第四話 黒腕(2/3)
グレンたちは、依頼をこなすべく館への侵入を試みる。ターゲットの護衛をしている、悪霊使いとは――?
フラワーからの情報が入ると、俺たちは準備に取り掛かった。どうやら、悪霊使いの隊員以外にも護衛を付けているらしく、FCSがそれを許可しているのも、また別の理由があるそうだ。
「異物が絡んでるのは、まぁ間違いないだろうね。会社の方は僕一人で十分そう。今回は助けに行けないから、二人で頑張ってね」
ライラックは、パソコンと向かい合いながらそう言った。
◇◆
――夜闇の中。館を囲う鉄柵の前に、俺たちは居た。
作戦はこうだ。館を囲う壁は鉄柵だ。侵入は容易いが、代わりに入ればサイレンが鳴り響くことになる。しかし、そのタイミングだけはライラックのハッキング技術に任せ、俺たちは普通に侵入する。
防犯カメラにはダミー映像が流れるので、向こう側にバレる心配はない。会社側を担当しておきながらこれだけの仕事をするとは、できるのはライラックくらいだろう。
そのまま館の一階にある窓、一つだけ鍵が壊れておりそこから簡単に中へと入ることができる。
全てを譲り受けておき、隊員の護衛を付けていながらこの杜撰さだ。警戒しなくてはならないのはFCSのみだろう。
俺と雪夜は、予定通り館の中へと侵入した。ここからは別行動となる。まず、悪霊使いと呼ばれている護衛は、必ず暗殺の邪魔となる。異物を使い、悪霊と呼ばれているものを索敵に使用しているらしい。
「臭いが……する」
「どこだ」
「……死体みたいな……向こうでしょうか」
どうやら、悪霊には臭いがあるらしい。俺には分からないが、雪夜ならば大丈夫だろう。
「予定通り、索敵に引っかからないようターゲットを暗殺しろ」
「了解」
すると、雪夜は鼻を利かせながら、廊下の向こうへと四つ足で走り去った。
「さて――仕事と行こうじゃねえか」
◇◆
――俺は、身を隠しながら館内を動き回った。
「隊員は他にも居ると聞いたが……」
今のところ、他の隊員を見かけない。ただ、無人の静謐な廊下が延々と続いていた。
柱に時々身を隠しては、気配がないと分かると先へ進む。館は広く、ターゲットの寝る位置は常にバラバラだ。それだけ、裏切ったことへの報復を恐れているのだろう。
恐らく、巡回は悪霊のみに行わせているのだろう。雪夜は、ターゲットの匂いを嗅いでいるので、すぐにどこの扉が正解かを当てるだろう。雪夜に暗殺を任せたのは、その為だ。
月明かりが、廊下を照らし始めた。どうやら、雲が晴れてきたようだ。
向こうから、何か足音が聞こえる。雪夜であれば、今は二本足の音は聞こえない。つまり――
俺は、こちらへ近付いてくるターゲットが一定の距離に達すると、柱から出てオートマチック式の銃を構える。
足音は止み、銃のカチャっとした音だけが聞こえた。
男は一歩、こちらへと近付く。月明かりに照らされ、男の姿がはっきりと見えた。
「ふむ、よくここまで来れたね」
赤い瞳に、白銀の髪が月明かりに照らされ輝く。まだ若く、20代ほどであろう。その右手には、分厚い本のようなものがある。左手には、骨でできた細い両刃の短刀のようなものがあった。
「裏万事の死神――だよね?悪いけど、君の悪行もここまでだよ。君も、僕の悪霊たちの一員として、FCSで罪を償う時だ!」
両腕を広げた男の後ろから、白いモヤのような何かがこちらに近付いてくる。俺はすぐに、そのモヤを撃つ。
暗殺任務のため、サプレッサーを付けた銃は音をほとんど出さなかった。銃弾は、白いモヤをすり抜けそして――Uターンしてこちらへと飛んできた。
「――!」
俺は、こちらへと飛んで戻ってきた弾丸を避けた。
「無駄だよ、僕の悪霊たちは優秀なんだ。君たちが使うただの銃ごとき、僕たちには効かない!」
すると、男は右手に持っていた本を広げる。
「悪霊よ燃えろ!」
その瞬間、白いモヤは青い炎に包まれ、こちらへと猛スピードで近付いてきた。
恐らく、ナイフでも効き目はないだろう。通常の武器では太刀打ちできない。しかし、俺には一つだけ、太刀打ちできる武器がある――
「オブジェクト・リリース」
俺がそう唱えると、左腕の黒腕が異形へと変化する。
「封印異物!?――悪霊よ殺せ!今すぐ!!」
何かに怯えるように、男はそう叫んだ。
俺は、近付く火の玉を――黒腕で薙ぎ払った。黒腕に触れた火の玉は、灰になるように散り散りとなった。
「なんだよ……なんなんだよ!」
男は、左手に持っていた武器を構える。
「さぁな、なんなんだろうな!」
俺は、男に急接近した。この黒腕がある限り、こいつに負けることはない。男は骨の短刀で、黒腕の攻撃を防いだ。見た目には心細いが、これも異物の類らしい。
「舐めるなよ!」
男は短刀で、俺の黒腕を切り裂こうとする。しかし――
「っ!?切れない!」
俺の黒腕は切れなかった。異物ですら、切除することはできない。呪われた腕。そして、その腕は相手の力を奪う。
黒腕に触れていた短刀は、次第に灰となっていく。それどころか、段々と男に力が抜けていく。
「ヒッ!?」
男は何かを察し、短刀を捨てて尻餅をついた。
「なんだよ……なんなんだよ……お前……その腕……」
「何か知っているのか?この腕を」
「知らない!でも、そんな腕、FCSが管理していないはずがない!」
どうやら、黒腕について、知っていることはないらしい。
――俺の黒腕は、ある時リステによって移植された。左腕を無くし、裏万事として廃業を余儀なくされたところを、依頼主がキャンセルしたことにより事務所に残った異物。呪いの黒腕を、俺の左腕に移植したのだ。
なんの異物なのかは、誰も知らなかった。リステも、やるしかないと決行したことであった。傷口が塞がれば、二度と繋げることはできないと、今しかチャンスはないのだと。
この黒腕は、移植された後まるで自分の腕かのように動いた。そして、傷は一つもつかなかった。銃弾やナイフは勿論。熱や寒さにも負けなかった。後に封印異物の類であることが分かり、唱えればその本領を発揮できることが分かった。
しかし、傷一つつかないこの異物が、どうやって腕のみに切り取られたのかは不明だ――
――男に一歩ずつ、俺は近付いていく。その度に、男の顔色は悪くなっていく。
その瞬間、悪霊が俺に向かってきた。だが、それも無意味。触れた悪霊は、灰のように消え去る。
「主人はどこだ」
男は首を振る。
「知らない!主人様はいつも違う部屋で寝ている!今日はどこで寝ているのか見ていない!」
俺は、黒腕を男に近付ける。
「知らないんだ!本当だ!信じてくれ!」
俺は違和感を感じていた。無意味と分かっていても、悪霊を多数使ってこないのは何故だろうか。悪霊使いで熟練の隊員にしては弱すぎる。
「お前、悪霊使いじゃないな?」
男の顔は、更に悪くなる。
「待ってくれ!頼む!何も言わずに許してくれ!もう襲わない!やらないから!」
男は土下座を始める。
「悪霊使いはどこだ」
「お願いします!許して!」
話が通じない。どうやら、気が狂ってしまったらしい。
「ならば、ここで死んでもらう」
その瞬間、男は発狂するように叫び出した。大方を開け、上を向いている。まるで何かを吸われているように、萎んでいく風船のように、彼は骨と皮だけのようになって力無く倒れた。
白いモヤが、男の方から現れていた。それは、二階へと上がっていく。
「……なるほど」
どうやら、本物の悪霊使いは、上の階に居るらしい。
あとがき
どうも、焼きだるまです。
さて、ここで唐突にクイズです。
グレンが今、食べたい物はなんでしょう。答えられた人は答えの食べ物を差し上げます。
答えは――作者も知りません。では、また次回お会いしましょう。




