強く生きろ
それからのことはあまりよく覚えていない
先に逃げた人達と合流して城まで走れば既に町中から避難してきていた人達が集まっていた
突然の魔物の襲撃は相手が本気ではなかったこと、国の軍がすぐに出動したことも相まってすぐに鎮圧された
だがそれでも街中の被害は甚大で死人も少なくなかった
特に女性や子供を逃がそうとした男性に被害が集中しバッグさんもその中の一人だった
俺の家も焼き払われて街の復興中は城に留まることになった
この新しい部屋に入ってから外はずっとあわただしく人が行き来している
俺も明日から本格的に始まる復興の手伝いをしなくてはいけない
そう思うのに身体が動かなかった
バックさんが死んだのは俺のせいだ
バッグさんだけじゃない
他の殺された人達も、焼き払われた家や田畑も全て俺がこの国にいたから起きたこと
もう取り返しは決してつくことはない
守られた、国に、そしてバッグさんに
俺が勇者として守らなければいけなかったのに俺にはそんな力がなかった
いや、なかったわけではない筈だ
俺には力があった
この世界の人にはない力が
おそらく俺が努力さえしていればその力は強い味方となり街の人達を守りきれたかもしれない
少なくとも守られるだけのただのお荷物にはならなかった
後悔しても後悔してもどうにもならないことなんてわかっているのに後悔は消えてはくれない
だから俺はベットの上でただ強く強く目をつぶった
今だけは何も考えたくない
結果として俺は寝ることなど出来ずそのまま復興の段取りを話し合う時間になり城の前の広場に出た
「……」
分かっていたことだが俺が顔を出したとたんに騒がしかった広場は一瞬で水を打ったように静まり返った
当たり前だ、俺は今回の渦中の人間なのだから
こういう集まりの時いつもだったら率先して俺を輪の中に巻き込んでくれるバッグさんももういないのだ
だから自分でどうにかしなければいけない
ここで行き詰まってしまうようではこの先強くなんてなれる筈がない
「……あの、俺も一一」
「おい!!!」
だが俺の言葉を遮る大きな声が後ろから響いてきた
「君は……」
振り向くとそこにいたのは見覚えのある少年だった
確かバッグさんの孫の、シンラだ
両親を魔物に殺されてバッグさんと二人で暮らしていた
何故ほとんど顔を合わせたことがないのか理由は簡単だった
彼は俺がこの世界に、この国に召喚されたことを快く思っていない
この国に来て皆が優しくしてくれたのは事実だ
でも全員が全員歓迎してくれたのかと言われればそうではない
何かをされることはなかったが話しかけてくれる人達がいるなか俺と関わりを持たないようにしてるい人達もいた
当たり前のことだ
皆が皆同じ考えなわけがないのだから
そして彼はその筆頭
見かけて挨拶をしても知らぬ顔、バッグさんと俺が一緒の所にやってきても俺など目に入らぬというようにバッグさんにだけ話しかけていた
そんな嫌いな俺みたいな奴のせいでバッグさんは死んだ
文句の一つだって言いたいに決まっている
俺は次の言葉を想像して覚悟を決めた
「じいちゃんの最後はカッコよかったか」
「……え?」
思っても見なかった台詞に俺は馬鹿みたいな声をあげる
「皆を守って、皆を助けるために敵に立ち向かったじいちゃんの最後を見たのはお前だろ! だからっ! じいちゃんの最後はカッコよかったかって聞いてるんだ」
ああそうか
バッグさんの最後の勇姿を見たのは俺だ
「……カッコよかった、めちゃくちゃカッコよかったよ」
あのときのバッグさんは、俺が今まで見てきた誰よりもカッコよかった
「そうか、ならいいんだ」
シンラはそう言うと嬉しそうに目元の涙を拭った
ああくそ、本当に俺はダメな奴だ
俺なんかより辛い筈のシンラはこんなにも強く泣くこともしないのに
シンラの言葉を聞いて、バッグさんの最後を思い出して
席を切ったように次から次へと出てくる涙をただひたすらに拭った
「泣いてばっかりいられないからな、この国はこの国の皆で建て直すんだ、勿論お前も手伝えよ、お前だってこの国の人間だろ」
「っ! ああ、勿論手伝う……いや手伝いたい!」
泣きながらそう叫んだ俺を見て回りでこちらの様子を静観していた人達は皆俺が復興を手伝うことを快く認めてくれた
結果としてはまた俺は助けらた
シンラが俺の心の内を吐き出させてくれて、みんなの輪のなかに引き入れてくれたのだ
俺は心に決めた
バッグさんは強く生きろと言った
自分の命を使って俺達を守ってくれた
だから俺は強く生きる
強くなって俺はこの国の人達を守ってみせる
魔物からも、勇者からも、魔王からも
皆のために俺は魔王を倒す
バッグさんがくれた言葉を決して忘れることのないように強く胸に刻んだ