久遠は己の過去を語りだし、里奈は彼が自身と同じ境遇であることを知る
久遠は去年の三月二八日に東京駅に降りると、今日で東京を出るという男と出会ったという。
「そこで僕は蒼烏を強制譲渡された」
それはかつて一年前ほどに里奈の身に起こったことと酷似していた。
「蒼烏は継承装備と呼ばれるもので、前任者のレベルを僕が引き継ぐことになる」
里奈は久遠の現在のレベルを聞いて目を丸くする。
「たしかにレベル上限はないって聞いていたけど……」
トップランカーのレベルは公表されているが、久遠の場合はすでに桁が違う。比べるのが馬鹿らしくなる数値だった。
「僕は自分のレベルに怖くなってしまった。それからは夜に徘徊して魔物を狩る日々さ」
このまま六年間を過ごすことも考えたという。
「大きな力なのは自覚している。でも、僕には未だどう振るうべき力なのか判断がついていない」
「それで足踏みをしていたと?」
久遠はこくりと頷く。
「ても、君が落とした紙片の中を見たらには、そうも言っていられない」
「そんないいことが書いてあった?」
「もし君が紙片をくれた人の言ったことを実行しようとするなら、僕は君に従うつもりだ」
里奈は耳を疑った。どういうことだと。
「片岡さん、これは契約だ。もし君がこの人の理想を実現しようと行動し続けるというなら、僕は最後までつき合おう」
その代わりと久遠は続ける。
「君が理想の実現を放棄するとき、僕は君と袂を分かつ」
翔が里奈にした依頼は東京で困っている人がいれば助けること。
少し馬鹿げてやしないか。それでも久遠は協力するという。
この紙片に書いてあったのは里奈がカラオケボックスで聞かされた内容だった。
「古輪くんにメリットあるの?」
「日中は学校に通って夜中に魔物を狩りに行ってるだけじゃ人捜しはできないってのがわかったんだ」
「そりゃそうでしょ」
里奈は呆れ口調だが、自分にも言えることであることは自覚している。
「だから行動を起こしてみようかなってね」
自分も行動を起こすべきなのか。里奈は返事を保留して、その日は寝ることにした。
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