ワケあり4人目⑥
「それでは、私は当日に合流いたしますので、出発日が決まりましたら城までご一報下さい」
「はい、よろしくお願いします」
色々と俺が暴走する事はあったものの、無事にフリスさんとの顔合わせは終了。
シスターオルフェの事も報告したし、これで忘れた事、無いか?
あ、1つだけ確認しておかないといけない事あったわ。
「陛下、最後に確認が1つ」
「どうした?」
これは本人的には大事な事だろう。
俺がどうこうは置いておくとしても、この先の人生に関わる話だ。
「シスターオルフェの奴隷魔術は解けませんか? 今回に関しては手続きそのものが違法でしたし」
半ば無理やり奴隷の烙印を押されてしまったのを、解除できないという話もないだろう。
無かった事になるならその方がいいし。
「……解けん事もない。が、かけられた奴隷魔術が特殊でな。正直な話をすると費用対効果が悪すぎるゆえに、すまぬが協力はできぬ。お前の所の新しい護衛の、呪いを解くのと同じくらいの費用がかかってしまうのでな。値段を聞くか?」
「……いいえ、やめておきます」
「懸命ですね」
費用対効果、ねえ。
陛下が意味ありげな笑みを浮かべて値段をぼかすという事は、つまり王家でも躊躇うレベルの金額が動く、という事だ。
つまりは、新興貴族の俺に到底払えるはずのない金額。
国家予算クラスの額が動くという事。
あれ、そういえば俺、ジェーンの解呪の時に料金請求されてないな?
「ああ、前の件については闇奴隷商に繋がる情報の褒美に含まれておるし、薬については使用期限の近かったものを捨てるよりは使ってもらおうと思っただけなのでな。特に請求などせんぞ」
「お見通しでしたか」
「公爵家生まれのくせに、妙な所が庶民っぽいのは相変わらずよな」
「おっしゃる通りで」
はっはっは、と俺と陛下はお互いに笑う。
いや、マジで請求とかされなくて良かった。
もしかしたら、その分は働かせようとか陛下は考えてるかもしれないけど、それはそれだ。
実際の額面を直接請求なんてされた日には、間違いなくリベルヤ男爵家は借金奴隷堕ちである。
今や雇っている人も多くいるので、そうそう破滅などしていられない。
彼らの暮らしを守るためにも、最低限の現状維持は必須。
もちろん雇っている皆さんの働きに報いる事ができるようなら、給料に反映させたりとかもしてあげたいしな。
そういう意味ではもっと利益を上げる方法の創出をしてもいいかも。
「では、また何かあれば連絡してくるといい」
「遊びに来て頂いても結構ですよ。その時はぜひ、娘たちとお茶会を」
「はい。それでは失礼します」
諸々の打合せも終わり、俺たちは馬車に揺られながら屋敷へと戻った。
なお、王妃様のお茶会云々の件については、聞かなかった事にする。
まあ、具体的にいつ開催とかいう話にもなってないし、今回は重要任務の前だから、当面は大丈夫だろう。
……いつまで引き延ばせるかは、わからないけど。
「すみません、私の身について、わざわざ陛下に確認して頂いて」
「気にしないで下さい。私が気になっただけですから」
屋敷に帰る道すがら、シスターオルフェからお礼の声がかかる。
これに関しては本当に気を遣ったとかではなく、俺が気になったから確認しただけだ。
しかし、ジェーンの解呪と同じくらいの手間と費用がかかる奴隷契約とはな。
あのデブ枢機卿の雰囲気からして、言われた事には絶対服従とか、そんな感じのロクでもない内容なのだろうとは思う。
まあ、その主が俺になったというだけだし、それなら変な命令をしなければいいだけである。
それなら問題なく日常生活を送れるはず。
「それと、私の事はオルフェと気楽にお呼び下さい。歳もそれほど変わりませんし、貴族様に敬語を使われると、落ち着きませんから」
気楽に呼んでくれ、と提案してきたシスターオルフェの言葉に、俺はごもっともだな、と思う。
普通の人は貴族に敬語で話されて、普通にしてはいられない。
その辺は俺の配慮不足というか、前世に引っ張られてる部分だな。
「そうで……そうだな。それじゃあオルフェさんと呼ばせてもらうよ」
「よろしくお願いしますね」
どことなく少し気まずさを感じつつも、馬車は屋敷に到着。
俺たちはお互いに無言のまま執務室に戻る。
カナエも基本的に用事か、空腹を訴えるか、気になった事がある時以外は喋らないし、この無言の時間が妙に辛く感じてしまう。
「戻ってきたな。で、教国にはいつ行くんだ?」
執務室に入るなり、中にいたジェーンから声がかかる。
どうやら前回の竜人族の里では不完全燃焼だったのか、やる気に満ち溢れているようだ。
ある意味、話題を提供してくれたので、こちらとしても助かったか。
「準備が色々といるからな。今回は5人行動だから、食料にしろ消耗品にしろ、結構な量になるし、揃えるのに1週間はかかるだろ」
何なら1週間でも足りないかもしれない。
さすがに2週間はかからないと思うが。
「ハイトさん、食料と消耗品はもう手配済みですので明日には揃いますよ」
「え、5人分?」
「はい」
「ええと、常備薬とか……」
「併せて手配済みです。それと、緊急時の治療に使える薬も少ないですが手配してあります。骨折くらいまでならどうにかできる程度の品質が精一杯でしたが」
「食料って言っても、片道馬車で10日はかかるし、その分の飼い葉もいるぞ?」
「飼い葉については道中で簡単に補充ができますので最低限ですが、食料については保存食が10日分、それなりに日持ちする食材が3日分、そこまで日持ちしない食材が2日分、計15日分を10人分で手配済みです」
「10人分って事は、カナエの分も含まれてる?」
「もちろんです。大きい荷馬車が満杯になってはしまいますが、持ち出しで準備できるものについては可能な限り準備できたかと。明日の午前中には手配したものが届きますので、積み込みの時間を考慮すれば最速で明日の午後には出発できるかと」
え、待って。
陛下から教国の話されたの今日なんだけど?
シャルロットに細かく共有したのって教会関連のゴタゴタがあってからだよ?
あれから2時間くらいしか経ってないよ?
何をどうやったらそんな早く10日分の資材が手配できるの?
シャルロットさん、あなた一体どういう脳みそしてるんですかね……?
「ああ、それと少し前に、ジェーンさんにお願いしてハイトさんの代理という事で、オルフェさんのパーティー一時加入の手続きと、教国方面の討伐依頼の手続きをしてきてもらいましたので、あとはゆっくり休めますよ」
マ?
これから冒険者ギルドに行こうと思ってたけど、それも手続き全部終わってるって?
これもう仕事できるとかの世界じゃないよ予言だよ。
未来予知してるんじゃないの?
いっそ、彼女なら未来予知くらいできそうな気がしてくるし……シャルロット、恐ろしい子……。
「ハイトさんの事ですから、今までの動きから予測できただけですよ?」
混乱に混乱を重ねている俺の心情を知ってか知らずか、シャルロットはニコリとほほ笑む。
今までの俺の動きから予測できただけ、とまるで俺の心境を読み取るかの如き発言である。
シャルロット、あなたどれだけスペック高いの……?
「あー……ありがとな。助かるよ」
とりあえず、俺は考える事をやめ、頑張ってくれたであろうシャルロットにお礼を言う事にした。
というか、それくらいしかできないですはい。
「お役に立てているのなら、何よりです」
ぺかー、と後光が差していそうな笑みで、嬉しそうにこちらを見るシャルロットに、俺はそれ以上何も言えないのだった。
俺、もう一生シャルロットに頭上がらないどころか、足向けて寝られないよ……。




