その背中は彼女の知らない背中
目が覚める。
ゆらゆら揺れてるのと胸のあたりから伝わる温もり。里奈は自分がいま背負われていることに気がついた。
「ここは?」
状況がつかめていない里奈は訊ねるしかなかった。
「じっとしてて。ゾーンを出たらタクシーを呼ぶから」
「それでどこへ行くの?」
「病院だよ。気絶をしたんだから診てもらうほうがいい」
タクシーを使うというのか。えらく羽振りがいいなと思ってしまう。
「さっきの魔物はどうしたの?」
「僕が倒したと言ったら信じる?」
「信じない」
里奈は即答する。
「じゃあ想像に任せるよ」
この声は男の子のものだった。
「……病院は行きたくない」
「どうして?」
「……お金がない」
「この国の国民なら一八歳まで医療費は無償だよ」
「何それ?」
はじめて聞いた気がする。
「もうすぐログアウトするよ」
果たしてその言葉の通りだった。里奈の端末にログアウトの通知がくる。
それから彼が呼んだであろうタクシーに里奈を乗せる。
「私、一人で行くの?」
「もちろんついていくさ」
里奈を後部座席に寝かせると、彼は助手席に座る。
運転席には誰も乗っていない。東京のタクシーは全自動運転だからである。
タクシーが動きだす。そうしていると里奈はまた眠ってしまっていた。
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