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巡導の運命  作者: 焼きだるま
3/19

第二話 幻影(1/3)

 変革の石を手に入れたグレンたちは、依頼主の希望により、ある路地へと踏み込む。しかし、そこでは――


――――第二話 幻影 ――――


 約束の日――

 事務所には、手紙が届いていた。


「ヤニス・フェルツァの路地にて待つ」


 下の方には、日時と場所を示す地図が記載されていた。コンクリートの建物に囲まれているそこは、確かに人目を気にする必要はない。


「グレン……これ」


 ライラックが苦笑いで言った。


「罠だろうな〜」


 中央のソファに向かい合うように座り、テーブルの上に手紙を置きながら、三人は中身を読んでいた。すると、雪夜が近付いて手紙の匂いを嗅いだ。


「匂いも……紙とインクの匂いしかしません」

「少なくとも、あの日来た依頼者本人が書いたってわけだねぇ」


 ライラックは腕を組み、ソファに凭れかかる。


「どうする〜? グレン。罠と分かってても、無視するわけにもいかないよ?」


 客の要望に応えなくては、裏万事は成り立たない。


「行ってやろう」


 雪夜は不安そうに、質問を投げかけてくる。


「でも、罠なら思惑通りに真正面から行くのは危険では……。何か、策があるのですか……?」

「あぁ。まず、雪夜には先に目的地で待機してもらう。屋根でもなんでも、隠れて奇襲ができる位置でその時を待て。そして、時間通りに俺が回収しに行く。相手に敵意があれば、雪夜が奇襲する。相手に敵意が無ければ、そのまま目的を果たして仕事を終える」

「なるほどねぇ、じゃあ僕はお留守番かな。せいぜい頑張りな〜」


 そう言うとライラックは片手を上げ、自身のデスクへと戻っていった。


「私が……奇襲」

「できないはずはない。俺が今まで鍛えてきたのだからな」

「――はい、大丈夫です」

「なら決定だ」


 すると、一度俺たちは解散することにした。各々のやるべきことを、その日までやり続ける。ライラックは常に、情報関係をチェックしている。雪夜は、二階にある自身の部屋へと戻っていった。俺は――


 ◇◆


 ――約束の日は、あっという間に訪れた。予定通り雪夜には、早めに現地へと向かってもらう。そして、俺が時間通りに路地へと向かう。


 夜の二時、そこには誰もいない。コンクリートの建物に囲まれ、煉瓦造りの道があるのみ。


 暗い路地の中で、待つこと数分。目的の人物は、目の前には現れなかった。見慣れない顔の男。見るに若く、脅されここにやってきたのだろう。


「あなたが……グレンさん、ですよね?」


 男は青冷めた顔で、そう言ってきた。


「依頼主はどこだ」

「あの……多分、その人が僕にこうしろと……」

「約束はどうなっている?」

「はい! これが、その――」


 俺は、男に銃を向けた。


「違う」

「ヒッ⁉︎」


 男は尻餅をつき、こちらを見る。


「なんで――」

「依頼主からは聞かされなかったのか? 依頼主が提示した条件は、事務所で受け取る話だったはずだ」

「何も聞いていないんです! というか、脅されたんだ! これを、あんたに届けて、あるものを受け取れって――」


 その時、銃声が二発。路地内に響き渡る。一発は、俺の足元に。最初の一発は、路地の奥に当たっていた。その一発は雪夜のものだ。


「グレン! 隠れて! 奥に誰かいる!」


 上の方から、雪夜の声が聞こえた。俺はすぐに、俺を狙撃した正体不明の敵から身を隠す。男は銃声に驚き、アタックケースを残して逃げていった。


「雪夜! どこだ」


 俺は、雪夜に届く声で言った。この路地は入り組んでおり、俺からでは敵の場所が見えない。


「さっき、グレンの居た場所から左の方――」


 銃声が響く。声で雪夜の位置もバレたようだ。俺は、ある程度の目星を直感でつける。敵の背後を取るには、路地内を遠回りで向かう必要がある。幸い、雪夜が正面から迎え撃っている。背後に回るまでの時間は、稼いでくれるだろう。


「頼んだぞ、雪夜」


 ◇◆


「敵は、ダストボックスを盾にしてる……。スナイパーライフル……ハンドガンだけじゃ武が悪い。さっきも、威嚇射撃にしかならなかった。どうすればいい……? どうすれば、時間を稼げる? グレンは多分、敵を背後から仕留めるつもりだ。――なら、私がすべきことは……!」


 幸い、ここにはベランダが沢山ある。


「ふぅ……」


 一呼吸の後、私は向かいのベランダへと飛び移る。それと同時に、私の後ろを弾丸がすり抜けた。


「いける」


 私の動きの速さに、敵は対応できていない。


 私はハンドガンを仕舞い、代わりに爪を立てた。ナイフも要らない。敵に少しでも接近して、グレンのことを悟らせない。


「――!」


 狼のように素早く、飛び移るは獣のように。向かい合うベランダを伝っていく。何度か、私の頬を数センチのところに弾丸が通った。だけど、当たることはない。


 私は、八メートルの付近まで迫ると、ハンドガンに切り替え身を潜めた。煉瓦造りのベランダの壁が、私を守ってくれる。敵も、スナイパーライフルからハンドガンに切り替えたらしい。


「目的はなんですか!」


 身を潜めながら、少しでも時間を稼ぐ。しかし、敵からの返答はない。このまま時間が過ぎれば、グレンのことを勘付かれるだろう。やれることは一つ。


 ベランダから立ち上がり、敵に向かってハンドガンを構える。ハンドガンの向く先に、敵はいた。


 後ろから、銃口を突きつけられている。突きつけられた男は、両手を上げていた。


 ◇◆


 ――スナイパーライフルを捨て、ハンドガンへの切り替えを行なっていた敵に、俺は後ろから銃口を突きつけた。


「ハンドガンを投げ捨てろ」


 男は指示通りに、ハンドガンを投げ捨てた。


「お前も依頼されて来たな?」


 それも、素人ではない。戦闘経験のある動きだ。ハンドガンは捨てたが、側にはスナイパーライフルが置かれていた。スナイパーライフルに蹴りを入れ、男の側から離す。


 恐らく、スナイパーライフルで狙っていたところを雪夜に勘づかれたのだろう。


「要件はなんだ」

「依頼主について教えろ」

「分からん」


 俺は、銃口を力強く押し付けた。


「本当に知らないんだ! 手紙で送られてきた」


 どうやら嘘ではないらしい。狙いは分かったが、これでは俺の暗殺に失敗した時に、変革の石(トランフォーストーン)を入手できないはずだ。


 金を渡したくないのならば、他に簡単な方法があっただろう。となると、答えは一つ。狙いは――


 悲鳴が聞こえた。男を撃ち殺し、悲鳴の方へ銃口を向ける。そこには、あの依頼主が立っていた。男は背後から、雪夜の口元を押さえていた。ナイフを雪夜の首に当てている。


「やあ、グレン。約束の時間を過ぎてしまい、申し訳ない」

「お前の狙いは、俺たちの口封じだ」

「よく分かっている。流石は死神の弟子だ」


 雪夜は、ナイフを見て怯えている。本来であれば、雪夜が背後を取られることはない。その前に、匂いや音で気付くからだ。しかし、この男に匂いはない。また、背後を取られたことから音すらも遮断していたのだろう。理屈はわからないが、厄介極まりない。


「ならば、要件は簡単だ」


 男の次の言葉は予想できた。


「ここで、自分の頭を撃てと」

「あぁ、そうすればこの娘くらいは生かしてやろう。雑用係くらいにはなるだろう。それか、四肢を切断し、見せ物にでも――」


 雪夜の顔は歪んでいく。


「さぁ、どうする死神の弟子よ。少なくともこいつは助かるぞ」

「そうか――」


 答えは決まっている。


「俺は死なない」


 理由は簡単だ。その必要はない。


「そうか……」


 ナイフが、雪夜の喉に当てられる。雪夜の呼吸が荒くなる。顔色も瞳も、その全てが今の心境を表している。しかし、男は気付いたようだ。その手を止め、雪夜をベランダの壁に投げ捨てた。男は出入り口の方へ、瞬時にナイフを向ける。


「ふむ、背後を取ったつもりだったが、背後を取られてしまったか」

「俺だって、得意としてるのはこっちじゃないんだ。勘弁してほしいね」


 男に銃口を向けているのは、保険として呼んでおいたライラックだった。


「それで、どうする。私を撃ち殺すか?」

「撃ち殺したいねぇ、でもちょっと待ってね〜。今、怖〜い人がここへ来てくれるはずだから」

「それならば安心しろ、やつはここに来ない」

「それはどうかね〜」

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 人外を読まれている方は気付かれていると思いますが、多分何を言いたいか分かっている方も居ると思います。

 私の作品を通して、考察する楽しさを感じて頂ければなぁと思っております。では、また次回お会いしましょう。

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