■真鈴は久遠の泊まるゲストハウスでシャワーを借りることにした
久遠がとっている宿というのはいわゆるゲストハウスのようだ。平屋建ての内装は畳の間や板間があったりとレトロな風格である。
今さらながら、この久遠という少年はこう見えて相当お金を持っているのではと思ってしまう。
「とりあえずシャワーを浴びてください。玄関をあがって、突き当たりのドアの奥です」
「ありがと。着替えは?」
久遠はコホンと咳払いして、真鈴を上から下まで見る。
「ここ乾燥機はないんですよ」
風呂場に洗濯機はあるからとりあえずそこに放りこんでおいてくれとのことだった。
「着れるかはわかりませんが、僕の服を置いておきますから合わせてみてください」
「はーい」
久遠も濡れていたので、とりあえず着替えてくるということだった。
真鈴は脱衣所に入るとずぶ濡れの服を脱いでいく。
濡れているせいで服が肌にまとわりついて脱ぎにくい。脱いだ服は洗濯機の洗濯槽へ放りこんでいく。
ふと洗面所に自分の裸体が映りこむ。もう見飽きた姿に真鈴は空虚感に襲われる。
思い返すのは東京に来てからの六年間だ。
「いやんなるな。もう……」
思わずつぶやく。
「さ、浴びよ」
いかんいかんと両頬を叩く。
シャワーの温度は少し高めにする。そうすれば気分も晴れるように思ったからだ。
「……髪切ってやろ」
それもバッサリ思いきってだ。もともと長い髪は嫌だった。必要にかられたからやっていたに過ぎない。
「……何が東京迷宮だ。私の六年間を返せよ。コンチクチショウめ」
シャワーを浴びているときに頬に熱いものも一緒に流れていたことに真鈴は気がつかないようにした。
「服、置いてますから!」
ドアの向こうから久遠の声がした。
「わかった!」
真鈴は大声で答える。声が震えているのを隠すためだ。
それからシャワーを止めるとドアを半開きにして顔だけを出す。
久遠はもういない。服を置いて早々に出て行ってしまったようだ。
バスタオルを手に取り体を拭き、久遠の置いた服を確認する。
「これを履けっていうのかい?」
両手で広げたのはボクサーパンツだった。しかし、見るからにどれもキツそうだ。
どうするかなと思うが、とりあえず真鈴は髪を乾かすことにしたのだった。
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