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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり4人目㉑

今回もフリス視点です。

「いがみ合ってもどうにもならないでしょう。まずは正確な診断をしないと。でしょう?」


 雰囲気が険悪になりかかっていたので、少し声を張って3人を窘めてみれば、自覚はあったのか、各々少し落ち着くように、深呼吸や両目を閉じたりといった行動に移る。

 とりあえず、どうにもならないくらいパニックというわけではなかったようで。

 少しだけホッとしつつ、簡易ベッドに横たわるリベルヤ男爵に目線を移せば、血色はそこまで悪くなく、呼吸も規則的で安定状態。

 確かに全身から血が滲んではいるものの、すぐにどうこうという事はなさそうですね。


「私は意識を失っていたので、状況がわかる方がいれば、教えて頂けませんか?」


 いくらか気持ちを落ち着けたであろう3人を見回しつつ、説明を請うてみれば、ジェーンさんが一つ頷いた。


「あんたがサンクリドに残ってる間、別行動でよくわかんねえ魔物を対処しに来てたまでは知ってるよな。それから先になるが、ある程度問題の魔物を追い詰めた所で、ハイトが何かの異変に気付いた。まあ、あんたの事だったんだろうが、そこでハイトがオルフェを連れて離脱したんだ。んで、ちょいと時間はかかったものの、あたしとカナエは2人で魔物を倒して、とりあえずサンクリド方面に移動してた所で、馬車の中にいきなりハイトとオルフェとあんたが落ちて来たんだよ。カナエは荷馬車の方を移動させてたから、最初に異変に気付いたのはあたしだな。あんたは意識を失ってるし、ハイトは全身から血ぃ出してるしで、タダ事じゃねえのはすぐにわかったから、その時点ですぐに夜営のできる場所に馬車を停めて、簡易ベッドを作ってオルフェに処置を頼んだんだ。そんで、あんたが意識を取り戻して馬車から出て来た。それが今の所の顛末だな」


 なるほど、話を聞く限りでは、まだそれほど時間は経っていないようですね。

 あとは実際に治療に当たっていたシスターオルフェの話を聞きましょうか。


「シスターオルフェ、リベルヤ男爵の処置に当たって、何か違和感などありませんでしたか?」


「違和感と言えば、サンクリドに向かう途中ではそんな事は無かったのに、さっきは祈術(きじゅつ)をかけても術そのものが弾かれるような感覚がありました。まるで、ハイトさんの身体が治療を拒否しているような……」


 そういえば、以前のリベルヤ男爵の活動記録を師匠に見せてもらった時に、魔力枯渇による身体の暴走を止める秘薬を奇異の魔術師(トリックスター)が処方した、という記録がありました。

 という事は、今回の件もその辺りが関係しているかもしれません。

 奇異の魔術師と言えば、王都どころかリアムルド王国全土を見ても、知らない人を数えた方が早いくらいの稀代の天才魔術師。

 彼をもってしても、魔術での治療が不可能だった、と考えれば、秘薬を処方したというのも納得がいきますね。

 秘薬は生憎と内容の記録が残されていませんでしたが、状況からして、魔術や祈術による治療は不可能と考えた方がいいでしょう。


「ここからリベルヤ男爵を詳しく診察したとして、対処はできそうですか?」


 対症療法なり、なにかしらの治療なりの中心になるであろう、シスターオルフェを中心に、3人に視線を巡らせてみれば、そういった知識があまり無さそうなジェーンさんとカナエさんは横に首を振り、シスターオルフェは悔しそうに俯いてしまいました。

 なるほど、現状では打つ手無し、という事ですか。


「……一つだけ、効果がありそうな治療法があります。ただ、命の危険がありますので、それをするかどうかは皆さんの判断に任せます」


 私の持つ知識で、今のリベルヤ男爵を救えそうなものが一つだけありますが、相当に危険を伴うものですので、どうするかはお三方の判断に任せるしかありませんね。

 一応、症状そのものは比較的緩やかですし、今から急いでリアムルド王国に引き返して、どこか専門の所で治療する、というのも一つの選択肢でしょう。

 もっとも、容体が急変する可能性もあるので、悠長にしている余裕があるのかどうかは不明瞭ですが。

 当たり前ですが、命の危険がある、と前置きした方法を試すべきかどうか、お三方は迷っているようで。


「……どんな方法? 助かる見込みは?」


 私が治療法の提案をしてから、僅かな沈黙を破ったのは、カナエさんでした。

 無表情ですが、その目には僅かに怯えが見えるような気がします。


「色々と危ない物なので、あまり詳しくは話せませんが、とある毒を用いようと思っています。それを薄めに調合して、リベルヤ男爵に飲ませるんですが、上手くいけば今の症状を中和できると思います。毒と薬は紙一重、と言いますしね。ただ、先ほど言ったように、元々は人なんて簡単に殺してしまう強烈な毒ですので、命の危険はどうしても伴います。確率は……そうですね。助かるのは2割あるかどうか、といった所でしょうか」


 本来は暗殺に用いるような、強烈な毒ですからね。

 それほど希少な素材を使わない割に、その効力がえげつないのですが、必要な素材が多いのと、調合に手間がかかるのが難点でしょうか。

 完成してしまえば、毒殺の証拠すら出ないというとんでもない代物なので、師匠から他人に教えてはいけないと言われていますが、まあ、製法がバレなければ大丈夫でしょう。

 素材そのものは簡単にそこらで集まるような物ばかりですしね。

 以前の症例を鑑みるに、術関連での治療は効かないだろう、という推論を伝えようかどうかは迷いますが、逆に暗殺を疑われるのも面倒ですし、言わないでおきましょうか。

 私個人としては、もうこの手段しかないと思ってはいますが、果たしてお三方はどのような判断をするのでしょう?


「私は反対です。それなら症状が緩やかなうちにリアムルド王国に戻る方が可能性があると思います」


「……あたしは迷ってる。今はまだ酷くないが、もしかすると急に症状が悪化する可能性もあるよな? フリスの提案の準備だけしておいて、様子見しながらリアムルドに戻る、ってのも手だと思うぜ?」


 私の提案は、シスターオルフェが反対、ジェーンさんが折衷案、カナエさんは私をじーっと見つめて、沈黙を保ったまま。

 自分の意見を言ったお2人も、自然とカナエさんへと視線が向いていますね。

 彼女の決断を待つ時間は、体感では長く感じましたが、実際はどうなのでしょう?


「……一応聞いておく。フリスはハイトを助けるつもりでいるって事で間違いない?」


 無表情ながら、私の事を見通そうと、カナエさんの視線がじーっと私の目を捉えて放さない。

 万が一にも、暗殺なんて企てていませんね?

 彼女の視線にはそんな感情が籠もっているような気がします。

 もちろん、そんな気は欠片もありませんし、リベルヤ男爵には生きて貰って、私の主になってもらわないといけませんからね。

 そんな万が一なんて、あるわけがないでしょう、と真っ向からカナエさんの目を見つめ返す。


「ええ。もしも失敗したら、その場で首を刎ねてもらって構わないですよ」


 リベルヤ男爵という使えるべき主を見つけたのですから、今さら命なんて惜しくありません。

 影は主のために身命を賭するものですし。


「……わかった。治療には何が必要?」


 カナエさんと見つめ合う事しばし。

 体感では10分くらいかかったような気がしましたが、残るお二方が急かしてくるような事もないので、そんなにはかかっていないのでしょう。

 カナエさんは無言で頷くと、私の提案に賛成とばかりに立ち上がりましたね。


「おいカナエ、何だってそんな博打すんだよ!?」


「そうですよ! まだ助からないと決まったわけでは!」


 そんな彼女に焦って声を上げるお二方。

 傍から見たらそうなるのも当然ではありますね。

 何せ、提案した私自身も、今はこの方法くらいしか有効な方法が無さそうだから、という理由ですし、正解などわかりません。

 とはいえ、低くとも可能性があるのは間違いありませんし、いざとなったら打つだけの価値がある博打だとは思っています。


「多分、リアムルドまでは間に合わない。前にも似たような事があった」


 カナエさんの言葉に、顔を見合わせるジェーンさんとシスターオルフェ。

 そういえば、この3人の中では、カナエさんが最古参でしたね。

 とはいえ、その差は1ヶ月~数か月程度なものなはずですが。

 彼女が言う、前にもあったというのは、恐らくは港町シトランの1件でしょう。


「……わーったよ。お前がそこまで言うなら信じるぜ」


 どうすれば2人を説得できるか、と考え込むような表情のシスターオルフェと、ただジッとカナエさんと見つめ合うジェーンさん。

 しばし見つめ合った後、肩を竦めつつも、ジェーンさんが立ち上がりましたね。

 お2人の判断が理解できない、といった様子のシスターオルフェは完全に置いてけぼりといった状況ですが、恐らくは賛成過半数、という事でこのまま動く事になりそうです。

 この後の動きを、考えないといけないですね。

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