■ライブの準備に入る
一同は校舎の会議室に移り机の上にはお菓子と飲み物が置かれている。しかし、久遠はとりあえず全員を座らせた。
「さて、早速です。あの体育館でライブを行うとして観客をどれくらい集められるかです。それを想定して準備を行うのでとても大事です」
「ちょっと待って。これからの話をする前に私から言わせてほしいことがあるわ」
「何でしょうか?」
桐香は久遠の話を押しのける形で立ちあがる。そして、頼果、世里、蘭々、伊織、最後に玲美に視線を向ける。
「君のクランにいる女の子どうなっているの? 美少女揃いじゃない」
「ライブ中、ずっとそれを見ていたんですか?」
久遠も呆れ気味だ。
「私は常に人前で歌って踊れる団員を募集しているのよ。外見なんて一番わかりやすい指標なんだからとりあえず話をしてみるって決めているの!」
久遠は熱弁される。
「まあまあ……」
「あの、僕は男なんですけど……」
伊織が申し訳なさそうに訴えてくる。だが、桐香は気にするどころか振り切る勢いで伊織の肩を強く掴む。
「ついているとか、ついていないとか、ステージに立つ者にしてみれば些細な事よ。あなたにはてっぺんを目指せるだけの資質を私は感じるわ」
半ば暴走しかけている熱意にまわりのメンバーが止めに入ってくる。
「リーダー、話が進みませんから」
「勧誘はまた今度で」
それを里奈は遠くで眺めながらつぶやくのを由芽が答える。
「向こうも必死ねぇ」
「でも、誰もいままでやろうとしなかったわけだし、だからこそなのかもね」
コホンと場の空気を戻すために久遠が咳払いをする。
「それじゃあ話を戻すけどさ。まず収容人数から考えましょうか」
「逆に質問だけど、どれくらい入れればいいもの?」
久遠は少し考えこむ素振りを見せて、それから答える。
「会場によっては一万人以上は収容できます。まあ、それだけの人数を集めるのは大変なので細々とはじめるのがいいのかなって思っています」
皇会のメンバーは互いに顔を見合わせる。
「東方旅団としては会場設営については学園祭のノウハウを生かせます。ですが、それとは別の問題が出てきます」
何だとまわりが注目する。
「みなさん、収容人数が決まってもその人数を集めないと集まりません。さらに会場設営諸々にお金がかかります」
一同はどういうことかとばかりゆっくり頷く。
「というわけでチケットを売ります。東方旅団と皇会でそれぞれ規定数チケットを売るんです」
「宣伝だけでは売れるものではないの?」
「ライブという文化を伝えるには足を運んでもらうしかない。しかもお金を取るんだ。簡単じゃないと思うよ」
「だったら最初は無料にすればいいんじゃねえの?」
「それはダメ。最初から敷居を下げると興行が叶わなくなる。ただでさえ儲からないのに、さらに儲からないとなれば新規が入ってこない。いいかい。理想は皇会のようにライブをしたいっていうクランを増やすことだ。そうすれば業界の分母も自然と大きくなって興行収入化の道も開けるんだ!」
久遠のいつにない熱弁に周囲から「おお」という歓声があがる。思えば、この男は数々のイベントを企画して成功させてきた。期待がかかるのも無理はない。
こうして周囲も乗せられて話は進んでいくのである。
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