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ロングロング・ホリデーナイト!(上)

短編「ヴァンパイア・ヴァケーション!」( https://ncode.syosetu.com/n8792ht/ ) の続編です。

上・下の、全二話。

 切り立った崖。冬の嵐が鉛色の空と海とを逆撫でて掻き荒らす。凍てつく風によって叩きつけられる雪が、崖の縁にそびえ建つ尖塔の突き出した古めかしい城を、より一層険しい表情にさせた。

 城の暗い暗い地下墓所。とある黒い棺の蓋がゆっくりと内側から開かれる。その中から蝋のように白い顔をした男が、両腕を胸の前で交差させたままぬうっと身を起こし立ち上がった。男は口を開く。そこから長い牙が覗いた。

「おお冬……! この寒く暗く続く我が夜よ。長き夜、永き夜、長き永きこの夜よ……!」

 そう陰鬱につぶやいたヴァンパイアの男は、丹念に整えられたオールバックの頭を静かに横に振る。そこに何かがぶつかり、その頭は大きくのけぞった。頭を押さえつつ見ると、それは一抱えもある緑と黒の縞模様の球体、ウォーターメロン(スイカ)だった。

「パパ、〝夜っぱら〟から、くらーい!」「あそびましょ! あそびましょうよぉ!」

 物と声が飛んできた方を見ると、そこには彼の子供、おチビの双子のトニーとニーナが、蝋のように白い顔に満面の笑みをたたえ、思いきり牙を覗かせてきゃあきゃあと笑いあっている。

「こら、スーリィを投げちゃいけません」

 足元でゴロゴロとはしゃぐように転げ回っているそのウォーターメロン(スイカ)、ペットのスーリィを拾い上げ、ヴァンパイアの男――ユージーンは子供たちの元にふわりと浮いて駆け寄った。

 次々と棺が開く。妻のアナベラ。丸々と太った従兄のダグラス。両親のブレンダンとエイダ、叔父夫婦のギルバートとキャスリーン、伯母のノリス。そして祖父母のフィリップとローザ、大伯父のパーシーとピーター、曽祖父母のジョーゼフとブリジット。最後にボルゾイ犬のラッキー。みないずれも蝋のように白い顔をしたヴァンパイアたちが、続々とその目を覚まして起き上がった。

 そう、ここは一族全員がヴァンパイアとなったヴィンセント家の住まう城。遥か昔に呪いをかけられたのだが、なんやかんやあって、今ではなんだかんだと楽しく暮らしている。


 各々身支度を整えてダイニングに着き輸血パックをすする。ヴァンパイアの能力たる催眠術を用いてここを診療所か何かだと人間達をだまくらかし、日々の食事を得ているのだ。

 今はホリデーシーズンで物品の配達はない。だが人間たちが休暇に入る前に、いつもより多めに輸血パックを持って来させていたため食料は潤沢にある。むしろ選り取り見取りとまで言えるくらいだ。

「なんだ、冬も好きではないのか、ユージーンよ」

 曽祖父であるジョーゼフが、テーブルの遥か向こうから気さくな様子で声をかける。

「いえ、そうは言っていませんよ、ジョーゼフ大おじい様。冬の夜は時間がたっぷりある。それに、寒くたって我々ヴァンパイアには何も困ったことはありませんしね。言うことはありません。ただ……」

「あ~、やっぱりパパ、げんきないよぉ」「だからいっしょにあそびましょって、わたしたちいったのぉ!」

 トニーとニーナは、父親のユージーンにぱたぱたと駆け寄っていって、その両の腕に一人ずつまとわりついた。それを母親のアナベラが「あらあら、まだお食事の時間中よ」とたしなめる。

 その様子を見てジョーゼフは目を細めて微笑んだ。それは何故だか感慨深げな雰囲気をまとっており……。その細めた目のまま、ユージーンそしてテーブルについている一族のみなを見回し、おもむろに手を二回打ち鳴らす。

「みなの者、耳を拝借。ではここはまた一つ、冬を楽しむ日を設けようではないか。せっかくの長い夜じゃ。久々にパーティーを開くとしよう。みなそれぞれ、この冬の季節らしく着飾って楽しく集まっておくれ。日時は、そうじゃのう……」

 曽祖父は一族がじっと次の言葉を待つ中、大窓の方、ひっきりなしに吹きつける風に凍えて震えるようにガタガタと鳴るガラスと、それを隔てた先で白く吹雪く雪の速い流れ、そしてその更に向こうを見つめるようにして続けた。

「今日から四日後にしようかの。……この前の夏の時よりちと日数は短いが、なぁに、夜も長いしなんとかなるじゃろ。みな、よろしくな」




――本日2024年12月21日から4日後、2024年12月25日に、ヴィンセント家の冬を楽しむ日が開催される――

(次回更新は2024年12月25日です)

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