1章星回国家アルタイル
「で、ケンマ、これからチャンパを目指すんだろ、でもチャンパは結構遠いはずだぞ」
セクを出て歩いて暫く、シンラが口を開いた
「そうだなー、チャンパは遠いからそこに着くまでに1つ別の国を挟もう、そこでスキルの鑑定もしてもらって行こう」
「ここからチャンパまでの間っていったら星回国家アルタイルか?」
「ああ、そこになるな」
星回国家アルタイル
空に輝く数多の星こそが我らの神だと崇め奉っている宗教的国家である
ちょうどセクとチャンパの中間地点に位置する国なためそこに一旦立ち寄って休憩を取る算段だ
「オレ初めて行く国だなー、お土産に貰ったポロ芋の干し芋は旨かったけど、って痛いな! 急になんだ……よ」
俺は横を歩いていたシンラを腕で制す
「おいあれ、魔物だよな?」
「うわついに出た、あれスライムだ」
スライム、俺のいた世界では初歩中の初歩の魔物だ
ゲームなんかのデザインで見たスライムとそう相違ない見た目でなんか安心感はある
「下がってろシンラ」
「はぁ!? ふざけんなオレだって戦える!」
俺がシンラを心配して戦闘に参加させないようにしようとしたと思ったのかシンラが憤慨する
「違う、お前が戦えないと思ってる訳じゃない」
「じゃあなんでっ!」
「この2ヶ月で培った俺の力がちゃんと魔物に通用するのか試したいんだ」
言いながら俺は腰に差した剣を抜いた
あの日俺は戦う術もなくバッグさんを見殺しにした
あの時の魔物とは違うがこれぐらい1人で倒せなくては魔王を倒すなど不可能だ
「……わかった、じゃあしっかり見ててやるよ」
「おう!」
相手はスライムが3体
色は青色だから普通のスライムだろう
吐き出す粘液さえ気を付ければいいはずだ
俺は持っている剣を構える
これは剣の稽古をつけてもらうときに選別として貰ったものだ
大丈夫だ
俺なら出来る
俺は気合いを込めると地面を蹴った
「ピギャァ!!」
剣を一閃横に薙げばズバリとスライムが奇声をあげて崩れ落ちる
攻撃体制に入る前にまずは一匹
二体目のスライムが吐いた粘液の下をくぐって次は上に剣を振る
これで二匹
そのままの勢いで剣を振り下ろして最後のスライムを切り裂いた
俺はスライムの身体がぐずぐずと崩れ落ちるのを確認してからパチンッと剣を鞘にしまった
「ふぅ……」
安心して緊張で止めてしまっていた息を吐き出せば一気に安堵が押し寄せて地面に尻をつく
た、倒せた
ちゃんと戦えた
俺の努力は無駄じゃなかったんだ
「ケンマ! 良い動きだったじゃねーか!」
駆け寄ってきたシンラが俺の背中をバシンッと叩く
「ああ、ありがとう」
でもスライムを倒せたくらいで天狗になるわけにはいかない
魔王は勿論だがあの時襲ってきた魔物達はスライムなんかより強い筈だ
そいつらに勝てるぐらいに俺は強くならなければいけないのだから
それから2日間俺たちは夜営をしながらアルタイルを目指した
「おい! 魔物が来てるぞっ!」
「わかった、シンラは下がってろ」
「またかよ……」
シンラの声で俺は剣を抜いて構えた
この旅道で結果としては俺は何かと理由をつけてシンラを全線に出すことはしなかった
バッグさんの忘れ形見を危ない目に合わせることは出来ない
棍棒を振り上げたゴブリンを斬り倒してそのまま後ろにいるスライムの群れに攻撃を仕掛ける
二体は普通のスライムだが一体は緑色をしている
これはポイズンスライムだ
セクの蔵書で見た魔物の事典に載っていた
吐く粘液が毒性を持っているのが特徴のスライム
優先してこいつを叩くに限る
ポイズンスライムを斬ろうとした瞬間もう1体のスライムが粘液を吐いた
一回避けてから体制を立て直す手も考えたがポイズンスライムが毒液を吐こうとしていたことからそのまま斬ることを選んだ
大丈夫だスライムの粘液は少し酸性があるだけの筈
渋きがかかった程度では問題ないと判断したのだ
道すがら出会った魔物達とも戦い少なからず自信がついて俺自身少しだが油断が生まれていたのだと思う
最初であればしっかり粘液を避けきることを選択していた筈だ
「馬鹿ケンマッ!! そいつは擬態スライムだ!!」
擬態スライムは他のスライムの色に擬態するスライム
吐き出す粘液には強い酸性と微量の毒性が含まれている
だがシンラの叫びが聞こえた時にはもう遅かった
擬態スライムの吐き出した粘液が俺の左半身にかかる
焼き付くような強い痛みが身体に走ったが俺はそのまま剣を横に薙ぎ払った
「ピギィッ!!」
3体のスライムを一閃のうちに斬り倒すと周りにもう魔物がいないのをしっかり確認してから地に付した
「ケンマっ! おいケンマ!!」
シンラが叫んでいる
ああ、起きないと
もしまた魔物が来たらシンラを守れない
そう思うのに身体が動かない
俺はそのままゆっくり目を閉じた
なぁ、オレ達元の世界に戻れる日って来るのかな
ああ、そりゃ待遇は悪くないけどさ
オレ身体の弱い妹がいるからさ、早く帰って安心させてやりたいんだ
一一と一一は戻りたいとは思わないか?