襲撃、そして後悔
「バッグさん、これどこに置いとけばいい?」
「あー、こっちの端に置いといてくれ」
あれからまた時間は経ち俺が異世界に召喚されてから早3ヶ月が経とうとしていた
町の人達ともそれなりに良い交遊関係を築けていると思うし畑作業や牧場の仕事にも慣れてきていた
「これで全部運べたので、じゃあポポロに餌やってきますね」
俺は頼まれていた肥料を置ききると事前に用意していた餌の入った猫車を押して舎に入るとポポロ達の餌置き場に餌を撒く
「あ、おい! 止めろって……あ!!」
餌を撒いているとこの間産まれたばかりのポポロの子供にじゃれつかれた
子供とはいてそれなりの大きさのポポロにじゃれつかれて俺は体制を崩してしまい盛大に尻餅を付いた
「痛ってぇ……」
俺は立ち上がると服に付いた土埃を払う
転けた拍子にポケットから落ちた王様からもらった赤い宝石を拾い上げると俺のステータスが空中に表示された
「これは…」
召喚されたあの日以来見ようとも思わなかった俺のステータスは
レベル2.パワー3.スピード2.ディフェンス2.マジックパワー1
というものだった
「……上がってる」
忘れる筈もない、俺のステータスはオール1だった
それが本当に微妙にだが上がっているのだ
王様は余程のことがなければ基本ステータスは固定だと言っていた
レベルが上がったからステータスが上がったということだろうか
そこで考えられる要因とすれば俺のスキルである歩合制が影響しているという可能性
つまり歩合制はレベルの概念のある能力
だがそれ以上はスキルの鑑定を断ってしまっているので真実はわからないが
「……」
これ以上考えても仕方ない
どちらにせよ今の俺にはステータスが上がったところでなんの関係もないのだ
俺はそう思うと宝石をポケットにしまい作業に戻った
後になってこの選択を、俺は心の底から後悔することになる
その日は突然来た
なんの前触れもなく
「そろそろ昼飯にするか!」
バッグさんの声で皆キリが良いところで作業を終えて昼飯の準備を始めた時だった
カンカンカンカンカンカン!!!
雑談の声をかきけすように大きな鐘の音が鳴り響いた
「えっ、なんの音ですか?」
俺は慌てて辺りを見渡す
「これは……警鐘だ! とりあえず避難するぞ!」
バッグさんは持っていたバケツを地面に投げ手近にあったピッチフォークを拾い上げると周りにいた人達を先に逃げるように誘導する
「バッグさん! 俺も何か手伝い……」
俺も慌てて何か少しでも役に立てることはないかとバッグさんの元に駆け寄りながら叫ぶがその声を遮るように聞き取りずらいダミ声が響いた
「おお、どうやらこっちが当たりだったようだ」
声がしたほう、田畑の前の道の先に目をやればそこには見るからに人間ではない見目、俺のいた世界で言うところのモンスター、おそらくこの世界で言う魔物達が武装して列を成していた
「この国で召喚された勇者様はそっちの小僧で間違いないだろう、一人だけ毛色が違う」
軍団の先頭に立つ魔物が言いながら俺を指差す
「……だったら何だってんだ」
その魔物が持っている鉈のような武器に血がついているのに気付き低い声が出る
「この国も勇者を召喚したということでめでたく我々の敵と認定した、今日はその報告に来たというわけだがそれではい帰りますはオレのしょうに合わないのでな、ついでに少し暴れていこうと思ったわけだが、せっかく勇者様と会えたわけだしここで殺していこうという話、お前とそこのおっさんを殺してからでも今逃げていった年寄りや女ぐらいすぐ追いかけて殺せるだろう」
魔物は言うが早いか武器を構える
「……逃げなさい」
俺も何か武器になるものをと田畑のほうに目線を走らせようとした時だった
バッグさんがそう言いながらピッチフォークを構えて俺を庇うように前に出た
「……え、バッグさん何言ってんだ!」
「ここで易々と2人とも殺されて逃げた奴らを追いかけられたら元も子もないだろう、だからふたてに別れようってことだ、先に行って皆が逃げるのを手伝ってくれや、ここは俺が食い止める」
「それなら俺が残って……」
「お前は魔物と戦ったことないだろ? 俺はこう見えて若い時は兵隊やってたこともあるんだ、それにこんなところで若い芽は摘んじゃいかんだろう、つまり残るのは俺が適任ってことだ」
「でも!!」
「いいから行け早く!!」
そう叫ぶバッグさんの声には有無を言わせないほど力がこもっていた
「っ……」
声の迫力に何も言えず数歩後ずさる
「強く生きろ、ケンマ」
バッグさんは一瞬俺を見ると笑ってそう言った
俺はそれを合図に踵を返して一目散に駆け出した
バッグさんのいるほうを振り返ることなく、ただがむしゃらに走った
何も考えたくなかった
バッグさんの言葉の理由も
勇者として召喚されたくせに何もできない俺の不甲斐なさも