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■とにかく接触したい

 彼女が東京へ訪れて、ふと歌って踊りたいと考えるようになったのはいつの頃からか。


 それはもう忘れてしまったが、熱意だけは失われていなかった。


 顔は自慢できる方ではないが、それならばとメイクを必死に覚えた。


 一二月に入り寒さが増してきた。室内は暖房をつけているものの窓から見える景色からすっかり落葉した並木を見て寒さを感じてしまう。


「……私にどういったご用なんですか?」


 古輪玲美(ふるわれみ)が訊ねてくる。ウェーブかかった髪を後ろでまとめて背中のあたりまで伸ばしている。二重まぶたのぱっちりとした目と丸っこい顔つきは愛嬌を感じる。


 そういえば入団時にステージに立たないかと誘ったが、見事に断られたのを思い出す。やはり惜しいなと思ってしまう。


「先月にあった《《学園祭》》というイベント悪くなかったわ」


「はあ?」


 生返事が返ってくる。


 いままで集客には死ぬほど苦労をしていた。ステージなんかも諸々である。


「みんなからも好評でね。もう一度やりたいという意見もあがっているわ」


「たしかに盛りあがりましたよね」


 仮設ステージの上で屋台目当てに来た客たちが足を止めさせてパフォーマンスを見せつけるのは悪くなかった。


「だからね。もう一度、やりたいんだけど」


「そうですよね。できたらいいですよね」


 玲美はこの会話を一刻も早く打ち切りたいという態度が全面的に現れていた。とにかくそわそわしているのだ。


 そう。まるでこれから言われることを予想でもしているかのように。


東方旅団(とうほうりょだん)にあなたと同じ苗字の男の子がいたでしょ。彼ってあなたの親族なんじゃないの? ほら前に双子の兄がいるって言ってたじゃない」


「そんなこと言ってましたっけー?」


 玲美は空々しい態度で、視線を合わせようとしない。これにはさすがの彼女も(いぶか)しむ。


「何か出会いたくない理由でも?」


「ないことはなくはありません」


「どっちなのよ……」


「それは……ですね。たしかに久遠(くおん)は兄妹なんですけど。でもですね。会いには行けないというか深い事情がありまして」


「私には言えないこと?」


 玲美の目がさまよって定まらない。


「いろいろと気まずくて……」


「だったら、この際謝るなりすればいいじゃない。私も一緒に行くから」


 玲美はいきなり手を握られる。それはもういまにも飛びだそうとばかりである。


「いつ行くんですか?」


「いまから」


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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