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ワケあり0人目①

こちら、異世界転移モノとなっております。

なるべく違和感なくお話は組み上げているつもりですが、都合のいい展開などがどうしてもあるので、そういうのがお好みでない方はブラウザバックでお願いします。

「お前は今日で家を出て行ってもらう。支度金は渡すが、これっきりだ。今後援助を受けようなどと家を訪ねてみろ。その時は首を刎ねて獣の餌にしてくれる。もちろん、ダレイス公爵家の名を名乗る事も許さん。本来ならお前のような無能にここまでする事はあり得んが、うちにも体裁というものはあるからな。命と金があるだけありがたいと思え」


 ガシャン!と目の前で乱暴に家の門が閉じられる。

 当座の資金が入った巾着袋と、一般市民程度の一張羅、それ以外は齢14の身一つで、俺は生家を追い出された。


「……へっ、頼まれたって戻ってやんねえっての。ともあれ、ここまで計画通りに事が進むのは、頭が悪すぎて父親なのが情けない限りだな」


 5歳の時に突如として蘇った前世の記憶と、それからの家の居心地の悪さを思い返しつつ、俺は追い出された生家を背にして、小さな声で一人ごちる。

 前世は日本で全力オタクやって暮らしてた一般サラリーマンだった。

 オタク生活のせいで不摂生だったのが祟って、そこそこ若いうちにぽっくり死んでしまったのだが、生きたいように生きてきて、特に後悔も無い。

 強いて言うのなら、親よりも先に死んでしまった親不孝だったり、彼女ができたりする事もなかったのは僅かばかり心残りではあったが。

 おかげで、本来なら貴族の子供が成人前に一人で家を放り出されるのなんて、死とほぼ同義だけれど、俺にはそうならないだけの能力と知識があった。

 だからこそ、無能のフリをして、追い出されるまで待ったのだ。

 別にやろうと思えば人知れず逃げ出す事もできたし、家の人間を皆殺しにする事もできた。

 一番穏便かつ、波風が立たない方法を選んだだけである。


「支度金は……金貨100枚か。まあ、あの親からしたら持たせてくれた方だな」


 口は開けずに、巾着袋に目線を合わせて意識を集中すれば、中身の情報が見えた。

 これは俺が前世の記憶を得た後に得た能力――この世界では覚醒能力というらしい――だ。

 ある程度視線を合わせ、集中する必要があるものの、見たものの情報を読み取れる。

 まあ、カテゴリ的には魔眼とかそういうのの類なのだろう。

 もしくは単に魔法的な効果なのかもしれないが、少なくとも見た目に何か変化が起こるようなものでないのは確認している。

 勘のいい人や、能力を感じ取れるような人間にはバレてしまうかもしれないが、まず一般人には気付かれないだろう。


「ともあれ、とりあえずは仕事を確保しないとな」


 金貨100枚もあれば、最低限宿を確保して、3食食べて3か月は生活を維持できるだろう。

 節約すれば半年は保たせられるだろうが、その辺りでひもじい思いはしたくないので、まずは仕事を確保したい。

 この世界では小説などでよくある冒険者という仕事が成立しているので、それで食っていける自信はある。

 当面はそれで資金を溜め、他国に移住するなり、この国に居を構えるなり、身の振り方を考える事にしよう。

 ダレイス公爵家はクズでカスだが、運営母体であるリアムルド王国はマトモでちゃんとした政治をしているので、無理して他国に移り住む必要性は薄いしな。

 将来の事を考えつつも、王都の街を歩き、目的地である冒険者ギルドへと向かう。

 街を歩く道すがら、能力を使って色々と情報収集もしておく。

 今すぐに役に立つものはなくとも、こういった地道な努力はいつか役に立つ時が来るはず。


「ようこそ、冒険者ギルド・王都フルードレン支部へ」


 石造りで質実剛健、といった装いの冒険者ギルドに辿り着けば、中に入ってすぐに所で受付嬢が笑顔で出迎えてくれた。

 爽やかな笑顔の美人さんである。

 ギルド内には入ってすぐ入口受付があり、その奥にクエストカウンターやギルド内併設食堂などの施設があるようだ。


「本日はどういったご用件でしょうか?」


「冒険者登録をしたいです。身元保証人はいません」


 事前に調べた情報だと、冒険者登録の際に身元保証人がいると昇格が早かったり色々と恩恵があるらしいが、俺にはそういった伝手は無いし、別に無くても登録は可能だ。

 下積みが長くなるのは面倒と言えば面倒ではあるが、そこは経験を積むためだと割り切ればいい。


「かしこまりました。それでは、こちらの札を持って1番カウンターへお並び下さい」


 受付嬢に記号の書かれた木札を渡され、俺はそのまま指示に従って1番カウンターに並ぶ。

 それほど待ち人はおらず、すぐに順番は回ってきそうだった。


「次の方、こちらへどうぞ」


 カウンターに並んで5分程度で、俺の順番が回ってくる。

 はい、と返事をしながら、俺は1番カウンターの受付嬢に木札を渡す。

 1番カウンターの受付嬢は少しあどけなさの残る、可愛い感じの受付嬢だった。

 今の所、受付嬢はみんな美人や可愛い系の人ばかりだな。

 たまたま俺だけ当たりがいいのか、ある程度採用基準に見た目が入ってるのか……まあ、今はそんな事はどうでもいいか。


「冒険者登録ですね。失礼ですが、読み書きはできますでしょうか?」


「問題ありません」


「かしこりました。それでは、こちらの用紙に記載されてる規則や注意事項をお読みの上、同意頂けましたら必要事項の記入をお願いします。あちらに道具と場所を用意しておりますので、書き込みが終わりましたら再びこちらにお持ち下さい」


 受付嬢から紙を3枚受け取り、俺は一度カウンターを離れる。

 筆記用具のあるテーブルの方に移動しつつ、規則や注意事項に目を通す。

 まあ、ある程度一般的な会社員的な規則かな。

 他人に迷惑をかけないとか、守秘義務は守るとか、そんな感じの項目の紙が2枚あり、2枚目の最後に規則や注意事項に同意しました、というサインを入れる欄。

 もう一枚は名前や特技、能力などの情報を書き込む用紙だ。

 最後には記載された個人情報は遵守します、というコンプライアンス意識がある辺り、なんだか現代日本っぽさも感じてしまう。

 まあ、間違いなく無いよりは絶対いいので、ちょっとだけ安心感を感じる。

 規則と注意事項の紙をしっかりと読み込んでから、同意のサインを書こうとして、手が止まった。


「今日ここから、俺は新しく始めるんだ。あんなクソ親から貰った名前なんて、必要無い」


 あのクソ親から名付けられた名前を書こうとして、思い留まる。

 もう俺はあいつらとは関係がない。

 仮に向こうが俺を頼ろうとしても、絶対に助けてなんかやらない。

 そう心に誓い、俺は今日から名乗る名前を署名欄に書き込んだ。

 後で国に改名申請出しておかないと。

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