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■観覧車から降りればそこは……

 五階層に分かれてアトラクションが存在するプリズム・タワーは文字通り塔であった。


 真鈴と久遠は特にアトラクションに入るでもなく塔を歩いていた。


 実際、それだけで十分に楽しかったのだ。


「観覧車に乗りたい」


 真鈴は最上階の五階層に到着してはじめて久遠に要求をした。


 真鈴が久遠の手を引く形でゴンドラへ乗りこむ。


 ゴンドラに座るとごとりと音を立てながら上がっていく。


「このゴンドラ動いてないんだよね」


「らしいですね」


 揺らすのは実際にしているが、音はあくまで音響効果。窓から見える風景も映像だ。


 実際、いま見えている風景は朝日が昇る富士山である。現実はもうすぐ夕方なのにだ。


「この景色は嘘でできているんだね」


「そうでしょうか? この景色はたしかに映像でしょうけど、こうして二人で見ている景色は嘘ではないでしょう」


 空想もまた現実の延長に存在する。実在しないとか共有ができないというだけで、存在自体を否定していいものか。


「やっぱり君は生意気だよ」


 真鈴はぷっと吹きだす。彼の言動にももう慣れてしまった。


 少し顔を斜め下に口に手を当てて、視線だけはねっとりと久遠を捉える。


「真鈴さんが変なことを言うからです」


 久遠はきっぱりと言い切った。そこに以前あった少し年上の女性に対するドギマギしたような部分はほぼ払拭されてしまっていた。


 悪く言えば初初しさがなくなったと言うべきか。


(それもいいのかも)


 真鈴は不思議とそう思うことができた。


「観覧車を降りたら帰りましょうか」


「まだ観覧車しか乗ってないよ」


 真鈴が抗議する。


「夜は何かと物騒なんです」


 そう言う久遠の口調は諭すというニュアンスの中に厳しさのようなものが混じっていた。


「また連れてきてくれる?」


 真鈴は自分がどんな顔をしているのか呆れてしまった。


 いつ叶えられるかもしれない約束だ。


 それを懇願しているのだから。


 楽しい時間は終わる。


 名残惜しいが仕方のないことだ。


 真鈴は久遠の制止に気がつかずにゴンドラのドアを開けてしまう。


 強制ログインゾーン。真鈴がはじめて聞いた単語であった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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