ワケあり4人目⑪
良く考えるとそんなにざまあ要素が無いので、タイトルを少し変更しました。
もしかするといい形を思いついたらまた微妙に変更するかも?
「ようやくサンクリドまで来たな……」
ドラネイ教国内に入り、野営しながら道を進む事3日。
予定より若干の遅れはあるものの、無事に首都サンクリドが見える位置まで到着した。
なお、予定が遅れたのは想像以上に襲撃が多かった事が原因だ。
魔物に限らず、ならず者による襲撃が後を絶たなかったのだが、恐らくは国境線の辺りから情報が出ているのだろう。
賄賂で雑に白金貨を放り投げたのは悪手だっただろうか。
とはいえ、あれ以上あそこで時間を取られて、ジェーンがキレ散らかしていた場合、国同士のトラブルに発展しかねない。
さすがに避けられるトラブルで陛下に迷惑をかけるわけにもいかないので、あれで正解だったとは思う。
白金貨を出したのはさすがに失敗だったかもしれないが。
「ったく、片付けても片付けても、ゴミが全然減らねえ。この国は一体どうなってやがんだ?」
「もしかすると、教国の財政を略奪で賄っているのかもしれませんね」
「だとしたら、相当なクソッタレだな、国のトップは」
俺が御者台でだらけていると、馬車内からジェーンとフリスさんの会話が聞こえてくる。
オルフェさんを除くメンバーは、今回の件で相当数の人間を手にかけた。
適当にあしらう事もできたが、そうすると面倒になるのが見え見えだったので、そうしなかっただけだ。
まあ、先に襲われたのはこっちだし、完全に正当防衛なので問題ない。
そんな治安が終わってる国なので、途中の村や街に立ち寄る事は諦めた。
盗みや詐欺などに気を張るくらいなら、野営した方がまだマシというものである。
「さて、とりあえずは先に調査かね。そもそも首都の治安がどうなってるかもわからんし」
俺とフリスさんだけ先にサンクリド入りして、中の状況を確認してから方針を決めよう。
中の治安がゴミだとおいそれと馬車とか置いておけないし、その場合は中で食糧とかの消耗品を買うだけに留めないといけない。
全く、宗教絡みだから今回の依頼は面倒だな、なんて思ってたけど、それ以前の問題だ。
蓋を開けてみないと実態がわからなかったとはいえ、あまりにも教国が終わっててホントにやってられん。
とっとと必要な事を済ませて、こんな国からはおさらばしたいね。
「ジェーン、悪いけど御者を代わってくれるか?」
サンクリドの街の門が近くなったので、馬車内に声をかけて俺とフリスさんでサンクリドの先行調査をすると伝えると、了承の声があったので、御者台を明け渡し、フリスさんと共に馬車を降りる。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「出るのはゴミクズだと思いますよ?」
笑顔でしれっと毒を吐くフリスさん。
いいキャラしてるなあ、と思いつつ、否定のしようも無いので頷いておく。
「同じゴミクズでも与しやすい相手ならそれでいいんですよ。どっちみち不快なのは変わりませんし」
というか既にこの国にいるだけで不快だよ。
何なら調査なんて無かった事にして目標の魔物だけしばいて帰りたいわ。
でも、王命貰っちゃってるから、そういうわけにもいかんのよね。
そうなると、相手がゴミクズで脇が甘ければそれでいい。
面倒がすぐに済むから。
ゴミクズなりに狡猾で面倒な相手だと、この国の滞在が長引いてしまう。
「それもそうですね。教皇をサクッと処理するだけで済むならそれが一番楽なのですけど」
笑顔で教皇をコロコロしようとするフリスさん、怖いよあなた。
まあ、王妃様の弟子という所で、絶対に一般人ではないと思ってたし、ゴミ掃除の時も全く躊躇う様子が無かったので、そういう事に慣れているのだろうと思ってはいたけど。
まさか殺人に全く抵抗が無いとは。
俺も相手がどうしようもない悪人でクズなら普通に叩き斬るが、更生の余地があるのなら命を奪うまではしなくてもいいとは思っている。
まあ、この辺の線引きは人それぞれではあるけども、フリスさんは多分、俺とそんなに年齢が変わらないはずだ。
少なくとも、まともな育ち方をしていれば、ここまで簡単に人を殺せるような性格にはならないだろうに。
まあ、彼女の見た目というか、出自を考えると、思い当たる節もありはするが。
「とりあえず、2時間くらい街を探ってから、どこかで合流しましょうか。合流は外と中、どちらにします?」
「それなら1時間経った時点で1度中で落ち合って、情報交換をしてからその後の事を決めましょう。場合によっては長居しない方がいい場合もありますし」
ざっくりと予定を話し合いつつ、街の門番の所へ向かう。
そこでは出入りの手続きをしているようで、国境線での出来事が頭を過った。
「ハイトさん、合わせて下さいね」
俺たちの順番が回ってくる直前、小さな声でフリスさんが囁く。
合わせる、って何を?
そんな疑問を差し挟む時間も無く、すぐに順番が来てしまった。
「お前たちは何の用でここに来た?」
「教皇様からお呼ばれしたんですぅ。こっちの人は護衛です♡」
急に、甘えた声でぶりっ子し出したフリスさんに、俺は吹き出しそうになったものの、努めて表情に出さないように取り繕う。
幸い、不審には思われなかったものの、門番は舐めるようにして、フリスさんの姿を伺っている。
確かに、フリスさんの服装は露出こそ多くはないものの、布系で身体のラインが出るものを着用しているし、目を隠すヴェールもそういう系のサービスと言えば通りそうだ。
なるほど、考えたな。
これだけクズい人間の多い国であれば、教皇が欲に溺れているであろう事は想像に難くない。
「……またか。全く、教皇様は歳の割にお盛んだな。ああ、通っていいぞ」
フリスさんの演技が信用されたのか、はたまたよくある話すぎて疑われなかったのかは定かではないが、得に賄賂とかを要求される事も無く、すんなりと街へと入る事に成功。
まさか、こんなにあっさりいくとはな。
「……どうでした? 私の演技」
街の中に入ってから、周囲に聞こえないように小声でありつつも、フリスさんがわかりやすくしなを作る。
声色だけで、歳が近いとは思えないほどの色気を感じる辺り、相当にこういう演技に慣れているのだろうか。
普段は普通の言葉遣いの丁寧な女の子、という感じなのだけど。
「……女性が怖くなったよ」
「褒め言葉として受け取っておきますね」
感想を聞かれたので、率直な感想を申し上げた所、フリスさんは満足そうに微笑んだ。
うーん、もう少しオブラートに包んだ方が良かっただろうか?
思わず素直に感想を述べてしまったが。
一応、表面上の顔では嫌悪感等は一切無いが、恐らくフリスさんはいくらでも表情を取り繕えるタイプの人だろう。
見た目の感じはアテにできないだろうな。
「それでは、1時間後に落ち合いましょうか。場所は街の中心部で」
「わかりました。それでは、また後で」
大まかに落ち合う場所を決め、俺たちは下調べのためにサンクリドの町へと散ったのだった。




