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■学園祭はじまる

 秋晴れが広がる中、里奈がステージに立つと高らかに宣言する。


「これより学園祭をはじめます!」


 グラウンド中が歓声で沸き立つ。


 お祭りがはじまった。しかし、ステージを降りた里奈はぐったりとしていた。


「お疲れさま」


 由芽がペットボトルの飲み物を差し出してくれる。


「由芽みたいな人を秘書っていうんだっけ?」


「どうなんだろ? 意識したことないけど」


 由芽に関しては里奈の手が届かないところまで動いてくれていた。


 対比となるのは頼果だが、彼女は無軌道に動きすぎだった。


 その点でいうと由芽とは阿吽の呼吸だったと言えよう。


「あとは特に何もないわよね?」


「出店は一四時までで。それから体育館で一六時まで後夜祭だね」


「夜じゃないのに後夜祭なのね」


「夜に出歩くのは危ないから仕方ないよ」


 まあ、それはそうなのだが。とりあえずしばらくはゆっくりできそうだ。


「せっかくだから出店をまわってこようかな」


「あ、それなら待って」


 由芽は誰かにメッセージを送ったようで、それからしばらくして久遠と頼果が顔を出す。


「そういう約束だったよね」


 由芽は満面の笑みで三人を送り出したのであった。


「何だかステージがやけに盛況じゃない?」


 里奈は外に出てステージの方に目を向ける。


「アイドル活動やってるクランがステージを貸してほしいって申請してたでしょ」


 そういえばそんなこともあったかもしれない。一応、一通り目は通していたが、細かい内容までは把握してなかった。それくらいには忙しい日々だったといまならわかる。


「何するの?」


「歌って踊るくらいしか把握してないけど」


 男女構わず熱狂的な歓声がステージに贈られる。


「それはそうとやたら視線を感じるんだけど?」


 久遠が二人にしか聞こえないくらいの声で囁く。


「何でかしらね?」


「私が知るわけないでしょ」


 里奈は先ほどステージで挨拶までしたこの学園祭の主催者。


 久遠は言わずもながら英雄としての地位を得つつあった。


 頼果は長身とそのスタイルのために勝手に人の目を惹いた。


 目立たないわけがない組み合わせである。


 問題は三人がその事に気がついてないことだ。


「久遠く~ん」


 すると出店の方から久遠を呼ぶ女性の声。


乃々子(ののこ)さん」


 クイーンナイツのクランリーダーである。そういえばお好み焼きを売っていたなと里奈は思い出した。


「君って本当に女性関係が派手よね。見た目に似合わず」


 久遠は苦笑いを浮かべる。言い返せないようだ。


「いいんですよ、こいつはこれで。私がしっかり管理しますから」


 それはそれで怖いなと頼果は思う。もちろん顔に出すほど浅はかではない。


「食べてく?」


 乃々子は営業スマイルだ。


「……一つください」


 久遠がため息交じりに注文する。


 お好み焼きは既にできあがった冷凍のものを解凍して、あとは鉄板風のヒーターにのせて温める。


 原理はこうなのだが、当時の人間が見ても何ら遜色のない雰囲気なのだそうだ。もっともそれを語れる人間は地上にもはや存在していないが。


「おいしそうねぇ」


「たこ焼きだっけ? あれも良さそうね」


 里奈と頼果は思い思いに語る。


 いくらでも食べてやろう。全部久遠のおごりだ。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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