里奈は色じかけを試してみるが、やはり失敗する
二人は夕食後にタクシーを使って寮に戻っていた。
「ね、ねぇ。私の部屋とか来る?」
里奈は自分の声が震えてるのがわかった。そもそも久遠に対して何をしようとしているのか、それが自身でも理解できていないようだった。
対して久遠は至ってドライな反応を見せて、おまけに大きなため息までつけてくる。
「……ひょっとして色じかけのつもりかい? 君が?」
見透かされているというかバレバレだったと言うべきか。それにしても最後の「君が?」はどういうことか。
「これからのことを話すんでしょ。お互いが落ち着く場所で話すべきと思ったの」
里奈は言い訳じみた主張する。
ここまで見透かされて、挙げ句に誘いにも乗ってもらえない。恥ずかしいことこのうえなかった。
「だったら談話室でいいだろう。どうせ僕と君しかいないんだから。そもそも君の部屋で僕が落ち着ける理由がわからないよ」
「自慢じゃないけど、私の部屋は何にもないわよ」
「それは知ってるよ。君の生活態度を見てたらね」
何なんだこの男は可愛げがないと里奈は唇を尖らせる。
それから話はなんだかんだで談話室で行うということになった。
「逆に僕が君の誘いに乗ったら君はどうしていたんだい?」
久遠の問いに言葉が詰まる。今さら自分は何を焦る必要があるのかと自ら問いかける。
しかし、一方で気になることがあるのもたしかだ。
「じゃあ、私より可愛い娘の誘いならどうしてたの?」
「随分、突っかかるね。この場合は誘いに乗らないが普通だろ」
本当だろうかと里奈は疑う。
一三歳になれば背が伸びだして、出るところが出はじめる。そんな風に思っていた時期が里奈にもある。
まあ成長期はこれからのはずなので、気にはしていないと里奈は胸中で何度もつぶやく。
「とりあえず僕の話を聞いてくれるかい?」
久遠は語りはじめた。
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