ワケあり4人目⑦
「オルフェさん、装備とかは大丈夫?」
明日、午後から出発します、と王城にフリスさん宛ての連絡を出して、あとは寝るだけか、と思った折、そういえば冒険者としてのオルフェさんについて、確認をしていなかったな、と思い起こしたので、執務室にいる彼女に声をかける。
「ああ、そういえば建前とはいえ、討伐の方にも行くのでしたね。私の装備も教会から持ち出してきておりますので、確認されますか?」
「お願いしてもいいかな? できれば、防具とか服装とか、実際に冒険者活動をする時の恰好をしてもらえると助かるよ」
「わかりました。少々お待ち下さい」
オルフェさんの許可も得て、一旦着替えに行ってもらう。
そういえば、彼女の事を鑑定したりしてなかったな。
戻ってきたら確認させてもらうか。
鑑定については、毎回覗き見するようで気が咎める部分もあるけど、後手に回らないようにするとか、誰かのフォローをするとか、適所に配置するとかで優位に立てるから、ちゃんと要所では使っていかないと。
無暗に使うのはプライバシーとかもあるから、気を付けるとして。
「お待たせしました」
オルフェさんが着替えに行ってから、およそ10分程度。
彼女が冒険者装束に着替えて戻ってきた。
「……得物が随分と厳ついですね」
思わず、そう口にしてしまう程度には、オルフェさんの装備は、シスターという印象からかけ離れていた。
動きやすさを優先し、要所を革で補強したタイプの服で、その上から厚手のローブを纏っており、衣装からは魔術師のような後衛タイプかと思いきや、右手に握られているのは、ハルバード。
装備のチグハグさに脳みそがバグる。
ついでに、鑑定も実行。
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オルフェ
19歳
種族:人間
身長:164センチ
体重:60キロ
状態:健康
生命力:25
精神力:20
持久力:20
体力:18
筋力:15
技術:15
信念:40
魔力:15
神秘:5
運:5
特殊技能
・武器熟練:斧槍・祈術触媒
・観察眼
・高速術式構築
・祈術効率化
・信筋技変換
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鋼のハルバード
鋼を用いて作られた斧槍。
丹念に鍛え上げられた穂先と刃は、鋭く研ぎ澄まされている。
穂先の刺突攻撃と斧による斬撃、鉤による引っ掛けなど、状況対応力を備えた武器。
扱うためには筋力と技量の両方を要求するが、使いこなす事ができれば頼もしい相棒となるだろう。
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祈術のブレスレット
十字の意匠があしらわれた、祈術の触媒となるブレスレット。
魔力を通し、祈る事で祈術を発動する事ができる。
祈術初心者向けの触媒。
機能性は最低限だが、だからこそシンプルにまとまっている。
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厚布のコートローブ
厚手の丈夫な布で作られた防具。
冒険者として活動する上で最低限の防具でしかないが、比較的安価。
また、布製であるため、魔術や祈術の使用を阻害しない。
ありふれた大量生産品で、とりあえず着るだけで最低限の防御力は得られるが、早めにもっといい防具へ乗り換えるべきだろう。
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冒険者用強化服
要所を革で補強した、丈夫な服。
過酷な旅にも耐えられるよう、丈夫に作られているものの、寒暖差に対応できるようなものではない。
防御力も普通の服よりはマシという程度なので、過信してはいけない。
ありふれた大量生産品で、とりあえず着るだけで最低限の防御力は得られるものの、必要に応じて追加の防具などを装備したい。
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なんというか……本当に必要最低限、って感じの装備だな。
武器だけはそこそこのものを使ってるみたいだけど、彼女の実力からすれば、かなり貧弱と言わざるを得ない。
今回、建前とはいえ討伐に行く魔物はかなり強力なので、できれば装備を整えてあげたい所だが、無償で、ってわけにもいかないし、建て替えとなっても、彼女にとっては負担だろう。
この辺りはちょっと交渉してみるか。
交渉に応じてくれれば、予算から彼女の装備を整えられるし、正式に俺の部下となるから、今回の件が終わっても彼女やその関係者を守れる。
「オルフェさん、これは提案なんだけど、うちの……リベルヤ男爵家に仕える気はないか?」
俺の提案に、オルフェさんはぱちくりと目を瞬かせる。
そんな折、シャルロットがいきなり凄い勢いで書類を書き始めた。
あ、これ多分もう雇用契約書を書いてるな。
まだオルフェさんが話を呑むと決まったわけじゃないのに、気が早すぎんか?
「ええと、大変光栄なお話ですが、なぜ私を?」
当の本人はと言えば、当惑している様子であり、そりゃそうだという話である。
むしろシャルロットが先走りすぎなんだよなあ。
「理由は……まあ色々あるけど、オルフェさんたちを助けたいと思ったから、かな。もちろん、慈善事業じゃないから、働いてもらうつもりではあるし、楽な仕事ではないと思う。でも、見合った給金は出すし、ちゃんと休みもある。払った給金は君がどう使おうと自由だし、休みの時は自由に過ごしてもらって構わない」
「あとで調整しますが、おおよその条件はこんな所でしょうか」
俺がオルフェさんに雇おうと思った理由を語っていたら、先程、すごい勢いで作成していた書類をシャルロットが彼女に渡す。
内容に目を通していくうち、オルフェさんの表情がみるみる輝いていく。
「私の方である程度の内容は纏めましたので、あとはオルフェさんと細かい内容を詰めて、その部分を記載して頂ければと思います」
シャルロットが、俺の方にも書類を差し出す。
受け取って内容を確認してみれば、やはり雇用契約書であり、給金の部分や個別に決めておく事の部分以外は完成している。
しかも、あれだけ高速で書類作成をしていたというのに、字が全く乱れていない。
あれかな、人間印刷機かな?
なんて思ってしまう程度には正確で綺麗な書類だ。
「……ありがとう。毎回すまないな」
「いえ、私のできる事をしているだけです」
何でわかるんだ、とか作成速度がおかしいだろ、という疑問を飲み込んでお礼を述べれば、彼女は嬉しそうに微笑む。
そうこうしているうちに、書面に目を通していたオルフェさんが、顔を上げた。
「あの、ここに書いてある事って、本当なんでしょうか?」
「ある程度は。細かい所は話し合って決めようと思ってるよ。例えば、こういう仕事は無理だとか、こういう仕事をしたいとか、こういう事ができるからもっと給金を上げてほしいとか。もちろん、初期の契約以降も実績や勤務態度を加味して給料を上げたりもするし、功績があれば臨時褒賞なんかも出すぞ」
「ちょっと神父様と話してきます!」
どうやら、シャルロットが仮で書いた契約内容がお気に召した様子で、嬉しそうな表情を隠さず、オルフェさんは執務室から飛び出す。
恐らく、神父と話して判断する、というよりは神父を説得してくる、という心積もりなのだろう。
…
……
………
「お待たせしました! それでは、細かいお話に入りましょう!」
オルフェさんが執務室を飛び出して30分もしないうちに、彼女は勢いよく執務室へと戻ってきた。
もう、契約する気満々ですな。
いやまあ、うちとしても有能な祈術使いが増えるから、願ったり叶ったりなんだけどさ。
俺も祈術は使えない事もないけど、専門じゃないからな。
専門家がいれば、必要な時に力を借りられるし、祈術に関して教えを乞う事もできるだろう。
「それと、神父様は孤児たちを守り、育てられるのなら、教会という立場はいらないとの事でした!」
「わかりました。それでは、その方向で話をしましょうか」
それから細かくオルフェさんの技能や希望、これからしてもらう仕事の内容や、具体的な給金の額などを話し合い、内容を纏めていく。
内容が纏まる頃にはすっかり夜になっており、それから夕食と相成ったのだが、彼女は終始ホクホク顔だった。
とりあえず、給金面で満足してもらえれば、このまま部下として居着いてくれそうだ。
さて、これからシャルロットに彼女の装備を整える予算を認可してもらって、明日の午前中に装備を揃えないと。
さあ、忙しくなるぞ。




