第三話 望まぬこと(4/4)
依頼をこなし、全てが終わると雪夜は何故か、フラワーの下で働くことになってしまった。雪夜の精神は、日々すり減っていく――
俺が仕事から帰って来れたのは、予定通り3週間後であった。事務所に着くと、シスが居たので状況を聞くと、何故かフラワーの店に雪夜が居ることを知った。
そして入るや否や、メイド姿の雪夜が俺に向かって倒れてきた。
「お〜い?雪夜ちゃ〜ん?」
ライラックが雪夜に声をかけるが、返事はない。
「ありゃ、これはまた気絶してるね」
「あら〜!グレンたちじゃない!帰ってきたのね〜」
「どうして、雪夜がこの姿に?」
俺は苦笑いでフラワーに聞いた。
「雪夜ちゃんにメイド服着せて仕事させたら、もうすんっごい儲かったのよ〜!やっぱ美人さんは違うわ〜!」
雪夜は、あまり人馴れをしない。特に、男に対しては時間が掛かる。そんな雪夜がメイド服で1週間客の相手をする。容易に想像はできた。
「フラワー……あんまりやりすぎると、こいつはすぐに倒れるぞ」
「やだもぅ、減るもんじゃないんだから」
「精神はすり減ると思いますよ〜フラワーさん」
そう言ったライラックは、雪夜の服を見た。
「でも、この服は確かに良いな。雪夜の服作る時の参考にメモっとくか」
雪夜の任務中の服は、ライラックが作成したものだ。動きやすいよう、考えられた設計をしている。
「絶対にやめて下さい!」
すると、雪夜は急に飛び起きてそう言った。余程嫌なのか、気絶から蘇るほどの拒否反応であった。
「あはは、冗談冗談」
その時、他の客が言った。
「なんだ?もうやめちゃうのか?すげー可愛いのに」
雪夜の精神は限界だった。それが目に見えて分かるように。でも、面白そうなのでもう少し様子を見よう。ということで、俺はフラワーにビールを頼んだ。
「え、あの!グレン助け――」
「がんばれー(棒)」
雪夜は絶望的な顔をしていた。滑稽なことだ。もはや、その後ろにシスが居ることにすら気付いていないようだった。
◇◆
結局、グレンは助けないまま、その一日だけでもやり切ることになった。
いつから居たのか、シスさんもカウンター席に座っていた。若干フラつきながらも、私は仕方がないので仕事を続けていた。
すると、この日が最後ということをどこから聞きつけたのか、更に客は増えていった。
店内は段々と騒がしくなる。私も振り回され、お客様はとても楽しそうだった。騒がしくも振り回される私の姿を見ていたシスさんが、何故か笑っていた。
私の惨めな姿は……そんなにも面白いでしょうか……結局、そのまま店が閉まるまで、私は看板娘としてこの店で働かされた。
事務所に帰ってきた頃には、私はソファに倒れていた。自室に行きたかったが、もはや、そんな体力はどこにも残っていなかった。身体的な体力は、訓練のお陰で問題はなかったが精神が問題だ。
とても胃が痛い。すると、グレンたちが留守の間、ずっと事務所に居てくれていたリステさんが、私を部屋まで運んでくれた。
「お疲れ様。大変だったみたいね」
「はい……誰も助けてくれませんでした……」
「ふふっ、それでも良い経験よ。ストレスは……あまり良くはないけれど、人と関わるのもたまには良いことだわ」
「私は……裏万事に居るかぎりそんなことは必要……」
「あるわよ。いつまでも、裏万事に居れるとは限らない。ここに居ることを望んだのはあなただけど、本来ならば普通の生活だってできたかもしれない。それは、今後訪れるかもしれない。勿論、裏万事でも人との関わりは必要だわ。人並みに話せるようには、こらからも頑張りなさい」
「……はい……」
お風呂にも入れていないが、ふかふかのベッドと、お布団の中はとても柔らかく暖かく、私を安かな眠りへと誘った。
◇◆
――結局、看板娘が居なくなったあのお店はいつも通りの賑わいに戻り、私も裏万事の仕事へと戻ることができた。
ライラックさんが、あの時お店で来ていたメイド服を持ってきてくれたが、丁重にお断りした。私の、長い長い3週間は終わりを告げた。
そういえば、結局あの人は誰だったのだろうか。私のポケットには、まだあの石が入っている。ライラックさんにも聞いてみたが、答えは得られなかった。
異物の中でも、価値はあまり無いものなのかもしれない。取り敢えず、お守りとして持っておくことにはしておいた。
あの夜出会った人物も、誰に聞いても答えは得られなかった。女性の声をしていたが、聞いたことはない。何故、あの爆発が起きることを知っていたのだろう。
シスさんは既に帰っており、事務所にはリステさんも居なかった。事務所は、いつも通りの光景に戻っていた。
いつものように紅茶を淹れて、グレンたちに届ける。武器の整備をしながら、ひたすら依頼が来るのを待っていた。
◇◆
おまけ 裏万事の起源
裏万事の起源は、融合事件より前に遡る。
あるスラム街に、なんでも屋として活動していた女が居た。サーベルを得物としていた彼女を見た来訪者が、彼女の言った一言、裏万事という言葉を聞き、その者はアラスカの地にて裏万事を開業した。
それ以降、後に続くものが幾つか現れたが、成功したものは一握りであった。
グレンが裏万事となった辺りで、この都市で有名な者はグレンと残り数名ほどであった。
その為、裏万事同士での殺し合いが稀にある。なので、争い合わない。依頼が来ても、殺すことはしないといった誓約を結んでいる者たちが居る。
アモウとグレンがその関係であった。二人が殺し合うことはない。これからも、その関係は続いていく。
あとがき
どうも、焼きだるまです。
雪夜虐は可愛くて良いですね。とても健康に良い。さて、この後書きを書いている今、私はストックが無くて死んでおります。ただいま執筆中なうなのですが、投稿の一時間前となり先手を打って休憩がてら、予約投稿をしております。え?後書きこんなけ書いてる暇あるんなら、その時間で続きを書けるやろがい!って?あはは
長文失礼。では、また次回お会いしましょう。