■東京迷宮クラン会議は開催される
一〇月も半ば過ぎようというときに東京迷宮クラン会議は開催されようとしていた。
里奈は当日の朝になったが、会議に出るのが嫌で仕方なかった。それに比べて案外と張り切って働いていたのが頼果である。
あのバイタリティは見習うべきか。いや、そもそも好きでここまでやってきたわけではないのだ。
たしかに東方旅団のリーダーは里奈である。しかし、ここまで引っ張って手を尽くしてきたのは間違いなく久遠だろう。
しかし彼は裏方に徹している。こういう表の仕事はだいたい里奈が請け負う。不思議と役割分担が決まってきていた。
東京迷宮クラン会議が開催されるにあたって様々な取り決めが成されて、例えば会議場へは各クランの代表者一名と決められたし、入る際は所属しているクランの制服着用を義務付けた。
里奈にとってありがたかったのは質問内容が事前に知らされていたことだ。それに対しての回答と質問内容も事前に教えてもらっていたので、事前にカンニングペーパーを用意しておけば何とかなりそうだ。
これは水呉の発案で彼には心の底から感謝した。
「しかし想定外の質疑が出る可能性はある」
いま里奈は控室にいる。そこには水呉もいた。
秘書というのは少し言い過ぎだが、里奈の隣には由芽も控えてくれている。カンニングペーパーの件でも何かと助けてもらった。
「その場合はどうすればいいんですか?」
「場にふさわしくないと判断すれば却下する。答えにくいと思えば無理に答える必要はない。『わからない』か『次回までに答えを用意する』で構わない」
「そんなのでいいんですか?」
「性急に出すべきような議題は多人数で議論すべきではない。それに会議と銘打ってあるが情報交換の意味合いが強い」
「次回もというのは使っていいんですね」
「企画の成功というのは継続が確定することだ。こういう場を継続的に持っていけば全体的な秩序も形成できる余地を生む。この会議は君が思っているより意義のあるものになるよ」
里奈は眉間に皺を寄せて、半ば信じられないという表情を浮かべる。
「里奈ちゃんならできるよ」
由芽が励ましてくる。
「おだてないでってば」
本当に柄ではないと里奈はぱたぱた手を振る。
そんな里奈を見て水呉はやれやれとため息をつく。
「君はまわりにいる自分よりすごいと思っている人間を見て、自身を過小評価しているように見受けられる。だが、私から見ればここまで東方旅団を引っ張ってきたのは間違いなく君だと私は思うがね」
「そうだよ。自信を持ってよ」
大好きな友人が自分の震える手を温かく包みこんでくれる。
「ありがと、由芽」
そんな友人に感謝しかなかった。
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