結
山道をわいわいと歩く三人組があった。
「それにしても、ええお式やったねえ。
白銀さんのお父さんも駆け付けてくれはったし。
姫さんの乳母さんも来てくれはったし。
いやあ、よかったよかった。」
晴れ晴れと言った申太夫を、恨めし気に雉彦が見る。
「ええええ。
まったく三国一の花嫁っしたよ。くそっ。」
微妙に呂律が回っていなくて、ええええ、が、れえれえ、に聞こえる。
「青梅で酔っ払うとは。なんて経済的なんだ。」
感心したように呟いたのは戌千代だった。
「いやあ、わたしも、雉彦さんの弱点が知れてよかったわあ。」
申太夫はひどく嬉しそうだった。
三人は旅支度に身を包んでいた。
背負った荷物には、仕掛けを施した瓦やなにかもあって、かなりな大荷物だった。
「父さん、あまり雉彦さんを揶揄うのはよしてあげてください。」
見かねたように戌千代が言った。
それに、ああっ、と申太夫は大きな声を出した。
「その呼び方、したらあかん、って何べん言うたら覚えるのん?」
「すみません。サル殿。」
戌千代は言い直した。
「まったく、こんな大きな子どもがおると知れたら、お姉ちゃんにモテへんやろ?」
「僕に関係なく、あなたはモテないと思いますけど。」
戌千代は淡々と返した。
そこへ、おーい、と手を振りながら追いかけてくる者があった。
「あれ?太郎さん?
なんや、太郎さんはこのまま残るかと思うてたのに。」
追いついてくるのを待って、申太夫は言った。
太郎は、戌千代の背負った大荷物を代わってやりながら、はっはっはと笑った。
「我だけ置いていくなど、ひどいではないか。
我ら、もはや、百田一座よ。
いついかなるときも、共に旅をしようぞ。」
「なに、その、百田一座、って?
いつの間にそんな名前になったん?」
申太夫は顔をしかめて聞き返した。
「百田太郎一座、にするか?」
「いやいや。
だから、なんで、あんたの名前、つけるんや、て。」
「なら、戌申雉一座にするか?」
「いや、そういう問題でもない、って。」
あっけらかんとした太郎に、申太夫は小さくため息を吐いた。
「そういや、僕たち、一座の名前って、特にありませんでしたねえ。」
戌千代はそう言って首を傾げた。
「名前、っすか?
鈴姫一座、できまりでしょ?」
雉彦も話しに加わってきた。
「ここにいてはらへんお人の名前つけるのもなあ。」
「白銀一座、はどうでしょう?
なかなか、よいのでは?」
「いや、それはもう、この世にいてはらへんお人やないの。」
「そーゆー言い方は、どうかと思いますよ?
主は、べつに死んでませんし。」
「なんや。あんた、あのお人のこと、まだ主って呼ぶんや?」
「主っすよ。永遠にね。
そうでしょ?
そんでもって、おいらは、永遠に、主と姫にお仕えするんです。」
雉彦は得意気に言い切った。
「まあまあ。
芹を狙うてるお人もまだおるわけやしなあ。
わたしらも、旅をしながら、遠いところから、芹をお守りするんや。」
申太夫は遠く夕日に沈む郷をみはるかす。
応、と仲間たちは一斉に頷いた。
読んでいただきまして、本当に有難うございました。
これにて、このお話しは、いったん、終幕でございます。
あなたにも、どうか、よい事がございますように。




