■朝食を作る久遠
朝に目が覚めると外から相変わらず雨のしとしとという窓を叩く音がが聞こえた。
……今日も雨か。
真鈴はうんざりという表情を浮かべながら起きあがる。
それで自分が裸であることにようやく気がつく。
寝室の扉は閉まっていて久遠の姿はないことにほっと胸を撫でおろす。さすがに裸体を無防備に晒すことには抵抗があった。
昨晩体を巻いていたバスタオルも羽織っていたワイシャツもなくなっている。代わりに枕元には自分の私服が畳んで置いてあった。もちろん下着もである。
久遠がしたのだろうか。だとすれば、どんな顔をしてたのだろうか。聞いてみて反応があればからかってやろう。
服を着て寝室の扉を開けるとキッチンに立つ久遠の後ろ姿があった。
まだ真鈴のことに気がついていないらしい。真鈴は足音を立てないようひっそり久遠の背後に近づく。
「だ~れだ?」
久遠の両目を真鈴の両手が塞ぐ。
「やめてくださいよ、真鈴さん」
久遠が抵抗して身をよじらせる。それにかこつけて真鈴は久遠に体をより密着させる。
それから両目を塞いでいた両手で久遠の頬を撫でながら、最後には首に両手をまわして少しもたれかかった。
「おはよ」
何とまわりくどい挨拶かと思ってしまう。名前を呼ばれて舞いあがったのかもしれない。
「どうして起こしてくれなかったの?」
「起こす前に真鈴さんが起きただけでしょ」
そう言う話じゃないと真鈴は久遠の頬を軽くつねる。
「君、料理なんかするの?」
フライパンで焼かれている目玉焼きとベーコンを見て訊ねる。
「気分転換ですよ」
真鈴に離れるよう促すと二つの皿に盛り付けていく。
「座っていてください。持っていきますから」
「うん……」
たまに妙に久遠が大人っぽく感じることがある。そんなときは少しドキリととなって意識してしまう。
食卓に並んだのはご飯にみそ汁、それとベーコンエッグだ。
誰かと面と向かって朝食はそういえば久しぶりだった。ほとんど一人だった気がする。
そう思うと真鈴の胸はじんわり熱くなるのだった。
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