■後夜祭
後夜祭は紹介制になっていた。つまり体育館に入るには誰かの許可がいる。
それと仮装をするというルールが設けられていた。
これは久遠からの提案である。
「久遠せんぱーい」
伊織が手を振ってくる。ドレスを着てお姫様のような出で立ちだった。
皮肉なしによく似合ってると言えた。実際伊織が歩くたびに人目を惹いている。
もっともその視線に対してはあまりに鈍感のようだが。
「先輩、その格好は何です?」
「ネコの着ぐるみだけど」
しかも茶トラ柄である。
「可愛いですよ」
「褒めてくれてるのかな?」
「もちろんです」
伊織は両手をもじもじさせながら久遠に対して上目づかいで見つめる。
「どうしたんだい?」と久遠が訊ねる。
「僕、似合ってますか?」
自信なさげ伊織に久遠ははっきりと返答する。
「よく似合ってると思うよ」
「本当ですか?」
「僕は伊織をからかったりしないよ」
伊織は大きく目を見開く。心底嬉しそうだった。
「ありがとうございます。頑張って女装した甲斐がありました」
「あはは。そう……」
久遠は何とも言えない笑みを浮かべる。
すると場内から音楽が流れてくる。
「久遠先輩、一曲いいですか?」
伊織が手を差しだしてくるのを久遠が手を取る。あとは見様見真似で二人はまわりにいる人たちと踊りだす。
そして一小節が終わると踊る相手は変わっていく。
「あら」
久遠が次に手を取ったのは中島妙子であった。
「楽しんでもらいましたか?」
「まさかこんな風になるなんて思わなかったわ。でも、これで踏ん切りはついたつもり。あなたには感謝してる」
「僕は何もしていませんよ」
「どの口が言うんだか。宗太郎じゃちょっと押しが弱いかなって思ったんだけど、瀬名から全力で支えますって言われたらね」
「助けになったら何よりです」
「またやってよね、学園祭」
「協力はしてくださいよ」
「もちろん。任されて」
そう言って妙は次のところへ。久遠はまた別の相手の手を取る――取ったのだが。
「な、何か?」
仮面をつけて白いワンピースに背中には二枚の羽根。
「玲美?」
「それはどなたのことでしょうか? きっと他人のそら似ですわよ」
おほほと妙な笑いをする。
「いや、あのさ……」
そうしている間に次の相手に変わる。久遠は完全に彼女を見失ってしまっていた。
さて、こうして曲が終わると里奈が壇上にあがって改めて閉会の宣言をする。
こうして学園祭は大成功のうちに終わったのだ。
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