ出すのは当たり前で。
まるで蜘蛛の子を散らすようにして散り散りに逃げ出していく。
が、そうなった瞬間に輝く味方もいる。
「ハッ、逃がすかよ!」
「狙われるのは、群れからはぐれた個体からですよ?」
強襲の得意なジェーンと、元より暗殺や闇討ちの得意なフリスさんが、散った野盗たちを次々と確固撃破していく。
ちなみに、生き残りが出てもロクな事にはならないので、降伏した場合を除いてこうした輩は容赦無く殲滅するようみんなには指示している。
残る俺とオルフェさんが出る間もなく、野盗たちの阿鼻叫喚が木霊していき、おおよそ10分もしないうちに襲ってきた野盗たちは物言わぬ骸となった。
いやー、ほんとにカナエの対集団戦のパワーが無法すぎるわ。
並の兵士なら一人で完封できるだろうな。
何せ武器一振りで数十人の兵士は余裕でおだぶつだし、周囲への影響を考慮せずにフルパワーを出せる場合、恐らく百人くらいは一撃だ。
かといって少数精鋭で抑えこめるようなものでもないし、一番有効なのは遠距離攻撃でその場に封じ込める事だろう。
それをできるかどうかはまた別問題なのだが。
「……皆さん、容赦ありませんね」
俺の横にいたオルフェさんが、目の前で行われた一方的な殺戮に目を伏せる。
まあ、ソロでC級冒険者まで上がったんだし、人を手にかけた事が無いわけではないだろうけど、こういった野盗を根こそぎ殲滅、みたいなのはソロだと難しいから、経験も無いのだろう。
とはいえ、犯罪者をのさばらせておく理由も無いし、今回は特に犯罪者をわざわざ連れ歩くような余裕も無い。
となれば、処理するしかないのだ。
こちらとしては正当防衛ではあるし、そもそも国内に他国の王族を招く時点で、こういったトラブルを未然に防がなければならないのは教国側の方なのだが。
「降伏してきたなら別だが、あくまで野盗をやめるつもりが無いような連中だからな。もちろん、野盗にならざるを得ない理由があったのかもしれないけど、それはそれだ」
襲い来る野盗に毎回その理由を尋ねるわけにもいかない。
やむを得ない理由のあるなしに関わらず、犯罪行為を行っているのは向こうなのだ。
「……確かに、最初から武器を持って襲ってきたのはあちらですね」
「その行為に罪悪感を持ってて、大人しく降伏して捌きを受ける、なんて潔いヤツは野盗になんてならない。せいぜい、街中での窃盗くらいなもんだ。中には本当に何らかの理由で嫌々、なんて事もあるだろうけど、それはとても珍しい形だろうな」
特にやる事なく野盗の襲撃が終わってしまったので、俺とオルフェさんはただ喋っているだけになってしまった。
それからフリスさんが残存している敵勢力がいないかの確認を終えた時点で、みんなで倒した野盗の遺体を一か所に集めて、火葬してしまう。
放っておけば疫病ならなんやらで、ロクな事にならないし。
当然、これの処理が終わるまでは足止めである。
「ったく、初っ端からこれじゃ、先が思いやられるぜ」
オルフェさんが集めた野盗の遺体を火葬しているのを眺めつつ、ジェーンが忌々しそうにボヤく。
前回も国境を越えてすぐにトラブルあったしな。
その時はこっちから敵の掃除に行ったくらいだから、まだマシではあるのだが、こうもトラブルが多いと面倒な事この上ない。
「リベルヤ子爵、応援は……不要そうだな」
「ええ、見ての通り」
馬に乗って、クスティデル騎士団長が単騎、こちらへ駆けてきたのだが、到着するなり、ほぼほぼ後処理が終わっているのを見て、彼は苦笑いを浮かべる。
「おおよそ100人程度の野盗の襲撃でした。まあ、たかが素人相手にやられやしませんよ」
「普通はたった5人で100人の野盗を撃滅などできないんだがな」
何を言っているんだお前、という視線を向けられて、俺は肩を竦める。
これに関してはカナエという規格外戦力の存在が大きい。
初撃で100人中のおおよそ半分を持っていったからなあ。
それから相手がすぐに散り散りになったおかげで、殲滅戦に移行するのも早かったし。
「そこは部下に恵まれてますので」
「……今からでも部下共々近衛騎士団に来ないか?」
「ははは、やめときますよ。そもそも、陛下が俺の事を手放さないと思います」
「それもそうだな」
クスティデル近衛騎士団長の割とガチめの勧誘も、陛下が許可しないだろうと言えば、彼は納得したように引き下がった。
こちらに応援の必要が無い事を確認し、彼はそのまま陛下たちの馬車の方へ引き返していく。
おおよその状況と敵の規模も伝えたから、簡易報告も上げてくれるだろう。
呼び出しがかからない限り、俺たちは予定通り先行警戒と障害の排除に邁進すればいい。
「さて、まだ先は長いからな。みんな、油断せずに行くぞ」
これからの何回襲撃を受けるかな、と憂慮しながらも、気を引き締めるべくみんなへと声掛けして、俺もまた気を引き締めるのだった。




