■行商人婆と封印石
国会議事堂の中央塔八階にそれは存在していた。
お社はいままで見たこともないほど大きさかもしれない。
お社の中心に鎮座するこれまた巨大な要石。さらに石にはそこら中にお札が貼られている。
「大きいな」
博文が思わずつぶやく。
「寄せつけないというより封印してる印象ですね」
胡桃葉の言うことは何となく理解できた。
要石をよく観察すると石の中心あたりからどす黒いものが鼓動打ってるようにも見えたからだ。
「あまり気味のいいものじゃないですね」
久遠はあまり石に近づこうという素振りを見せない。むしろ恐れているようでさえある。彼は何かを石から感じているようだった。
「その石に触ってはいけないよ」
三人の背後から少しきつい印象を受ける女性の声。
「行商人?」
背後を振り返ると長身でスラリとしたつり目の女性がキセルをくわえて、背負い箱を背負っている。
「アンタのことは息子から聞いている」
「息子?」
久遠は首を傾げた。
「鎧蛇の巣で出会ったろう。あれが息子さ」
博文と胡桃葉はいきさつがわからず目をパチパチさせている。
「ずいぶんお若いようですが」
「年をとったくらいで皺が増えたり、腰が曲がったりするとはかぎんないだろう」
「はあ」と久遠は生返事だ。
「行商人婆とでもお呼び」
それではじめて博文も胡桃葉も気がつく。彼女が実は老婆であることに。
いや、それにしては老婆と呼ぶにはあまりにも若々しくて美しかった。
「その中には怨霊が封じられている。ちょっとやそっとじゃ封印は破れないよう幾重にも重ねてね」
「それほど怨霊は強大ということですか?」
博文が訊ねる。
「強大なのはたしかさ。でも、三色烏が揃ってるなら十分に戦えるはずだよ」
行商人婆は久遠に対して顎をしゃくる。
「とはいえ、厄介なのはたしかさ。まず、どうやって攻撃を当てるのかが問題だからね」
怨霊は攻撃を通さないというのか。博文と胡桃葉は顔を見合わせる。
「封印が解けると同時に死の宣告を使うんだ。解くには二四時間以内に怨霊を倒すこと」
――ただし! と話しはまだ続く。
「怨霊はそれ以外の攻撃を持っていないんだ。実体化していない状態では攻撃が当てられない。つまりはスキル封印ができない」
「倒せないってことですか?」
胡桃葉は博文に聞いてみる。
「それだと攻略不能ってことになるからね。そんなことするかな?」
「まあ、話は最後までお聞きよ。怨霊は金縛りを使うんだ。その時に実体化する。金縛りにした人間の体に触れるためにね」
「……悪趣味ですね」
胡桃葉は顔を引きつらせている。
「しかし、里奈くんが狙われると厄介じゃないかな?」
博文が言いたいのは金縛りに里奈が合うと、実体化していても封印スキルを使うための投擲を使うための予備動作ができないことになる。
それを危惧してのことだろう。
「金縛りを防ぐアイテムがあればいいんですけどね」
久遠が言う。とは言え、そんなに都合のいいものがあるとは思えない。
「大祓人形っていうのがあるよ。買うかい?」
「聞いたことがある。呪いの効果を肩代わりしてくれるアイテムだよ」
博文が解説してくれる。
「まあ、行商人から買えるものはとりあえず買うけどさ」
久遠は行商人婆から大祓人形だけでなく、それ以外の品も買い占める。
「久遠くんは豪快だね……」
これには博文も驚いたようだ。
「バザーに流せば十分元が取れますからね」
行商人はレアキャラ。必然的に取り扱ってる品もレアアイテムになる。なので、行商人に出会ったら借金してでも買い占めろなのである。
「まいどあり。それじゃあ、これはサービスでつけといてやるよ」
久遠のアイテムストレージを開けるとそこには封印石というアイテムがあった。それはいまお社で奉られているものと同じものだった。
「万が一ってやつだね」
行商人婆はニヤリと不敵に微笑む。
そんな風になってほしくはないがと切に博文は願うのであった。
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