卒業証書はもらうとバカにされる
話は一年ほどさかのぼる。
片岡里奈。三月二六日生まれ。片岡家の一人娘だ。都市部から離れた田舎に住んでいる。
里奈はいま小学校の体育館にいる。体育館の壇上には『卒業証書授与式』という題目でデジタルサイネージが掲げられている。
最後方には卒業生の保護者たちが来ており、その前に在校生たちがいる。保護者達は卒業おめでとうという空気の中、在校生たちの態度はあきらかに違っていた。それは嘲り、侮蔑、自分はああなりたくないという空気。
卒業生の席には里奈しかいない。周辺は空席ながら本来いたであろう人数の席が並べてある。保護者もたくさん来ている。
それでも里奈はたった一人の卒業生だった。
ここにいる子供たちは在校生を含めて一一歳までの子供たちだ。一二歳の子供は一人もいない。みんな東京へ行ってしまった。
子供が一二歳になってやることは二つある。一つは東京へ行くこと。二つ目は卒業証書をもらわないことだ。
しかし、出ていった子供たちは知っているのだろうか。実はひっそりと保護者が本人たちが辞退したはずの卒業証書をもらいに来ているということを。
子供たちは誕生日を迎えて一二歳になるとともに東京へ行ってしまう。卒業証書をもらうのは卒業式を終えてから誕生日を迎える子供たちだけ。
この価値観は在校生たちの態度を見ているとわかるが、卒業証書をもらう人間は漏れなくバカにされる。なので卒業式が終わるまでに生まれた子供たちには学年があがるにつれて侮蔑の視線が強まっていく。
それが里奈にはたまらなかった。
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