表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/215

ワケあり0人目⑩

「……苦戦してるな」


 他人に聞こえない程度の声で、一人ごちる。

 あれから現地に到着し、端の方から徐々にオーガの群れを削る作戦で動き出した。

 ……までは良かったのだが。

 前衛のギルバート氏とリディアさんがかなり苦戦を強いられている。

 それをフォローする遊撃のカインさんも余裕が無さそうだ。

 時折、ローザさんが強力な魔術を撃ち込んで、敵を怯ませているが、あまりオーガの数は減っていない。

 ぶっちゃけて言うと、攻撃力が足りていなかった。


「マズイわね……これは出直す方が良さそうだわ」


 敵集団に魔術を放ちつつ、ローザさんが悔しそうな声色で呟く。

 もう五回は中級魔術を使っただろうか。

 上級魔術も何発が使っているので、恐らくはそろそろ魔力が尽きる頃合いだ。

 このまま魔術の援護が無くなれば、前線は支えきれない。

 そうなれば、退却せざるを得ない……どころか、前線の三人は逃げる事さえ難しいだろう。

 今でさえ相当押されているのに、そこから下がるとなれば、敵も勢い付く。

 ここから状況を覆すには、新たな一手が必要だ。


「……やるか」


 本当は、あまり変な注目を受けたくなかった。

 ここでこの状況を覆せば、俺は間違いなく目立つ事になる。

 けど、このままここでフィティルの面々を見捨てる事は、できそうにない。

 だったら、やるしかないだろう。

 最悪、手柄を全部ギルバート氏に投げて俺の功績を隠すように交渉したいが、きっとあの人は受け取らないだろう。

 ……腹、括るか。

 まずは、敵を知ってからだ。


―――――――――


ハイオーガ変異種

5歳

状態:健康

生命力:70

精神力:1

持久力:35

体力:40

筋力:60

技術:15

信念:1

魔力:1

神秘:1

運:1


特殊技能

・属性遮断


―――――――――


 鑑定能力でオーガを確認してみれば、一匹一匹が上位種たるハイオーガだった。

 しかも属性をカットする特殊技能付きである。

 そりゃあ、ローザさんの魔術をモロに浴びても数が減らないわけだ。

 となると、この場でローザさんは一番足手纏いかもしれない。


「ローザさん、無属性魔術は使えますか?」


 双曲剣を弓の形にしつつ、ローザさんに問い掛ける。

 問いかけの答えを待たずに魔力を通して弦を形作り、同じく魔力で形成した矢を番え、狙いを付けつつ引き絞っていく。


「無属性魔術? この状況でそんな初歩の魔術なんて役に……」


「できないならあなたは戦力外です。詳しい事は後で話しますが、初級でも何でも、無属性魔術が使えるなら一発でも多く撃って下さい。このままでは前線が保ちません」


 少し残酷な事を言っているな、という事を自覚しつつも、今は問答している時間が惜しい。

 限界まで引き絞った弓を、解き放つ。

 放たれた矢は、狙い(あやま)たず、一体のハイオーガの脳天ど真ん中を貫いた。

 そのハイオーガはどうと倒れ、起き上がる事は無い。


「よし、効果あり」


「嘘、私の魔術で傷一つ付かない相手を一発で……?」


 後ろから戸惑いの声が聞こえるが、攻撃に加わる様子がないので、無視して次の矢を番える。

 無属性魔術が効果ありと実証できたので、次は面制圧に移ろう。

 このまま前線に圧力がかかり続けるのが一番まずい。

 

雨撃ち(レイン)拡散矢(バックショット)


 武器に魔力を籠めて矢を射放ち、事象を捻じ曲げる。

 魔術剣士の得意とする独自戦術、魔戦技(マジックアーツ)

 魔力を使ってのそれは、個々人により大きく変わる。

 詠唱不要、発動は一瞬。

 しかし、魔力のコントロールが難しい。

 これを実戦でミスせずに使えて、魔術剣士は初めて戦場に立てる。

 今回使ったそれは、上空に打ち上げた一本の矢が、空中で分裂して本数を増やし、それが敵に着弾する直前でさらに拡散するものだ。

 一度上に矢を打ち上げたのは、前線の三人を誤射しないため。

 かなり大規模な魔戦技を使用したので、ごっそりと魔力が減ったが、まだ半分にはギリギリ満たない程度。

 購入しておいた装備のおかげで魔力の回復が早まっているので、まだ継戦に問題はない。


「あなた、本当に新人冒険者なの……?」


「問答している暇はありません。ローザさんはここで大人しくしていて下さい。俺は今から前線に合流しますから」


 ローザさんをこの場に置き去りにし、俺は駆け出す。

 先ほど放った魔戦技はハイオーガの集団に大打撃を与え、統率を大きく乱していく。

 前線の三人が、どうにか持ち直しているが、物理にはかなり耐性があるし、そもそもの生命力が相当高い。

 相手が混乱しているうちに退却する必要がある。

 とはいえ、前衛を誤射しないように攻撃範囲を設定したため、前衛近くにはかなり元気なハイオーガが15体ほど残っていた。

 恐らく、一対一で時間をかけられるなら、ギルバート氏とリディアさんもヤツらを倒せるだろう。

 しかし、今は一人が複数を相手取らなければならない状態で、カインさんは1体を受け持ってヘイトを散らすくらいしか参加できていない。

 前衛の三人がほぼ防戦一方で、攻撃に回れていないのだ。

 状況を打開するため、俺は弓状態の双曲剣を分解して納刀。

 右手に封じられた剣、左手には短杖(ワンド)状態の長短杖(ロッドワンド)を新たに握る。

 俺が前線に着く頃に、リディアさんが左手の盾でハイオーガの攻撃を受け、大きく体勢を崩した。

 

「リディア!」


「クソ、こっからじゃ援護できねえ!」


 ギルバート氏、カインさん、どちらもすぐには動けない。

 俺も間合いからは少し遠いので、切り札を一枚切らないといけないか。


「リディアさん、伏せて!!」


 俺が大声で叫んでから、それに反応したリディアさんが身を屈め始めたのが、およそ0.5秒。

 マイペースな割にいい反応速度だ。

 これなら、余裕で間に合う。

 全身に魔力を漲らせ、一時的に生体電流を加速させる。


瞬雷の閃刃ライトニングフラッシュ!」


 ほんの一瞬だけ、10倍に増幅された生体電流は、俺の一歩を雷と同等に押し上げた。

 俺が右手の封じられた剣を振り抜くと同時、動きがビタリと止まる。

 リディアさんに追撃を加えようとしていたハイオーガは、武器である棍棒を振り上げた体勢のまま、固まったまま。


「ふぅー……間に合った」


 俺が吸い込んだ空気を吐き出すと同時、動きを止めたハイオーガはちょうど縦半分に真っ二つに。

 戦場への新たな闖入者に、この場の全員の動きが一瞬止まる。


「援護します。まずはこの場を脱しましょう。詳しい話は後で」


「わかった」


 俺が多くを語らずとも、ギルバート氏は状況を理解してくれたらしく、一つ頷いて、手近な所で未だ動きを止めていたハイオーガを一体、大剣で豪快に斬り捨てた。

 大きく変化した戦場の状況が呑み込めず、浮き足立つハイオーガたちを尻目に、ギルバート氏が完全に体勢を崩していたリディアさんのフォローに回る。


「リディア、立てるか?」


「うん、ハイトくんが助けてくれたから、怪我してないよー」


 相変わらずのマイペースな話し方とは裏腹に、リディアさんは素早く立ち上がって構えを取った。

 とりあえず、戦えはするみたいだな。


「とりあえず、回復するねー……癒しの円陣(ヒーリングサークル)!」


 リディアさんが右手のメイスを振り上げると、彼女を中心に円形の魔術陣が広がり、大きな光を発する。

 円陣内の味方と認識した者をまとめて回復する上位回復魔術だ。

 ダク○風に言うなら大回復、F○風に言うならケアルダ、くらいだろうか。

 詠唱破棄でこれだけの魔術を使えるのは、正直すごい。

 そして、先ほどの瞬雷の閃刃を使った反動ダメージが、このまま戦闘を継続するのに無視できない程度にはあったので、俺にとってもこの回復はありがたかった。


「よし、退却!!」


 ギルバート氏の鶴の一声で、前線の三人が退却姿勢に移る。

 ギルバート氏を殿に、そのすぐ近くに俺、その少し後ろにリディアさん、先行して後退しているカインさんと続く。

 カインさんは進行方向の安全確認をしてくれているので、任せていいだろう。

 俺はギルバート氏と組んで、どうにかこの退却を成功させないと。

 残り魔力は5分の1といったところか。

 節約しながらいけば、まあどうにかなるかな?

 まばらに追ってくるハイオーガたちをいなしつつ、俺たちの退却劇が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ