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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり4人目⑫

「さて、俺は一般目線で情報収集といきますかね」


 フリスさんと別れて街中に散ってから、俺はメインストリートの中を歩き回っていた。

 専門的な情報収集は、フリスさんの方でやってくれるだろうというわけで、俺は物価や街の人の様子など、一般人目線での調査を行う事にする。

 街の中は比較的清潔で、活気も割とあるのが少し意外だ。

 とはいえ、外の環境が悪い分、首都は逆にしっかりしているのかもしれないな。

 首都が安全とわかれば、その分旅行者や教会関係者は気を緩めるだろうし、一種の油断も生まれるだろう。

 そういった所に付け入る、なんて非道な真似をしているのかも。

 なんて考えた所で、ただの想像でしかないのだから、もっと意味のある調査をしよう、と気分を切換えて、市場通りの方へと向かった。


「……物価はまあ、高くもなく低くもなく、か」


 雑貨、食料品、その他諸々、値段は普通といった所だ。

 ただ、恐ろしく品質の差が激しい。

 その値段でその品質を売るのはおかしい、という物から、その値段でその品質はぼったくりもいい所だ、というものまで様々である。

 まるで品質を把握していないであろう、雑な値付け。

 どういう仕入れをしているのは不明だが、何となく予想は付いたような気がする。

 これが予想通りというのなら、本気でこの国は終わっているのだが。


「お兄さん、どこから来たの?」


 特に何かを買うでもなく、少し遠巻きに立ち並ぶ商店と売り物を眺めていると、1人の女性から声をかけられた。

 素朴な町娘といった感じだが、その目はどこか虚ろなようにも見える。


「貴族の物見遊山ですよ。かの有名な教国は一体、どんな所なのかと興味が湧きまして」


「でしたら、ぜひとも大聖堂に足を運んでみて下さい! 竜然教の歴史が全てそこにありますよ!」


 鼻息荒く、大聖堂をおススメしてくる町娘さん、目がイッていらっしゃるぞ。

 なるほど、信仰心に溢れるタイプの人なんだな。

 まあ、竜然教の総本山なのだから、当たり前と言えば当たり前だわ。


「後で行ってみようかと思います。せっかくサンクリドまで足を伸ばしたわけですしね」


「はい! ぜひそうして下さい!」


 俺が大聖堂に行ってみる、という言質を取ったからか、町娘は機嫌良さげに去っていく。

 うーん、宗教にハマったタイプの人間ってみんなああなるのだろうか?

 自我が希薄というか、宗教を中心に世界が回っているというか。

 熱心とはまた違うんだよな。

 少し街行く人々にも目を向けてみれば、先ほどの町娘の同じ感じの、少し虚ろで自我の薄い人がちらほらといるのが目に入る。

 こういう感じの人たちって、狂信者というか、そういう感じになりそうというか。

 もし教国が亡びるような事があったら、暴徒化しそうだ。


「まあ、教国の滅亡なんて、そんな事にはならない……と思いたいな」


 希望的観測でしかないが、むしろこれだけ腐りきった国など、1度滅んでしまえばいい、なんて結論になったのなら、冗談抜きで戦争が起こるだろう。

 戦争、というよりは一方的な虐殺にもなりかねないが。

 仮に戦争になったとして、領土や動員戦力という意味では、さほど大きい国でない教国が大きく不利。

 しかし、この世界の戦争はたった1人の実力者の存在で、いくらでも戦況が覆る。

 それを可能とするのが魔術や祈術(きじゅつ)、膨大な力を秘めた何かしらの物(魔剣やそれに準ずる超常的な存在)だ。

 ゆえに、戦争をする上ではそういった存在は徹底的に秘匿される。

 1番いいのは、わからん殺しでそのまま押し切ってしまう事だからな。


「……大聖堂、行ってみるか」


 街中で俺の調べられる事は大体カタが付いてしまったので、俺は先ほど話題に上がった大聖堂へ向かう事にした。

 教国の偉い人たちが集う場所であり、中枢である。

 他の国と違う部分があるとすれば、一般人にも広く開放されている事だろうか。

 主に竜然教の信者に限られるが、立ち入れる区域は決まっていても、政治の中枢に一般人が入れる、という時点で他の国とは毛色が違う。

 まあ、そもそもが民間に広く緩く信仰されているのが竜然教なので、ある程度裕福であれば割と気軽に大聖堂を見学に来る、なんて事が珍しくないようだ。

 現に、今日もサンクリド内に入ろうとした際に、それなりに手続きの列が伸びていたしな。


「大聖堂にご用でしょうか?」


「ええ、物見遊山のついでに、一度見学してみようかと」


 大聖堂の入口近くにいるシスターから声をかけられたので、適当に話をしておく。

 中年くらいの、物腰の柔らかそうな女性である。

 少しシワの見える顔を緩ませながら、彼女は祈りのポーズを取った。


「敬虔な信徒であるあなたに、竜のご加護がありますように」


 わざわざ外国から教国まで足を運んでいる、という時点で敬虔な信徒、という括りに入るのだろうか。

 あまり宗教に詳しくないので、曖昧に頷き、中年のシスターに見送られながら、大聖堂内部へと入る。

 中は綺麗に清掃されており、相当広いはずなのに、ホコリ1つ見当たらない。

 俺以外にも巡礼者と思しきシスターや神官、一般の信者といった人たちが複数組。

 それ以外には大聖堂側の人員であろうシスターや神官。

 色々と見比べてみると、大聖堂所属のシスターや神官は服が黒だ。

 外部から来たと思われるシスターや神官は紺の服なので、本部所属とそれ以外とで区別しているのだろう。


「……さすがに人が多すぎて、細かい識別は難しいな」


 大聖堂全体を探るようにして、魔力による探査をかけるものの、総人数は200人近い。

 怪しい人物を絞り込む、といった事は無理そうだ。

 中には強そうな人物がちらほらいたが、数える程度であり、とりあえずはいきなり武力制圧される、という心配はあまりいらなさそうなのは朗報か。

 とはいえ、寝込みを襲われたりといった不意を突かれる要素があれば、少し危ないか。

 宿のセキュリティとかにもよるが、現状ではあまり街に入るべきではないように思える。

 場合によっては教会の偉い人の許可があれば、無茶苦茶されても許されるとかいう理不尽もあり得るし、リアムルド王国の法は通用しないので、自衛の意味では街中はやはり長居すべきでない気がするな。


「……っと、そろそろ時間か」


 大聖堂内にある時計で、集合時間が近付きつつある事に気付き、俺は少し早足で大聖堂を後にした。

 そのまま街の中心部へと向かう途中、何かあるかと周囲を見ながら移動したものの、目新しいものや異変などは見つけられず。

 中心部の方は、大きな公園となっており、その中央には立派な噴水。

 その噴水に彩られるようにして、初代聖女と教皇とされる像が建てられている。

 ちょうど、その噴水の辺りに、探している人物の姿があったので、俺は少し駆け足で近付く。


「すみません、遅くなりました」


「いえ、私も少し前に着いたばかりです」


 少しベタな遅れてすまん、というやり取りをしてから、どちらともなく歩き出す。


「どこか軽食のある所にでも行きましょう。さすがに立ち話もなんですから」


「いいですね」


 公園を出て、メインストリートに入れば、それっぽい喫茶店があったので、そのまま俺たちは中に入った。

 こじんまりとした店だが、清潔感があっていい感じだ。


「いらっしゃいませ」


 俺たちを出迎えたのは、どうみてもおばあさんな女性。

 多分、70歳近いんじゃないだろうか?

 歩きとか言葉遣いとかはしっかりしているし、ボケたりとかはしてなさそうだ。


「2人ですが、個室なんかはありますか?」


「ごめんなさいねえ。見ての通り、老婆が1人でやりくりしている小さな喫茶店でして。個室がある方がいいなら、ここから北の3つ目の建物に大きな喫茶店がありますよ」


 あまり聞かれたくない内容の話も出るかな、と思ったので、個室の有無を聞いてみた所、おばあさんは眉をハの字のして、残念そうにしながらも、個室のある店を教えてくれた。

 あらま、冷やかしになりそうなのに、親切だな。


「ここで大丈夫ですよ。少し休憩するだけですし」


「そうですか? すみません、やっぱり2人で」


 フリスさんの方からこの店にしよう、という話が出たので、このまま入ります、と伝えれば、おばあさんはしわしわの顔をパッと綻ばせる。


「ありがとうございます。それでは、奥の端っこの方の席を使って下さいね。幾らかは目立ちにくいですから」


 俺たちが目立ちたくない、というのを察してくれたようで、他にお客さんもいないせいか、おばあさんは一番奥まった場所にある席へと案内してくれた。

 木で作られた、風味のあるテーブルとイスの席に腰を下ろし、とりあえず一息つく。

 おばあさんはすぐに水の入ったコップを持ってきてくれる。


「注文が決まったらお呼び下さいねえ」


 軽くお辞儀をして、おばあさんは離れていった。

 何も頼まないのも悪いし、小腹も空いている。

 どんなメニューだろう、と席にあるメニュー表を開く。

 一般的な喫茶店らしく、紅茶と軽食がメインだ。

 何を頼もうか、とメニューに視線を巡らせていると、フリスさんと目が合う。


「決まりましたか?」


「ええ。紅茶とサンドイッチを」


「じゃあ俺もそれで」


 無難オブ無難な選択だが、外国で変な冒険はしない方がいいはず。

 変に冒険して残してしまうのも申し訳ないからな。

 おばあさんを呼び、注文を伝えれば、少々お待ちくださいねえ、と言って店の奥の方に引っ込んでいった。

 恐らく、奥の方に厨房があるのだろう。

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