勇者の暴虐
重い瞼を開けば天井が瞳に写った
ここは、どこだ
俺は擬態スライムの粘液にやられて気を失った筈
それに今の声は一体誰の声だ
聞いたことのない声だった
いや、そんなことを考えている場合じゃない
シンラは無事なのか!
「っ、おい! シンラ!! 痛っ……!」
俺はあわててベッドから飛び起きた
しかし左腕に強い痛みを覚えて背中を丸める
「ケンマ! 目が覚めたのか!? 大丈夫かっ」
部屋の入り口から慌てた様子で現れたシンラが俺の元へと駆け寄ってくる
「シンラ、無事でよかった……ここは?」
「ここはな……」
「それは私から説明しましょう」
シンラの言葉をシンラの後から続いて入ってきたフードを被った人物が遮る
声からして女性だろうか
「あなたは……」
「申し訳ありませんが名前は伏せさせていただきます、ここは星回国家アルタイルの外れにある小屋です、気を失っていた貴方をこちらへと運ばせていただいた次第です」
「それは、ご迷惑をおかけしました、助けてくださりありがとうございます」
俺はそう言って頭を下げる
「御礼は私ではなくそちらの少年に言うべきでしょう、彼はその小さい身体で貴方を運んでいたのですから、私はそれに出くわしてお手をお貸ししたに過ぎません」
言いながらフードの女性はシンラを手で示す
「そうか……シンラ、また助けられたな、ありがとう」
「別に、死なれたらオレも困るからな」
シンラは照れ臭そうに顔をプイっと背けてしまった
「とりあえず解毒はしましたがまだ腕の傷が酷いですからしっかり療養なさったほうがよいでしょう、この家は使ってくださって構いませんので」
「何から何までありがとうございます」
「……して、彼から聞きましたが貴方達の目的地は元々アルタイルだったようですがアルタイルへは何のご用で?」
「ええ、チャンパに行く道すがら私のスキルを鑑定して貰おうと思いまして」
「……!! もしや貴方方は勇者様ですか?」
女性は俺の言葉を聞くと俺との距離をずいっと詰めた
これは、勇者だと言うことは素直に言わない方がいいだろうか
「……はい、一応勇者と呼ばれる存在ではあります」
俺は考えた結果本当のことを言うことにした
助けて貰っておいて嘘をつくなど誠意のないことはするべきではない
「そうですか……それでしたらもしよろしければこちらで貴方のスキルを鑑定出来るようにとり図りましょうか?」
「え?」
「勿論金銭を要求することはありません」
「……」
流石にここまでの申し出をされると何か裏があるのではないかと嫌な勘繰りをしてしまう
「怪しまれるのも無理はありません、長々とした問答をするのも好みませんので単刀直入に言います、金銭は要求しませんが1つだけ頼みを聞いてほしいのです」
なるほど、金銭は求めないがその代わりに交換条件があるということか
それなら合点がいく
「その頼みの内用を聞かないとこちらとしても受けるか受けないかを答えかねます」
「そうですよね、お話します、簡単な話です、この国の勇者をどうにかして欲しいのです」
「……どうにかするとは?」
「この国から追い出して欲しい、最悪亡きものにしてもらっても構いません、とりあえずこの国に干渉しないようにしていただきたいのです」
「な、亡きものって自分がなに言ってるかわかってるのか姉ちゃん!? そんなこと出来るわけないだろっ! ケンマも言ってやれよ!」
話を黙って聞いていたシンラがガバッと身を乗り出す
「……理由をお聞きしてもいいですか?」
「ケンマ!?」
「落ち着けシンラ、いきなりこんなこと言い出すんだ理由がある筈だろ」
「そうですね、理由も勿論お話します、まず件の勇者様がこの世界に召喚されたのは今から約半年ほど前のことです、召喚された当初はなんの問題も無かったのですが日に日に自身の力が強大であることをご自覚していきこの国での地位を求められるようになったのです」
そこまで言うと女性は少し黙り込んでから更に続けた
「求められるままに国は彼にえました、しかしそれは彼を調子づけるには十分でした、彼の要求は日に日に度を越していき、豪邸を立てさせ自分に逆らうものは無礼打ちにし自分は魔物と戦うこともなく酒池肉林の毎日、何とか目を覚まして貰おうと直談判に向かったこの国の王すら手打ちにしてしまいました、今ではこの国の誰もが彼を恐れて毎日恐々の日々を送ることに……」
「オレ街が襲われる前にじいちゃんから聞いたことある、アルタイルに召喚された勇者は手も付けられない暴君だって、だからこの数ヶ月交易もまともに出来なくなってたって」
シンラもこう言うということはこの女性が話していることは紛れもない事実なのだろう
だが今の俺の実力でその暴君といわれるほどに力を持ってしまった勇者相手に戦えるとは思えない
現実的な選択をするのであれば断って早々にこの国を発ってしまうほうが英断だろう
「もう頼めるのは他の国から偶々この国を訪ねてきてくれたあの男と同じ力を持った勇者様である貴方しかいないのです、もしこの機会を逃してしまえば次にこんな好機が起きるのはいつになるのか、どうかお願いです……この国を助けて、殺された王の、私の父の無念を晴らしてくださいっ……!!」
そう考えていた筈なのに
彼女の発した父の無念という言葉に気づいたら立ち上がって口を開いていた
「その男の詳しい能力を話してください、まず追い出す為の作戦を立てましょう」