■真鈴は久遠がお人好しであることを確信する
真鈴は身長が一七〇センチある。体躯はどちらかというとがっちりしてるほうで、アスリート的な肉体美を感じさせるプロポーションである。
スポーツができそうはよく言われるが、案外とやってはいない。だが、苦手でないのはたしかだ。
なので真鈴が立ちあがったときに久遠はその身長に少し驚いたようだった。
それに比べて久遠少年の身長は一五〇センチほどだろうか。真鈴に比べれば見た目はひょろくて頼りない。
しかし、それはぱっと見の話でしかない。よくよく観察してみると全体的に締まっている感じがするのだ。
「傘は一本?」
真鈴は訊ねる。逆にここで久遠の懐からもう一本傘が出てくれば笑うしかない。
「ええ。よければ差しあげますよ」
そう言って久遠は立ち去ろうとする。
「それだと君が濡れるよ」
自分はすでにびしょ濡れなのだから構わないと言いたかっただけである。
「僕のとっている宿は近いんですよ」
なので少し走れば到着するという。
「私は今日泊まるところも決まってないよ」
久遠はその言葉の意図を汲みとろうと頭を捻らせる素振りを見せる。
「……僕にどうしろと?」
結論として直接訊ねることにしたようだ。
「ごめん。実は何も考えてない」
真鈴は意地悪く笑ってチロリと舌を出した。もちろんこんな馬鹿げた仕草はわざとだ。この男はこれでどんな反応をしてくるだろうか。
「……いいですよ。ついてきてください」
久遠は一瞬だけ横目で視線を向けてくると、すぐに顔を逸らす。
呆れられたかな? 真鈴はそんな風に解釈する。
「傘、一緒に入ります?」
狭いですがとばかり傘のスペースを少し空ける。そうこなくてはと真鈴は気持ちが少し軽くなるのを感じた。
気分もよくなったので、久遠から傘を奪いとる。
「私の方が身長あるんだよ」
「僕の傘ですよ?」
わかってますか? という表情だ。
「ほらほら。お姉さんに遠慮しないでもっと近寄りたまえ」
まあ、自分も濡れているのだがと口には出さずにつけたす。
どのみち、こうなってしまえばお互い濡れるのだ。
こういうの相合い傘とか言うんだったか。実ははじめての体験に真鈴は浮き立つ。
よく見ると照れていて可愛いじゃないか。真鈴は久遠に対する残念な気持ちが消えかかっていることに気がついてなかった。
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