ワケあり4人目⑰
「よし、効いてるぞ」
ジェーンの追撃に悶えるようにして、腐肉スライムは蠢いていたものの、さらなる追撃を加えようとした時には態勢を立て直しており、全身を装甲で覆ってしまった。
完全に殻に籠るの態勢だ。
この状態からどうやってひっくり返そうか。
「気を付けて下さい! 魔力の高まりを感じます!」
俺も同じ注意を促そうと思っていた所、少し早くオルフェさんが声を上げる。
腐肉スライムも手負いになって、本気を出し始めたという所だろうか。
「防御態勢! オルフェさんも防御支援を!」
とりあえず、何をしてくるかわからないが、相手に攻撃が通らない状態である以上、こちらも守るしかない。
カナエを最前列に置き、その後ろに俺たちが固まって守る範囲を狭めておく。
「竜王鱗の防護!」
「魔術反射!」
オルフェさんの防御祈術、俺の魔術反射の魔術でさらに防御を固め、腐肉スライムの出方を伺う。
腐肉スライムが取ってきた行動は、大きく口のような部分を開ける事だった。
何をする気だ、と考えようとした瞬間に、その口のような部分に大きな魔力が集まっている事に気付く。
その直後には、口からビームのような魔力の奔流が迸る。
青白く輝く魔力の奔流がカナエの大盾にぶつかるも、彼女は一歩も引かずにそれを受け止めて見せた。
受け止めた魔力は、カナエの大盾から拡散するように逸れているが、その出力はとんでもない。
人間など、塵も残さず消し去るであろう強烈な奔流だ。
体感では5分くらい続いたように感じたが、実際の所はどうかわからないものの、カナエはしっかりと魔力の奔流を受け切って見せた。
「カナエ、大丈夫か!?」
「補助もあったから平気」
俺とオルフェさんの補助が効いていたのか、カナエは無傷だ。
特に異常も無さそうなので、ここから反撃できないか、と腐肉スライムの方を見れば、開いていた口を閉じる所で、反撃は間に合いそうにない。
すると、再び腐肉スライムから魔力の高まりを感じた。
まさかあの魔力の奔流がまた来るのか、と身構えれば、今度は腐肉スライムの周囲に小さな魔力の光が浮かび上がる。
ざっと10個くらいある魔力の光は、俺たちを取り囲むように移動してから、それぞれから魔力弾を放ち始めていく。
おいおい、ファ◯ネルかよふざけんな!
「散開して回避! 腐肉スライムには近付くな!」
あの槍の一撃の速さを考えれば、他に意識を割きながら反応できるものではない。
マトモに喰らえば大惨事になるので、とにかく回避優先だ。
固まっていると、避けたはずの魔力弾が他の人に流れる可能性があるので、散開して避けるよう指示を出し、各々が思い思いの方向に散った。
幸い、移動先が被る事もなく、そして魔力弾の数こそ多いものの、そこまで威力のあるものではないため、武器で弾いたり防いだりもできる。
とりあえず、状況はまだこちら微有利といったところか。
他のみんなも危なげなく対処しているし、まだ大丈夫。
もう少し、倒せなくてもいいから情報を取れるだけ取って帰りたい。
「さて、もうひとふんばり……ッ!?」
今の、フリスさんに渡した石の魔力?
という事は、彼女が危ない。
しかし、今この場を俺が抜けるのは……。
「ハイト! 行ってこい!」
「無理そうなら退くから大丈夫」
俺の動揺を他所に、カナエとジェーンは俺を送り出そうとしてくれた。
いいのか?
ここで俺が抜けて、本当に大丈夫なのか?
「オルフェも連れて行った方がいい。もしかしたら、怪我してるかも」
「ネタが割れてんだ! こんなヤツ、あたしら2人で余裕だぜ!」
「……絶対に、無理するな! 生きて帰って来い!」
2人の思いを受け取って、俺は握っていたルナスヴェートを鞘に放り込み、オルフェさんの近くへ向かう。
「オルフェさん、ちょっと失礼」
「え、ちょっと、何なんですか!?」
まだ状況の呑み込めていないオルフェさんを、お姫様抱っこで抱え上げ、俺はサンクリドに向けて走り出す。
これから、無茶をする。
あとで文句を言われるのは間違いないが、それでも2人は俺を送り出してくれた。
だったら、俺も2人を信じてこの場を任せよう。
「瞬雷の歩法」
己の身を雷の如き速さで動かす魔戦技でもって、一気に加速。
あまりの速さでオルフェさんが身体を強張らせたが、今は構っている余裕が無い。
じわじわと身体が雷に蝕まれているが、元より自傷ダメージは覚悟の上。
身体を動かすのを維持しながら、ただがむしゃらに瞬雷の歩法を維持。
その結果、馬車で3日程度かかるサンクリドへの道を、たったの30分で走破した。
当然の如く、両目と鼻と口から血が流れているが、フリスさんの安全を確保するまで倒れるわけにはいかない。
「竜王の恵み」
俺の身体の状態を理解したのか、オルフェさんが回復の祈術をかけてくれた。
徐々に回復する効果が持続するタイプのものだ。
「ありがとう」
「あまり無理しないで下さいね」
祈術にお礼を言うと、困ったような声色で彼女は答える。
まあ、無理はするから何も言えないのだが。
とはいえ、サンクリドに入った以上、もう目的地に着く。
フリスさん、無事でいてくれよ……!




