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ワケあり0人目⑫

「ハイト! 目を覚ましたか!」


 翌日。

 何時頃に起きたかはわからなかったが、上半身を起こせる程度には身体が回復していた。

 まだ痛みはあるが、歩こうと思えば歩けるだろう、という程度か。

 そうなって初めて、身体が空腹を訴えたのだが、昨日のギルドの職員がスープを持ってきてくれて、とりあえず空腹を満たした。

 ちなみに具がグズグズになるまで煮込みに煮込んだスープだったので、あまり食べた感じはしなかったが、野菜の味が溶け出していて美味しかったし、起きたばかりの胃には優しかったのだろう。

 そんな状態で、食休みを挟んだ後くらいに、ギルバート氏を先頭にしてフィティルの面々が病室に来たのだった。


「おかげさまで、無事に帰ってこれました」


 間違いなく、俺が生きているのはフィティルの面々のおかげだ。

 全力の感謝を込めて、頭を下げる。

 これであの場に放り出されていたら、俺は今頃ハイオーガ共の胃袋の中で消化されていた事だろう。


「礼を言うのはこちらだ。お前は俺たちパーティーの命の恩人だ」


「そうだな。もっと誇っていいぜ?」


「私、先輩なのにみっともなかったわよね」


「元気になって良かったよー」


 やいのやいのと、フィティルの面々が思い思いにお礼を述べてくる。

 さて、詳しい話をすると言ったし、話す事そのものはいいとしても、あまり不特定多数に話を漏らしたくはないんだよな。


「少し外してもらえるか? 何かあればすぐに呼ぶ」


「……わかりました。あなたなら大丈夫とは思いますが、くれぐれも、患者の負担になるような事はしないで下さい」


 俺の心情を察してくれたのか、はたまた最初からそのつもりだったのかはわからないが、ギルバート氏がギルド職員を外に追い出した。

 続いて、ギルバート氏がローザさんに目配せをすると、ローザさんが魔術を発動させる。

 部屋の外に音が漏れないようにするための、防音の魔術だ。


「これで遠慮なく話せるだろう?」


「ご配慮いただき、感謝します」


 防音対策を施してくれた事に礼を述べてから、どう口火を切ろうか考える。

 とはいえ、ありのままを話すしかないのだが。

 まあ、前世の記憶がどうのというのは話さなくてもいいか。

 普通の人なら頭がおかしくなったと判断されるだろうし。


「これはここだけの話にしてほしいんですが、俺は覚醒能力があります」


 覚醒能力、と聞いた時点でリディアさんを除いた三人は目を見開く。

 彼女だけは首を傾げて?マークを浮かべていたが。


「簡単に言えば、鑑定のような事ができます。細かく言うと、皆さんのフルネーム、年齢、身長、体重、健康状態、数値化した身体能力、特殊技能あたりが見られます」


「ええーっ!? そしたら、最近ちょっと太ったのバレちゃったー!?」


 深刻そうな顔をしながら、至極どうでもいい(本人的には一大事なのかもしれないが)事を口走るリディアさんのマイペースぶりに苦笑いしながら、特に質問なんかが上がって来ないのを確認して、話を進めていく。


「ですので、最初にギルバートさんとリディアさんが苦戦しだした辺りですぐに敵の鑑定をしました。視界に捉えてさえいれば、能力は有効ですので。そこで相手がハイオーガ変異種である事がわかり、属性耐性があるので属性攻撃は大半の威力が削がれてしまう事を確認しました。この時点で無属性魔術を使えないならローザさんは役に立たない上に、一刻を争うと判断したので、かなり厳しい言い方をしてしまった事は申し訳なかったです」


 少し遠回しにあの時はすまん、と伝えると、ローザさんは少し困った表情で小さく首を横に振った。

 とりあえずは気にするな、といったところだろうか。


「あとは一度ハイオーガの群れを崩す必要があると判断して、現状で最も効果があるであろう魔戦技(マジックアーツ)を使って敵集団を混乱させ、そのまま前衛の救助に向かった次第です。合流タイミングでリディアさんの救助が間に合ったのは、僥倖でしたね。あと数秒遅れていたら、間に合いませんでしたから」


 まあ、あまりにもギリギリだったので相当無茶をするハメになりましたが、と補足すると、リディアさんを除く三人が苦笑いを零す。

 リディアさんはリディアさんで、あの時は助かったよー、と頭を撫でてくる。

 とりあえずリディアさんは好きにさせておく事にして、さらに続けていく。


「合流してからは、極力魔力の消費を抑えて回復を促しつつ、皆さんと一緒に後退したわけですが、最後の一押しが来た際にはそのまま離脱するのは無理だと判断しまして、ギルバートさんが捨て身で殿をしようとしていたので、俺が足止めを買って出ました。まあ、結果は知っての通り、魔力が枯渇して気絶してしまい、締まらない事この上無かったですが。それで、こうしてギルドの医療施設まで連れ帰って頂けて、多少ダメージこそ残っていますが、五体満足で生き延びられた、といった所です」


 そう言って、俺が話を締めくくると、ギルバート氏が無言で深く頭を下げた。


「ちょ、頭を上げて下さい!!」


 別に頭を下げられるほどの事はしていないと思っていたので、慌てて頭を上げてくれと言っても、彼は頑として頭を上げようとはしない。


「ハイト、お前がいなかったら、俺たちは誰一人として生きて帰れなかっただろう。改めて、本当にありがとう。おかげで、誰も怪我せずに帰ってこれた」


「それについては俺も、こうして連れ帰って頂いたので、一方的に頭を下げられるような事じゃないですよ」


「それでも、だ。経験も実力も、俺たちの方が上だったのに、お前がいなければ、全滅していただろう。事前情報があまり無かったとはいえ、オーガ程度、と経験則で無意識に侮っていた所もある」


 頭を上げずに、淡々と話すギルバート氏の方は、僅かに震えている。


「俺たちは、一歩間違えば将来有望な冒険者を殺す所だった……! 無意識に慢心していた事よりも、その事実ただ一つが、ただただ悔しいばかりだ……」


 きっと、ギルバート氏は罰が欲しいのだろう。

 新人の経験になれば、と同行者を募ったはずが、一歩間違えば自分たちごとその新人を死なせるかもしれなかった。

 確かに、自分の選択一つで他人が死ぬ、というのは恐ろしい。

 逆の立場だったら、と考えると、俺も……。

 けれど、ギルバート氏の新人を指導する姿勢は見習うべきものだし、今後の冒険者という職業に必要なものだ。


「だとしても、俺はギルバートさんの新人を導こうとする姿勢は、大切だと思います。俺も、今回の件で色々学ぶ事ができましたし、それは今後に間違いなく生きていきます。今回は色々な要因があって、失敗だったのかもしれません。ですが、ギルバートさんたちもそれを糧にして、より新人を導けるようになるはずです。だって、俺よりも、ずっと長く冒険者を続けている大先輩なんですから」


 ちょっとクサいかな、と思いつつも、素直な気持ちをぶつけた。

 すると、勢い良くギルバート氏が頭を上げる。

 その両目には、僅かに涙が滲む。


「……全く、存外に厳しい事を言う。これでは、落ち込んでいたのがバカみたいだな」


「素直な気持ちを語ったまでですよ。俺にとって、ギルバートさんは偉大な先輩なんですから」


 あまり怪我人の部屋に長居すべきじゃないな! と誤魔化すようにして、ギルバート氏とパーティーメンバーたちは、帰っていった。

 帰り際、リディアさんに背中をポンポンされていたギルバート氏の目から、涙が溢れていたような気がしたが、見なかった事にするのが情けというものではないだろうか。

 もしかしたら単純に見間違えかもしれないけど。

 とりあえず、話したい事は話せたかな、と安心すれば、まだ身体が本調子じゃないせいか、急激に眠気が襲ってきたので、大人しく寝る事にした。

 入院費、いくらだろうなあ……なんて小市民じみた事を考えながら、俺は再び眠りに入る。

 ぼったくり価格じゃないといいなあ、と願いながら、意識を手放した。

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