■里奈は学校へ足が向いた
早朝、里奈は一人で歩いていた。いつもの元気さはなく、ひどく落ちこんだ様子だった。
久遠が出て行ってから何日かが経つが音沙汰はない。
晴は何か知っているようだが、はぐらかされる。
久遠とはいつも通りやってるつもりだったが、彼は夜にふといなくなってしまった。
理由はいまだにわからないし、誰も教えてくれない。久遠なら教えてくれるのだろうか。
里奈の足どりは自然と学校へ向いていた。
すると校門のあたりに見知った少年の後ろ姿。
思わず声をかけようとして、隣にいる女性の姿に気がつく。
一瞬、気のせいかと思ったが、やはり女性の隣にいる少年は久遠である。
不思議と胸のあたりがざわつく。これはいままでに感じたことのない感情であった。
――声が出なかった。
いつもと同じようにというわけにはいかなかった。
それとともに自分は致命的に何かを間違えたのだと気づかされる。
それは果たして訂正できるものなのかはわからない。
それでも何をすべきかは自然とわかる。
「……久遠」
声は届いたろうか。
振り向いたのは久遠だけではなく、女性の方もだった。
「……里奈」
久遠はいかにも気まずそうであった。それだけでも里奈は久遠から何となくだが察してしまった。
ここに一分でもいるのは嫌だと里奈は走り去ろうとする。
「待って。あなたが里奈ちゃんでいいのよね?」
里奈の手を女性が掴む。びっくりするくらい綺麗な女性だった。何もかもが自分と違う。そう思わされるくらいには。
「私は宇佐真鈴。ちょっとあなたと話がしたいんだけどいい?」
「……私はありません」
里奈は真鈴と顔を合わせない。ただ自身の意思ははっきりと伝える。
「だったら、こういうのはどうかな? あなたに久遠くんを返してあげる」
里奈はどういうことだと真鈴の顔を思わず見てしまう。しまったと思ったときにはすでに手遅れであった。
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