■四日目の朝に真鈴はふと思う
プリズム・タワーから帰ってきた次の日も雨は降り続いていた。
真鈴と久遠は外に出ることなく家で過ごすことにした。
その一日も気づけば終わり、次の日の朝を迎えていた。
久遠がぐっすり寝ているのを確認して真鈴は起きあがる。
足どりはゆっくりとシャワー室へ向かっていた。
鏡の前に立つと大きなあくびがでる。メイクもはがれて髪はボサボサ。これもまた自分の姿なのだと実感する。
洗面台には歯ブラシは二本。自分の着替えもある。それがあるだけで自分の居場所があるという気になる。
だが、それは間もなく終わる。真鈴が一八歳を迎える事によって。
「……これからどうしようか」
聞き取り手のない声は意味をなさずに虚しく霧散する。
シャワーのお湯の温度は少し高めに設定する。
残りたいという気持ちが溶けて流れるように。
一八歳になったとき自分の横には誰かいてくれるだろうか。
そんなときに年下の同居人の顔が浮かぶ。
年下に興味はない。
もっと格好いい人がいい。
自分より背が高い人がいい。
好きでないところなんて枚挙にいとまがなかった。
シャワーの湯を止めて脱衣所へ。
タオルを素早く手に取り鏡には決して顔を向けない。
認めたくもなかった。この瞬間を手放すのが惜しいと思っている自分を。
服を着替えて髪を乾かしながら窓の外を見る。
今日は雲は出ているが、久々の晴れ間が見えていた。
太陽は少し隠れていて、雲の合間から日差しを少しばかり届けている。
真鈴はふと懐かしのところへ電話をかけた。
「……お母さん、久しぶり。元気にしてた?」
六年近く聞いていなかった懐かしい声が向こうからした。
どうしてかけてしまったのか自分でもわからない。
ただ不思議と嫌な感じはない。
言うべきことは自然と口から出た。
「私、そっちに帰るから」
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