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巡導の運命  作者: 焼きだるま
2/19

第一話 裏万事(2/2)

 裏万事では、様々な仕事を受け取っている。そして、今日も裏万事に――表ではできない仕事が依頼される。


 ――中へ通すと、中央にあるテーブルに向かい合うように設置されたソファへ誘導した。雪夜は、来客用の紅茶を準備する。


 グレンがデスクから立ち上がり、客人の向かい側のソファへと座る。


「要件はなんだ」


 単刀直入に、グレンはそう言った。


「君が、裏万事の死神だな?」


 大男がそう言うと、グレンは頷いた。


「君に頼みたいことがある。融合異物保管センターは知っているな?」


 そこは、この都市の北側の林にある施設。危険性の高い異物や、重要性の高いものが保管されている政府公認の施設だ。


 紅茶を客人に出すと、雪夜は先程の壁へと戻る。大男は話を続けた。


「そこに保管されている異物、変革の石トランフォーストーンを持ってきてほしい」


 グレンは答える。


「異物の依頼か、何に使うんだ?」

「使用用途は不明でも、依頼は受けるのだろう?」

「あぁ」

「ならば、私から答える必要はない」

「そうか――で、いくら出せるんだ?」

「あぁ、こんなものでどうだ」


 アタックケースが机の上に出されると、中からは五〇〇〇万ほどだろう。ケースに詰められた札束が、現れる。


「――交渉は成立だ。だが、一つだけ条件がある」

「なんだ?」

「一二年前に起きた、豪邸の火災事件。これについて知っていることはないか?」


 大男は数秒沈黙を続けると、口を開く。


「――知っている」


 すると、グレンは詰め寄る。


「教えろ」

「ダメだ」


 その時、グレンは立ち上がると、オートマチック式の銃を構える。


「喋らなければ、先程の契約を破棄。もしくは、その命ごとこの世から消し去ってもいい」


 グレンの目は本気であった――が、次の瞬間、グレンの構えていた拳銃は半分に切断される。


「――ッ⁉︎」

「やめなさい」


 大男がそう言うと、先ほどまで黙り、何もしていなかった鳥マスク動きが止まる。瞬きにも満たない速さで、拳銃を切断した刃を仕舞った。


「すまない、私の部下が大変失礼なことをした。弁償として、これくらいで足りるか?」


 そう言うと、懐から出した札束を机に置く。


「私たちも、なるべく荒ごとにはしたくないんだ。そうだな、取引をしよう」

「取引?」

「あぁ――この依頼を、今から五〇日以内に成功させる。そして、ここで変革の石(トランフォーストーン)を出すことができれば、君の望んでいる情報を出そう。勿論、報酬の金も譲る。それでどうだ?」


 数秒の沈黙の後、グレンの口が開く。


「良いだろう」

「交渉は成立だ」


 交渉が成立すると男は、アタックケースを手に持つ。鳥頭の者と共に、玄関へと向かう。


「君を信じているよ、死神の弟子よ」


 そう残すと、彼らは裏万事を去った。


「雪夜、追え」

「分かりました」


 命令の通り、扉を開け、先程の二人の跡をつけようとする――が、


「――居ない……?」


 そこには、姿おろか、雪の上にあるはずの足跡すら見当たらなかった。


 事務所に戻ると、雪夜はグレンにそのことを伝える。


「匂いでの追跡は?」

「あの人たち……匂いがしなかった」


 狼種の獣人は鼻が効くが、その鼻ですら匂いを感じ取れなかったのだ。


「あくまで仕事をこなしてから……か」


 そう言うと、グレンはソファに座った。一つ息を零すと、ライラックに指示を出す。


「融合異物保管センターの情報を調べろ。侵入経路を探し、作戦に出るぞ」


「あいよ――ただ、あそこはかなり厳重な警備が敷かれているらしいよ。異物を取り扱っているから、FCSも大量に居やがる。そんなところに、本気で侵入するつもりなの?」

「あぁ、お前ならば侵入ルートを見つけるのも容易いだろう」

「……まぁ、やってみますけど〜?」


 すると、雪夜も口を開く。


「あの――私もその仕事、手伝わせて下さい」


 それに対し、グレンは答える。


「……そろそろ、大型の仕事をやる頃合いだな。良いだろう。ライラックと共に、作戦について話し合え。俺は一度、武器屋へ行く。銃をダメにされたからな」


 ◇◆


 ――この町は、アメリカの管理下でありながら独立していた。世界と世界が融合した――融合事件以降、あちら側の住民とされる来訪者が現れた。


 彼らは、住処が欲しいと訴えた。結果、その要望はアメリカによって承諾された。来訪者は、異物についての知識も豊富であったため。異物の発見報告が最も多かったアラスカの地に、アメリカの管理下のもと新たな都市群を作り出した。


 アメリカでありながら、この辺りの街は独立した一つの国のような運営をしている。それ故に、警察なども違い。他の国では技術も進んでいるが、ここでは異物以外の技術は基本的に劣っていた。


 現代では珍しく。それでいて町の景観の美しさから、観光客も多く訪れる。その裏では、裏社会の発達がこの都市群では大きな問題とされていた。その一つが、裏万事であった。


 グレンは、いつものルートで武器を仕入れに向かっていた。


「仲介業者ってのも楽じゃないんだ。あんまり頻繁に来られると、うちが怪しまれちまうよ」


 頭のてっぺんが禿げた小柄な店主が、参ったようにそう言った。


「それを承知の上だろう。俺たち裏万事が正規ルートで入手なんてしてしまえば、FCSに簡単に見つかってしまう。あんたも副業として、良い収入が入る」

「夜にやってる果物屋があるかよ。これでいいかい?」


 武器を手に入れると、グレンはリンゴを満杯に入れた紙袋に隠す。


「あぁ、助かった。また来るよ」

「次は昼頃にな〜」


 男がシャッターを閉める。グレンは振り向きもせず、雪夜たちが待つ事務所へと向かう。


 一二年前の屋敷火災。グレンはこの時、両親を亡くしていた。屋敷の前で動けなくなっていたグレンは、裏社会で死神と呼ばれていた男に拾われる。


 グレンは死神によって、火災が何者かによって起こされた事件であることを知った。死神の下で訓練を受け、今のこの仕事へと辿り着く。


 あの時の情報を知る者。それは、グレンにとっては何よりも優先すべき事であった。


 グレンは拳を固く握った。


「必ず、辿り着いてみせる。俺たちの平穏を奪った業を、払わなければならない代償を。あの日見た――隻眼の男を」


 雪の夜、グレンはある者に狙われていた。


 背後から近付く、フードを被った男が一人。ナイフを両手に、歩いている。一定の距離に近付いた途端、その男は走り出す。ナイフを、グレンの心臓へと一直線に向かわせる。


 しかし、そのナイフがグレンの下へ届くことはなかった。なんの前触れもなく、後ろ廻し蹴りによってナイフは叩き落とされる。ナイフは数秒間、宙を舞った。


「雪の夜にやろうとするな、足音でバレる」


 舌打ちをすると男は、もう一本の隠し持っていたナイフを構える。しかし、それよりも早くグレンは銃口を向けていた。


「ッ‼︎」

「諦めろ、依頼でもされたか?」

「クソ! お前が居るせいで、俺たち底辺の裏万事に仕事が来ない! お前さえ居なければ、俺たちにも仕事が――」

「俺が受け持つ仕事は、それ相応のリスクがある。お前たち底辺がやろうと、失敗するだけだ」

「うるせぇ! お前の言葉なんざ、成功者が語るただゴミ同然の言葉なんだよ!」


 男は銃を向けられても怯まず。汚い言葉と共に、グレンの下へと向かってくる。反撃をされても、急所が外れるような動きを取っている。


 ナイフを、銃を持つグレンの右腕に振るおうとするが、それさえもグレンに当たることはない。その前に、姿勢を低くしている男にグレンは容赦なく膝蹴りを入れる。


「ガッ――」


 顔面に入り、歯が折れ蹴り飛ばされる。地面に倒れ込んだ男に、グレンは近付く。


「俺の他にも、裏万事を生業とする者が居る。そいつは、ライバルを蹴落とすことは考えない。実力で上がった者たちだ。お前には、強者を蹴落とし、自身よりも弱い者だけを残すといった発想しかない。努力のできない人間は、ただ堕ちていくのみ。怠惰だな」


 すると、男は立ち上がりグレンを睨み付ける。舌打ちをして、フラフラのまま雪の中を走り去った。


 それを見届けたグレンは、銃をリンゴの入った袋に戻した。静けさと雪が積もる、紅いレンガの街。夜はまだ深く、朝焼けにはまだ遠い。


 ◇◆


 同時刻。


 向かい合いソファに座っていた二人は、今回の作戦について話し合っていた。テーブルの上には、融合異物保管センターの構造について記された資料が置かれていた。


「厳重という噂だったけど、通気口とかはガバガバだねこりゃ。調べて知った時には、心底呆れたよ。これじゃ、FCSもここの警察と変わらない」

「では、通気口から侵入するんですね」

「あぁ。だけど、持ち出すためには保管されているドアを破壊するしかない。破壊するための爆発によって作動しちゃうサイレンは、どうもできない」

「通気口から逃げるのは?」

「行きはいけても、帰りはすぐにバレるだろうね」

「じゃあ、どうやって――」

「そこで、雪夜ちゃんの出番だよ」

「私……ですか」

「君にも、通気口に入ってもらう。そしてここ、ここから敵を殲滅しながらルートを確保。そしてここに、窓ガラスがあるんだ。その先は、施設を覆うコンクリートの壁だ」

「そこから脱出すると……」

「そう、君の持ってるロープガンを使ってね!」


 ライラックは嬉しそうに、親指を立てている。雪夜は無表情のままだ。


「では、それでいきましょう」

「相変わらずだねぇ、せっかくの美人さんなのに。もっと笑顔を振り撒きなよ」

「……そうですか」


 ライラックは頭を掻くと、困ったように笑って自身のデスクへと戻っていった。


 作戦は一ヶ月後。裏万事の面々は、各々の準備を進めていた。


 ◇◆


 ――爆発音が施設に鳴り響く。侵入者に気づいた頃には既に、変革の石(トランフォーストーン)はアタックケースに入れられた状態で持ち出されていた。


 FCSによる阻止も虚しく、グレンは予定通りのルートを進んでいた。雪夜も合流地点まで、できるだけ隊員を仕留めながら向かっていた。


 コンクリートに囲まれた無機質な通路を、グレンは走っている。グレンの目線の先、そこからは隊員の声も聞こえた。


「居たぞ! こっちだ――」

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 第一話、どうでしたでしょうか。まだまだ話の序盤であり、本格的な話はここからとなりますが、それでもお楽しみ頂けてましたら幸いです。

 基本、一分割は2000〜4000文字以内になるようにしています。その為、キリのいいところで一度手を止めて頂くことも可能ですし、すぐに続きを読んでもらうことも可能です。

 第一話は全部を一日に投稿しましたが、次からは一分割を一日にとなります。

 どうか、これから巡導の運命をよろしくお願いします。では、また次回お会いしましょう。

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