■十一月に入る
十一月に入ると参加するクラン数と出店の数も決まってくる。
あとはどんな出店にするかだが、それはこれからということのようだ。
「ちょっと! 資材の発注はこっちが請け負うだなんて聞いてなかったわよ!」
学校のとある会議室。里奈が久遠に怒鳴る。
「一括購入の方が輸送費の関係で安くなるんだよ」
「輸送費? 一括購入?」
里奈は聞き慣れない言葉に思わず怒りを忘れてしまう。
「テントの必要数は確保できたよ」
由芽が里奈に報告へくる。
里奈は学園祭の実行委員長になっていた。久遠にやれと言いたかったが、あれこれ動きまわるのに肩書きはない方がいいらしいとは彼の談である。
「とりあえず紅茶でも飲んで休憩しましょ。大丈夫よ。誰もやったことないんだから失敗して当然くらいの気持ちでいきましょう」
世里が里奈をなだめる。ここ一週間でわかったのは彼女が最高のお姉さんであるということだ。
何なら久遠よりも世里のことが好きであるという自信がある。彼女は清涼剤であった。
「ありがとうございます」
現に根を詰める必要はないと言葉にしてくれるのは世里くらいのものだ。
「実際、どんなスケジュール感なんだろう?」
久遠はその問いを頼果に投げかける。
「柚子騎兵隊が班分けでちょっと揉めたみたいで、それを引きずってるようね」
頼果はそう言いつつ目線は学園祭の告知ポスターに釘付けだ。里奈が先ほど承認したばかりなので、あとはどこに告知していくかの最終占めの段階にある。
とまあ、頼果はこういうことが好きなようでよく動いてくれた。
「なるほどね。それはそうと頼果、その仕事は蘭々に振らせてもらうよ」
「えー、ここまできたら最後までさせてよ」
「君の仕事はポスターの作成までだよ。あとは折衝なんだから蘭々が適任だよ」
さらりと頼果が仕事を持っていかないように久遠がコントロールしていた。
「それより僕の仕事で手伝ってほしいんだよ」
「ふーん。どんなこと?」
里奈はそんな二人のやりとりを見て疎外感を感じる。
「私ってよく考えたら承認くらいしかしてないわね……」
「それが責任者の仕事なのよ。里奈ちゃんは本当によく頑張ってるわ」
えらいえらいと世里は里奈の頭を撫でる。大好きだこのお姉さんと口に出したくなる。
「でも、柚子騎兵隊のことは少し気になるわね」
「今しがたメンバーの一人がここに来てたみたいですから、話してみたらどうです? 世里先輩と同期くらいの人でしたし」
里奈は提案してみる。隣の部屋で資材の申請をしているところだという。
「そうね。ありがとう里奈ちゃん」
「いえいえ。私も世里先輩の助けになりたいですから」
世里は立ちあがり、会議室をあとにした。
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