■妖械、その名は紅葉
池の上に人影が見えたような気がした。最初は見間違いかと思ったが、ライトが当たることでそれが見間違いでないと思い知る。
黒髪おかっぱに白粉の肌で少女の外見だ。まるで人形である。身長で言えば一五歳くらい。両手には三味線を持っている。
その少女が瘴気をまとった状態でこちらに視線をくれる。それは殺気に満ちたものだ。
「里奈!」
久遠は叫ぶと同時に飛びだしていた。
里奈は懐から式神を取りだして撃ちだす。少女は避ける素振りも見せずに佇んでいる。だが、着弾しかけるかというタイミングで、少女の目の前から大きな水柱があがり式神は吹き飛ばされてしまう。
「ウソ!?」
里奈は驚愕する。その前を遮るように来果が出てきて、飛んできた何かを弾く。地面に落ちたソレは花札であった。
「水柱を目くらましに飛び道具で攻撃してくるなんて、どういうヤツよ」
久遠がさらに加速をして懐から少女の足元めがけて小刀を投げる。少女は小刀をかわすと同時に姿を消す。だが、久遠は立ち止まらず刀を振りかぶる。
すると急に少女が久遠のところに現れて三味線の竿の部分から仕込み刀を抜き放ち一切り見舞ってくる。それを久遠は刀で受け止めた。
「……ねぇ、何が起こってるの?」
里奈が呆然としながら訊ねる。
「分析が完了したよ。ヤツは紅葉。妖械人形種。さっき式神を吹き飛ばしたのは畳替えし、消えたように見えたのは縮地っていうスキルようだね。さらに花札を投擲するらしいよ」
「紅葉って子もすごいけど、久遠くんはあきらかに予測してたわよね」
「……あの子も十分に変よね」
乃々子と桐香は久遠に呆れているようだった。
「久遠って、いま存在しているプレイヤーの中では最高のパラメーターを保持しているはずだから逆に勝てないとなるとまずいわよ」
来果が言う。
久遠のほうがつば競り合いになったときは有利のようで、紅葉はあきらかに力押しには負けている。だが、紅葉は体の少しずつよじりながら軸をずらして久遠がかけてくる力を少しずつ受け流している。
久遠もおそらくこのまま後退することが隙になると気づいているのだろう。
お互いの刃がいったん離れるも、そのままお互い刃を返して斬りあい、間合いを詰める。
久遠が刀を振るうと紅葉の胸元あたりに刃がかする。すると体が後ろへよろめいて胸元から瘴気を纏った首飾りが出てくる。
その隙を見て久遠は突きを繰りだす。それを紅葉は顔を横に少し傾げてかわす。だが、それはフェイントであった。久遠の右手が首飾りを握りしめており、それを目一杯の力で引きちぎる。
そして青烏の刃でペンダントを切り裂いたのであった。
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