里奈はカフェでどう振る舞うべきかわからないでいた。
学校を抜け出してきた二人は街中へ繰り出していた。どうせ誰も咎める者はいない。だからか、二人の足取りは堂々としたものだった。
里奈は嫌がらせのつもりでいかにも高価そうなカフェを選んだつもりだった。
だが、男の子は何も気にした素振りもない様子でカフェ内に入っていく。
「だ、大丈夫なの?」
嫌がらせのつもりが里奈のほうが不安になってしまう。
「ここがいいと言ったのは君だろ?」
「それはそうだけど……」
何せ、こんな洒落て高価そうなお店に入ったことはないのだ。里奈は困っていた。
「気にすることはないよ。君が今まで利用してきた店と何ら変わらないからさ」
だから同じようにしているといいということだった。
そうは言われても里奈はなかなか落ち着かない。
「ところで、どうして私の名前を知ってたの?」
「むしろ僕の名前を知ってないことに驚きなんだけど」
その返しに里奈は言葉を詰まらせる。そもそもとしてクラスメイトという概念はなく、自分の名前が呼ばれる環境になかった。
そのうえで会話がないとなれば名前を知る機会などあるわけもない。
「君は去年、公園で魔物に襲われただろう。その時、助けに入ったのが僕だ。君の名前は病院へ連れて行ったとき君に聞いた。僕も名乗ったんだけど」
その時のことは意識が朦朧としていたから、あまり記憶になかった。
カフェ内はカウンターで注文するようになっていた。
男の子はカフェラテとスコーンを頼んでいたが、里奈は何を頼んでいいかわからなかったので、今日のオススメケーキセットを頼むことにした。
それから二人は窓際の席に向かい合わせで座る。
カフェにはいま二人以外はいない。
二人きりのカフェの時間。
それがはじまろうとしていた。
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