第三話 望まぬこと(3/4)
残り一人の情報を待っていた時。雪夜は、謎の女性に逃げた方が良いと言われる。その時――
誰だろうか、顔は見えなかった。私に逃げろと言った。これ以上、私に知り合いはいない。この石を渡せと言った本人だろうか?
「いや、まずは匂いを……しない……」
また、匂いでの追跡ができないそれに、私は仕方なく事務所へ足早に帰ることにした。
空はまだ暗い。でも、あと1時間ほどで夜明けだ。その時――近くで建物が爆発する音が聞こえた。
振り返ると、そこは先程まで歩いていた場所だ。足早に動いてなければ、私は爆発に巻き込まれていた。
「――」
驚きながらも、私は少しだけ見に行くことにした。
爆炎に包まれ、中に人が居たとして、もはや誰一人助かってはいないだろう。しかし、私は見た。建物の裏、路地の方に誰かが居たことを。それは、資料の男と一致していた。
私は追いかける。男は、路地の中を逃げ回っている。でも、獣人であり、狼種の私の方が足は速い。腕も使い、本物の狼のように私は走り出す。本来人は二つの足で走る。だけれど、私の種族は四つ足で走ることに特化していた。
すぐに、男には追いついた。匂いもあった為、追跡は楽だった。
男は私の存在に気付いたようで、舌打ちをした。そして、腰からリボルバー式の銃を取り出し、私の方へまともに照準も合わせず撃つ。
銃声が三発、路地に響いた。しかし、私には当たらない。まともに合わせていない撃ち方なんて、グレンの訓練を受けた私には朝飯前のように避けれる。
更に距離を詰める。そして、また三発の銃声が聞こえた。今度は後ろを振り返り、私の方をしっかりと見て撃った。だけど、それは全て当たらない。
そして、そのリボルバーはシングルアクションアーミー。
「SAAの装弾数は、六発!」
「クソ!」
私は躊躇わず、ナイフで男の首を斬る。しかし、躱された。すると、男もナイフを取り出し対抗する。
しばらくの間、ナイフとナイフによる戦闘が繰り広げられた。夜明けが来る前に、決着をつけなくてはならない。
路地がもうすぐ終わる。その先には、先ほどの野次馬か、人が居るのが見えた。なるべく、人の居ないここで決着をつけたい。だけど、ナイフが男に届かない。男も分かっているのか、人通りのあるところへ下がっていってる。
その時、上から誰かが落ちてくる。それは、武器を構えたシスさんだった。
シスさんは、落下の勢いで刀を振るった。男の首は綺麗に切断され、一目に着く前に男の首はコロコロと転がった。
「帰れと言っただろ」
地面に降り立ったシスさんはそう言った。
◇◆
翌日、私はあのお店へと向かっていた。
「あら、いらっしゃい雪夜ちゃん」
フラワーさんはいつも通りカウンターでグラスを洗っていた。
「聞いたわよ。無事に終わったらしいわね」
「すみません……フラワーさんに頼んだ直後に終わらせてしまいました……」
「良いのよ!むしろこっちも店の仕事に集中できるわ。お疲れ様」
「……はい」
今日は、アモウさんは居なかった。
「あの子とはどうなの?上手くいってる?」
「……仕事が終わったら、すぐに帰ってしまいました……」
「あら、まだグレンが帰ってくるまであと、1週間くらいはあるんじゃないの?」
「……はい……」
「そうねぇ、じゃ家の仕事手伝ってよ」
私は少し、目を丸くして言った。
「フラワーさんの……ですか?」
「そうよ、看板娘がちょうど欲しかったのよ〜!」
フラワーさんはニッコニコでそう言った。
「あ……あの……私はそういうことは……」
「いいからいいから!おいでおいで!」
すると、いつの間にか私の背後に回っていたフラワーさんに、店の奥へと背中を押され連れて行かれてしまった。
10分後〜
店に、アモウさんが来た。すると、とても笑顔で言った。
「可っ愛い〜じゃん!雪夜ちゃん!何々!ここで働くことにしたの?」
「あ……あの……」
何故こんな姿をしているのだろう。どうして……私はメイド服を着る必要があったのでしょうか……バーで……
「可愛いわよね〜!やっぱこの子素質あるわ〜!羨ましいもん!」
「これは、ヒィルに黙ってくるだけの価値があるぞ」
「よね〜!?ちょっとアモウさん!もっとお客さん呼んできてよ!今なら大繁盛間違いなしよ!」
「お!そうだな!」
「えっいやっあの……」
私の言葉は届いておらず、二人はやる気になってしまったようだ。私にこういった仕事は回されたことはない。潜入任務とかならば……ありえるかもだけど……というか、それを餌に完全に騙された感が否めない……
「どうして……私が……」
◇◆
その後、アモウさんが呼んだ客により、私のメイド姿は沢山の人の目に触れた。とても大好評だった。特におじさん達には目の保養になるらしく、私目当てで来る人まで現れてしまった。
私は……あまりそういうのは得意ではない。多分、笑顔は引き攣っていたと思う。それでも私は人気だったらしい。
「雪夜ちゃ〜ん!ビール一つ!」
「は、はい!」
1週間みっちりと、私は看板娘として店で働くことになってしまった。もはや、訓練の時間なんてない。
「はい、ビールです」
「あー!ありがとう!雪夜ちゃんに運んでもらっちゃったし!サービスで倍の金出しちゃう!」
「あ、あはは……ありがとうございます……」
「あらやだ、私が運んじゃダメかしら?」
「オカマは話相手だよ!」
「やだもぅ、オカマだっておじさんの目を惹きたいわぁ」
「私は惹きたいわけでは……」
記念撮影を頼まれたこともあった。13歳の女の子相手に、メイド姿なだけでそれだけ嬉しいものなのだろうか。
獣人……ということも理由なのかもしれない。猫耳メイドは人気があるらしいが、私は狼。でも、それがまだ人を集めたのかも……
実際。融合事件以降、獣人の人はモテたりした。最初こそ受け入れられなかったが、慣れればその手の人は好んだらしい。
頭を撫でられたこともあった。私はあまり、知らない人に撫でられるのは好きではなかった。相手の人は、嬉しそうだったけど……
この1週間、店の儲けはいつもの5倍にもなった。フラワーさんはとても嬉しそうだった。私は死にそうだった。そして――
扉の開く音が聞こえる。
「いらっしゃいませ……ご主……人……さま……」
私は、その人を見るとその体に凭れるように倒れた。ご主人様という言葉……それはもうメイド喫茶か何かだろう……日本にそういったものがあると、聞いたことがある……流石フラワーさん。情報をどこから仕入れているのだろうか……
「何してんだお前」
あとがき
どうも、焼きだるまです。
最近、段々と夏の暑さが顔を見せてきました。私は寒い方が好きなのですが……足の関係上、転んだ時に怪我をしにくい長ズボンを好むのですが、そのせいで余計に暑い。皆さんも、熱中症などには気をつけて下さい。では、また次回お会いしましょう。