■雨の日に宇佐真鈴は少年と出会った
六月に入るとともに関東地方は梅雨に入った。東京も例外はない。
傘も持たずに外に出たせいで急な雨に降られて、衣服はすっかりびしょ濡れである。
どこか雨宿りする場所はないかと走りながら探していると、濡れた道に足を滑らせて尻もちをついてしまう。
「痛ったぁい」
彼女は思わず声を漏らす。
長い髪が顔にまとわりついて鬱陶しい。こういうときにどうして髪を伸ばしたのか後悔する。
大きくため息をついてうなだれる。なんて一日だと。
そんなことを考えていると体を打っていた雨の感触が急になくなる。
不思議に思い顔を見あげると傘が差しだされていた。
「大丈夫ですか?」
彼女の表情は一瞬パーッと華やぐが、それはすぐに落胆へと変わる。
傘を差しだしてくれたのは絵に描いたような美青年などではない。
自分より年下で身長もあまり高くなく、平凡な顔つきの少年だったからだ。
不思議と身なりがきっちりしているのは、そういえばその日の服装を状況に合わせて選んでくれるというサブスクがあったなと思い出す。
それを思うと別段どうということはない。
世の中こんなものかと思うしかない。
自分でこんな状況に追いこんでおいて、運命的な出会いを期待するなど虫がよすぎるのだろう。
「ありがと」
少年は手を差しだしてくれる。
彼女はその手を取るべきか、少年の顔とを見くらべて逡巡する。
その表情に下心は窺えない。ということは、この行為によって報酬を得ることを考えもいないということだ。
つまり彼にとっては特筆すべき行為ではないということだ。
魔が差したとはこのことかもしれない。彼女は衝動的に少年の手を取った。
「私の名は宇佐真鈴。七期生よ。あなたの名前は?」
少年は目をぱちくりとさせる。
おそらくは傘を差しだして名前も名乗らずに去るつもりだったのではないだろうか。
「古輪久遠。十一期生です」
「久遠くんていうんだ」
握った手はもう離さない。
この際だ。この男でいい。いや、この男がいい。
これが宇佐真鈴と古輪久遠の出会いだった。
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