第一話 裏万事(2/2)
裏万事では、様々な仕事を受け取っている。そして、今日も裏万事に――表ではできない仕事が依頼される。
――中へ通すと、中央にあるテーブルに向かい合うように設置されたソファへ誘導した。雪夜は、来客用の紅茶を準備する。
グレンがデスクから立ち上がり、客人の向かい側のソファへと座る。
「要件はなんだ」
単刀直入に、グレンはそう言った。
「君が、裏万事の死神だな?」
大男がそう言うと、グレンは頷いた。
「君に頼みたいことがある。融合異物保管センターは知っているな?」
そこは、この都市の北側の林にある施設。危険性の高い異物や、重要性の高いものが保管されている政府公認の施設だ。
紅茶を客人に出すと、雪夜は先程の壁へと戻る。大男は話を続けた。
「そこに保管されている異物、変革の石トランフォーストーンを持ってきてほしい」
グレンは答える。
「異物の依頼か、何に使うんだ?」
「使用用途は不明でも、依頼は受けるのだろう?」
「あぁ」
「ならば、私から答える必要はない」
「そうか――で、いくら出せるんだ?」
「あぁ、こんなものでどうだ」
アタックケースが机の上に出されると、中からは五〇〇〇万ほどだろう。ケースに詰められた札束が、現れる。
「――交渉は成立だ。だが、一つだけ条件がある」
「なんだ?」
「一二年前に起きた、豪邸の火災事件。これについて知っていることはないか?」
大男は数秒沈黙を続けると、口を開く。
「――知っている」
すると、グレンは詰め寄る。
「教えろ」
「ダメだ」
その時、グレンは立ち上がると、オートマチック式の銃を構える。
「喋らなければ、先程の契約を破棄。もしくは、その命ごとこの世から消し去ってもいい」
グレンの目は本気であった――が、次の瞬間、グレンの構えていた拳銃は半分に切断される。
「――ッ⁉︎」
「やめなさい」
大男がそう言うと、先ほどまで黙り、何もしていなかった鳥マスク動きが止まる。瞬きにも満たない速さで、拳銃を切断した刃を仕舞った。
「すまない、私の部下が大変失礼なことをした。弁償として、これくらいで足りるか?」
そう言うと、懐から出した札束を机に置く。
「私たちも、なるべく荒ごとにはしたくないんだ。そうだな、取引をしよう」
「取引?」
「あぁ――この依頼を、今から五〇日以内に成功させる。そして、ここで変革の石を出すことができれば、君の望んでいる情報を出そう。勿論、報酬の金も譲る。それでどうだ?」
数秒の沈黙の後、グレンの口が開く。
「良いだろう」
「交渉は成立だ」
交渉が成立すると男は、アタックケースを手に持つ。鳥頭の者と共に、玄関へと向かう。
「君を信じているよ、死神の弟子よ」
そう残すと、彼らは裏万事を去った。
「雪夜、追え」
「分かりました」
命令の通り、扉を開け、先程の二人の跡をつけようとする――が、
「――居ない……?」
そこには、姿おろか、雪の上にあるはずの足跡すら見当たらなかった。
事務所に戻ると、雪夜はグレンにそのことを伝える。
「匂いでの追跡は?」
「あの人たち……匂いがしなかった」
狼種の獣人は鼻が効くが、その鼻ですら匂いを感じ取れなかったのだ。
「あくまで仕事をこなしてから……か」
そう言うと、グレンはソファに座った。一つ息を零すと、ライラックに指示を出す。
「融合異物保管センターの情報を調べろ。侵入経路を探し、作戦に出るぞ」
「あいよ――ただ、あそこはかなり厳重な警備が敷かれているらしいよ。異物を取り扱っているから、FCSも大量に居やがる。そんなところに、本気で侵入するつもりなの?」
「あぁ、お前ならば侵入ルートを見つけるのも容易いだろう」
「……まぁ、やってみますけど〜?」
すると、雪夜も口を開く。
「あの――私もその仕事、手伝わせて下さい」
それに対し、グレンは答える。
「……そろそろ、大型の仕事をやる頃合いだな。良いだろう。ライラックと共に、作戦について話し合え。俺は一度、武器屋へ行く。銃をダメにされたからな」
◇◆
――この町は、アメリカの管理下でありながら独立していた。世界と世界が融合した――融合事件以降、あちら側の住民とされる来訪者が現れた。
彼らは、住処が欲しいと訴えた。結果、その要望はアメリカによって承諾された。来訪者は、異物についての知識も豊富であったため。異物の発見報告が最も多かったアラスカの地に、アメリカの管理下のもと新たな都市群を作り出した。
アメリカでありながら、この辺りの街は独立した一つの国のような運営をしている。それ故に、警察なども違い。他の国では技術も進んでいるが、ここでは異物以外の技術は基本的に劣っていた。
現代では珍しく。それでいて町の景観の美しさから、観光客も多く訪れる。その裏では、裏社会の発達がこの都市群では大きな問題とされていた。その一つが、裏万事であった。
グレンは、いつものルートで武器を仕入れに向かっていた。
「仲介業者ってのも楽じゃないんだ。あんまり頻繁に来られると、うちが怪しまれちまうよ」
頭のてっぺんが禿げた小柄な店主が、参ったようにそう言った。
「それを承知の上だろう。俺たち裏万事が正規ルートで入手なんてしてしまえば、FCSに簡単に見つかってしまう。あんたも副業として、良い収入が入る」
「夜にやってる果物屋があるかよ。これでいいかい?」
武器を手に入れると、グレンはリンゴを満杯に入れた紙袋に隠す。
「あぁ、助かった。また来るよ」
「次は昼頃にな〜」
男がシャッターを閉める。グレンは振り向きもせず、雪夜たちが待つ事務所へと向かう。
一二年前の屋敷火災。グレンはこの時、両親を亡くしていた。屋敷の前で動けなくなっていたグレンは、裏社会で死神と呼ばれていた男に拾われる。
グレンは死神によって、火災が何者かによって起こされた事件であることを知った。死神の下で訓練を受け、今のこの仕事へと辿り着く。
あの時の情報を知る者。それは、グレンにとっては何よりも優先すべき事であった。
グレンは拳を固く握った。
「必ず、辿り着いてみせる。俺たちの平穏を奪った業を、払わなければならない代償を。あの日見た――隻眼の男を」
雪の夜、グレンはある者に狙われていた。
背後から近付く、フードを被った男が一人。ナイフを両手に、歩いている。一定の距離に近付いた途端、その男は走り出す。ナイフを、グレンの心臓へと一直線に向かわせる。
しかし、そのナイフがグレンの下へ届くことはなかった。なんの前触れもなく、後ろ廻し蹴りによってナイフは叩き落とされる。ナイフは数秒間、宙を舞った。
「雪の夜にやろうとするな、足音でバレる」
舌打ちをすると男は、もう一本の隠し持っていたナイフを構える。しかし、それよりも早くグレンは銃口を向けていた。
「ッ‼︎」
「諦めろ、依頼でもされたか?」
「クソ! お前が居るせいで、俺たち底辺の裏万事に仕事が来ない! お前さえ居なければ、俺たちにも仕事が――」
「俺が受け持つ仕事は、それ相応のリスクがある。お前たち底辺がやろうと、失敗するだけだ」
「うるせぇ! お前の言葉なんざ、成功者が語るただゴミ同然の言葉なんだよ!」
男は銃を向けられても怯まず。汚い言葉と共に、グレンの下へと向かってくる。反撃をされても、急所が外れるような動きを取っている。
ナイフを、銃を持つグレンの右腕に振るおうとするが、それさえもグレンに当たることはない。その前に、姿勢を低くしている男にグレンは容赦なく膝蹴りを入れる。
「ガッ――」
顔面に入り、歯が折れ蹴り飛ばされる。地面に倒れ込んだ男に、グレンは近付く。
「俺の他にも、裏万事を生業とする者が居る。そいつは、ライバルを蹴落とすことは考えない。実力で上がった者たちだ。お前には、強者を蹴落とし、自身よりも弱い者だけを残すといった発想しかない。努力のできない人間は、ただ堕ちていくのみ。怠惰だな」
すると、男は立ち上がりグレンを睨み付ける。舌打ちをして、フラフラのまま雪の中を走り去った。
それを見届けたグレンは、銃をリンゴの入った袋に戻した。静けさと雪が積もる、紅いレンガの街。夜はまだ深く、朝焼けにはまだ遠い。
◇◆
同時刻。
向かい合いソファに座っていた二人は、今回の作戦について話し合っていた。テーブルの上には、融合異物保管センターの構造について記された資料が置かれていた。
「厳重という噂だったけど、通気口とかはガバガバだねこりゃ。調べて知った時には、心底呆れたよ。これじゃ、FCSもここの警察と変わらない」
「では、通気口から侵入するんですね」
「あぁ。だけど、持ち出すためには保管されているドアを破壊するしかない。破壊するための爆発によって作動しちゃうサイレンは、どうもできない」
「通気口から逃げるのは?」
「行きはいけても、帰りはすぐにバレるだろうね」
「じゃあ、どうやって――」
「そこで、雪夜ちゃんの出番だよ」
「私……ですか」
「君にも、通気口に入ってもらう。そしてここ、ここから敵を殲滅しながらルートを確保。そしてここに、窓ガラスがあるんだ。その先は、施設を覆うコンクリートの壁だ」
「そこから脱出すると……」
「そう、君の持ってるロープガンを使ってね!」
ライラックは嬉しそうに、親指を立てている。雪夜は無表情のままだ。
「では、それでいきましょう」
「相変わらずだねぇ、せっかくの美人さんなのに。もっと笑顔を振り撒きなよ」
「……そうですか」
ライラックは頭を掻くと、困ったように笑って自身のデスクへと戻っていった。
作戦は一ヶ月後。裏万事の面々は、各々の準備を進めていた。
◇◆
――爆発音が施設に鳴り響く。侵入者に気づいた頃には既に、変革の石はアタックケースに入れられた状態で持ち出されていた。
FCSによる阻止も虚しく、グレンは予定通りのルートを進んでいた。雪夜も合流地点まで、できるだけ隊員を仕留めながら向かっていた。
コンクリートに囲まれた無機質な通路を、グレンは走っている。グレンの目線の先、そこからは隊員の声も聞こえた。
「居たぞ! こっちだ――」
あとがき
どうも、焼きだるまです。
第一話、どうでしたでしょうか。まだまだ話の序盤であり、本格的な話はここからとなりますが、それでもお楽しみ頂けてましたら幸いです。
基本、一分割は2000〜4000文字以内になるようにしています。その為、キリのいいところで一度手を止めて頂くことも可能ですし、すぐに続きを読んでもらうことも可能です。
第一話は全部を一日に投稿しましたが、次からは一分割を一日にとなります。
どうか、これから巡導の運命をよろしくお願いします。では、また次回お会いしましょう。




