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エリン界での『チェス』と『ショーギ』の意外な評価

その日の深夜、ようやくマルダートに到着した。移動の途中、何度も入れ替わり立ち代わり冒険者さんや騎士さんが俺たちのいる馬車に乗り込んできた。どうやら護衛の方達は皆、俺たちと話をしたくてウズウズしていたらしい。ガイが俺の死んだ両親の話をしたときには絶句してたな。あの開拓村のオーク襲撃事件後の現場の凄惨さは今でもマルダートで語り草になってるらしい。ガイが密かに俺の両親を尊敬してたことを鑑定の儀のあとに話してくれてたときに『こいつマジで勇者適性があったのか』と思ってビックリしたけど、『チェス』と『ショーギ』が軍部の間で問題になっている件で頭がいっぱいなのに母親の最後の涙を思い出させるのはマジヤメテ。ガイが『真の勇者は俺の両親みたいな人だと思う』と言ったものだから、騎士たちからは『流石勇者に選ばれるだけある』と誉められ、俺は冒険者たちに『夕方はギルドのそばにある酒場にいることが多いから、困ったことがあったらいつでも相談しに来てくれ』と励まされたりした。ついでに護衛団との別れ際、みんなの疲れが少しでもとれるよう、俺とフィーネで【クリーン】をかけまくりました。思った以上に喜んでもらえて好感度ゲットです(笑)



 高級宿で一泊したあと、全員遅めの起床で昼食を食べたあと、俺たち4人とハウロさんと騎士さん冒険者さん複数人という大所帯で商業ギルドに向かうことになりました。〈複数ジョブ持ちのポーター〉が『リバーシ―』の考案者というのは遅かれ早かれ調査されるだろうけど、調査には費用や時間がかかってしまうから、この際いっきに確認して報告したほうが都合がいいとのことだった。最初はガイたちとハウロさんと騎士さん複数人で行く予定で、冒険者ギルドには報告だけで済まそうとしたらしいのだが、冒険者さん達はフリーだったにもかかわらず、『こういう機会は滅多にないし、『チェス』や『ショーギ』というものが何故軍部上層部で問題になっているのかが超気になる』という理由でついてきちゃいました。


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 「お久しぶりですレイさま、近々マルダートにお越しになるという噂を耳にしておりましたので、心待ちにしておりました」


 「ご無沙汰してましたマイドさん、さすが耳がお早い。ギルドマスター直々に迎えてくださるとは思いもよりませんでした。で、早速なのですが『リバーシ―』の売れ行きと預金残高の確認、あと『チェス』や『ショーギ』の件で気になる情報を護衛の騎士さんから聞きましたので、その確認にきました」


 「騎士経由での情報ですか。こちらでもその詳細は確認できております。レイさまに一刻も早く説明せねばと、最悪、使いの者を派遣せねばと思っていたところです。正直いち早くこちらに来てくださって助かりました。立ち話もなんでしょうから、別室に案内させていただきたいのですが、この件について、お連れ様への説明は希望されますか?」


 「かまいません。むしろそうしてくださると今後の手間がだいぶ省けて助かります」


 「かしこまりました。それでは手広な会議室に案内しますのでついてきてください」


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 「まずは『リバーシ―』関連から説明します。世界各国での売り上げが好調で、すでにピークには達しているものの、それでも毎月、多くの販売数を維持していますので、まだまだ預金が増え続けます。このほか『リバーシ―』関連で確認されたいことはございますでしょうか?」


 「『リバーシ―』の件については大丈夫です」


 「了解しました。それでは『チェス』や『ショーギ』について説明します。大所帯ということで参考のためにこの場に現物をお出ししますね。両方とも戦争を簡略化した遊戯で、盤上の区切られた『マス』の上にあらゆる戦士職を模した人形を並べ、それぞれの人形に与えられたユニークな機動力を生かして敵陣の王を倒す、ないし捕獲した側が勝利となるゲームです。試作品を提供した商人や貴族らからは、多くのひらめきや知恵を凝縮、醸成し、それらを洗練されたルールでまとめあげられ、高度な分析力や戦術眼が必要とされる遊戯として『リバーシ―』を上回る非常に高い評価を得ることができました。『チェス』は『ショーギ』と比較すると芸術品としての評価を得ており、噂では大陸の西端の国家を治める魔王が『いつかオリハルコン製のチェスの人形を使ってワインを飲みながら各国の王とチェスをしてみたいものだ』と呟いたらしいです。『ショーギ』は『駒』と呼ばれる、戦闘職の人形を木造の五角形の小さな板として簡略化しているので生産しやすいとの評価を得ました。物議を醸しだしたのは、それらが帝国の上層部に渡ったときです。『戦略や戦術眼を遊びながら学べる』とか、『これらを広めれば平民から軍事の才を持つ者を発掘できる可能性もある』など軍人ならではの評価をいただきました。また、レイさまが『ショーギ』とセットでつけてくれた『さまざまなフォーメーションの特徴と弱点』、『戦術』、『強力な駒の封じ方』などの書物を貸与した際には、『この者が他国に渡り軍を率いて帝国に牙を向けるのだけは絶対に阻止しなければならない』とか『前にひとマスづつしか進めない捕虜の最弱の駒でさえも、使い方によっては強力なくさびになりえるのか。これを竜騎士やワイバーンで運んだ召喚士などに置き換えると、現実の戦争の局面を一気に変化させる戦術も生まれてくるな』という意見もでてきてるらしいのです。わたくしどもは、それを帝国の方だけでなく他国にも同時に試作品を送ったものですから、各国の商業ギルドに軍の上層部や上位の爵位の関係者から考案者の名前を公表するよう迫られました。彼らには情報を公開するルールとなっていますので、全国のお偉いさんにはレイくんの名前が知れ渡ってしまいました。商人という性質上、軍人の視点を予想できなかった我々の落ち度でもあります」



 ・・・言われてみればそりゃそうだわ。『あるあるポイント』狙いで『チェス』と『ショーギ』を特許申請してみてダメだったからどうでもいいやと思ってたけどこんな落とし穴があったとは・・・『モノ』としてエリン界で再現するのは簡単だけど、駒の動きやルール、ひいては陣形とか戦術とかは長い年月を経て生まれてきたものだからな。もう笑うしかないわ・・・『敵将として牙を向けてきたらヤバイ』という評価は結果的には正解かもね。AI将棋の激ムズモードでちょくちょくやってたし、学生時代は歴史モノや宇宙戦争系シミュレーションゲームもけっこうやり込んだからな。魔法がある世界では竜騎士や召喚士をそのように運用する方法もあるのか。いいこと聞いた(笑)。あ、これ、もしかして転移魔法で急襲して兵糧を奪えば血を流さずに速攻で戦争を終わらせることができるんじゃね??ま、道理で特許申請してしばらくたったあと、馬車の定期便の御者や行商人から鑑定されまくってチクチクするなと思ったらこんなことだったのか。あと魔王さま、禁術みたいなのを使ってオリハルコン兵団とか作るのはやめてね。エリン界で実現可能なのかどうかは知らんけど。



 「わかりました。ここまできた以上腹をくくります。特に問題がなければ一般販売する方向で話を進めちゃってください。印税は当初の予定通りで200ベリカで。個人での利用であれば複製はOKにしてください」


 「かしこまりました。印税をパーセント式にすれば高級品が売れたときの収入が増えるのはすでにご存じのはずなのに・・レイさまは本当に欲のないお方だ・・」


 「そんなことはないですよ。鑑定の儀も終わったことですし、これからは貯金をどんどん使っていきますよ。とりあえず20万ベリカを下ろしたいのと、試作品が残ってましたら、こちらの騎士さんと冒険者さんに説明書つきで1セットづつ渡してもらえないでしょうか?代金は俺の口座から引き落としでお願いします」


 「お代は結構ですよ。こちら側が儲けさせてもらいすぎていますから。マルダートで大きな買い物が必要になったとき、いったんこちらにお越しください。いつでも大歓迎です。目的地の帝都の商業ギルドにも同じように伝えておきます。また、今後拠点を変える際、ギルドに足を運んで目的地を伝えていただければ、おすすめの宿の手配や割引などもさせていただきますので是非ご利用ください」


 「ありがとうございます。それではこれで失礼します。お忙しいなか、時間をつくっていただきありがとうございます」


 「こちらこそ」



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 「あ~話し聞いてるだけでも疲れちゃった。お兄ちゃん、ほんとすごい」


 「商業ギルドマスターは直接的な言葉を使わなかったけど、レイくんたちの情報をいち早くキャッチしてるよな。さすが商売のプロだわ。冒険者ギルドとは違う緊張感があったぜ」


 「レイくんはもう、一生遊んで暮らせるだけの貯金があるだろ、それなのに冒険に出たいだなんて・・」


 「貴重な情報が手に入った。伝令と交代要員を」


 「ギルマスへの報告案件だな。じゃあなまた今度」


 「引退後に貴族のお嬢様と結婚できるんじゃねぇのか!?うらやましすぎるぜレイ!」




 おいガイ、節操ないな(笑)おかげで脳内がリフレッシュしたぜ!


2024/2/21 いにしえの賢者を女性から男性に変更しました

2024/2/22 レイが学生時代にAI将棋、歴史モノや宇宙戦争系のシミュレーションゲームをやり込んでた旨を追記しました。

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