さぁ飛び込むがよい、トマトの海の中へ
「それでは夕食の準備が整いましたのでいただきましょう!この国では基本、ナイフやフォーク、それにスプーンを使うのですが、使い慣れている箸もご用意しました。冒険者は体が資本、思う存分食べてくださいね。お代わりは自由です!」
長テーブルの食卓の上にはガーリックの匂いがほのかに漂うペペロンチーノっぽいパスタと魚介系のスープやサラダが置かれ、メインディッシュのタウロス(牛)系のステーキはそれぞれの後方に控えるコックが切り分けてくれるスタイルとなっていた。フランス料理みたいに順番で出てくるんじゃなかったのね。デザートは食後に出てくるのかしら?共に食事をとるのはティード皇子にうちら4人、レイナ様が上座で俺たちの対面には教皇様と元老院7人が座っていた。7人のヴァルキュリア達はレイナ様の後ろで護衛。剣聖様は復帰したが顔中あざだらけじゃん・・一体何があったんだ??ここには神聖魔法を使える人がごまんといるはずなのに一体なぜ・・乙女の秘め事には迂闊に首を突っ込んじゃいけないね。
「そういえばレイさま、国境を越えて入国した2日目の野宿の時に、あの『トマト』を使った料理を帝国の皆様に提供して、大変好評だったと聞いております。そのことについて詳しく教えていただけますか?」
「わかりました。そのときに提供した料理は、大量のトマトを煮詰め、その中に細かく刻んだ玉ねぎとキノコ、それとひき肉をいれて、あとは塩やワインなどで味を調整してみたものなんです。今、僕のストレージボックスの中に出来立てで温かいのが数人分残ってますので、試食してみてはいかがでしょうか。おそらくパスタやチーズ、目の前のステーキとの相性がいいと思いますよ」
レイナ様は試食する気満々のようだが、教皇をはじめとした元老院たちは難色を示しているようだった。そんな彼らに意外にも後押ししたのがティード皇子であった。
「わたしも立場上、幾度と各国の食事会に参加してはいたが、これほど旨いと感じた料理はそうそうないと思った。わたしだけではない。ほとんどの商人たちは『これは小麦を主食とする国や地域にかなり受け入れられるのでは』と目を輝かせてレイ殿と語り合っていた。もし試食してみて口に合わなければ一瞬だけイヤな思いをするだけで済むだろうが、帝国が率先して売りに出して全国的に広まったら、元老院は歴史家から辛辣な評価をされるかもしれませんよ」
「・・・そこまでティード様がおっしゃるのであれば、試食を拒否する道理はありませんな。皆の者、レイナ姫に続くのじゃ~~!」
今、レイナ『姫』っていったよね?元老院たちの中でのレイナ様の扱いは『姫様』扱いなのかね?でも、姫様を先陣に立たせるのはどうかと思うぞ。とりあえず、仲がよさげなのはいいことだよね。さぁレイナさま、ボロネーゼ(の具)の海にDIVEしてくれ。
「えっ、えっ、ええええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!ナニこれ、めっちゃウマいやん!????」
「嗚呼、何という味わいの深さなんだ・・トマトを煮込むと渋みや生臭さが消え、深い甘みと爽やかな酸味がここまで引き出されるとは・・しかもタウロス(牛)系のひき肉や玉ねぎ、キノコやニンニク、ワインなど、一つの皿の中で多重共鳴して味をより高みに上昇させているようだ・・」
レイナ様は衝撃的な味との出会いでブッ壊れて前世が某有名動画サイトにアップしている料理学校の校長であることを思い出してしまったのか!?前世がおっさんの美少女というのだけは勘弁してくれマジで。それにたいして元老院の食レポは的確過ぎるわ。最初は試食に難色を示したのは何故だ??けっこう真っ当なジジィじゃないか・・
「実はこの料理、名前は特になく、レンタグルス公爵邸にいた際に利用させてもらった書庫の中にあった、世界中を旅した『旅行記』の著者が偶然作ったものなんです。彼が道に迷い、食べ物が底をついてしまったので、『火を通せば幾分かマシになるだろう』という思いでトマトを煮込んで食べてみたら想像以上に美味しかったようです。近場の村を発見したあとはしばらくその村に滞在し、トマト料理の研究に没頭したらしく、村人たちに料理を振舞ったら非常に喜ばれたそうです。また、このトマト煮込み料理にあう料理として、ひき肉と細かく刻んだ玉ねぎと卵と乾燥したパンくずを一緒に練り混ぜ、平べったくして焼いた料理も作ったそうなんです。ここにいるガイたち3人にはすでに試食してもらい好評を得ており、遠征中にティード様の感想もいただきたかったので、ストレージ内に残っていた練り混ぜられた材料を調理し、トマトの煮込みソースがかかったものを試食していただきお褒めの言葉をいただきました」
「・・・ひき肉とかパンくずとかって売り物にならない材料で基本、捨てるしかないものなのに工夫1つで美味しい料理が作れるものなんですね・・・レイ様、お願いがございます。明日の夕食なのですが、その料理を後ろに控えているヴァルキュリア達を含めたここにいる全員分作っていただけないでしょうか?もし引き受けてもらえるのならわたくしにもお手伝いさせてください。もしかしたら世界中の無駄な食料の廃棄をおさえられ、その分、空腹で苦しんでいる人達にまで食料が行き渡る可能性があるかもしれないんです。お願いします」
「そういわれるとそうかもしれませんね。もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」
「ありがとうございますレイ様」
ハンバーグは世界を救う、か。元いた世界では大豆を代用することによって畜産に使われる水や飼料を減らせる意味合いだったんだけど、とりあえずひき肉多めで色々混ぜて焼けば肉の塊を食べるに近い満足感は得られるよね。その分手間はかかるけど。さて、明日はレイナさん、どんな感じで接してくるんだろう。変なドッキリを仕掛けてこないでね!




