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巡導の運命  作者: 焼きだるま
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第一話 裏万事(1/2)

 二つの世界が融合した事件以降。アラスカには、向こう側の人間が作り出した、独立した五つの都市群があった。


 二〇〇六年。二つの世界が融合し、世界に数多の異物が散らばった。後にこれは、融合事件と呼ばれることとなる。


 二〇〇七年。来訪者たちによる五つの街が、アラスカの地に生まれる。アメリカの支援を受け、来訪者側はアラスカの地を手にする。都市群でありながら、独立した国家のような体制を持つそれを、来訪者はアラスカ都市群と呼んだ。


 ◇◆


 二○二二年一二月、第一都市ポバティー郊外。


 ――コンクリートに囲まれた無機質な通路。灰色の建物の中に木霊する足音の数は、数えることが不可能なほどであった。


 奥から、一人の男が走ってくる。


「居たぞ! こっちだ!」


 FCSの特殊部隊の一人が、そう叫んだ。狭い通路に、十人ほどの隊員が集まる。銃口は、奥からこちらへ走ってくる男に向けられていた。


「前列! 足を撃て! 奴のケースには当てるなよ!」


 一人の指示により、前列に居た三人がライフルを構え発砲する。しかし、男には当たらなかった。


 銃撃は止まない中。男は壁に向かって跳び、その勢いのまま通路の壁を走り出し、FCSの隊員たちを回避する。降りる際に、後列にいる数人の頭を蹴飛ばした。


「逃すな! 追え!」


 黒のタンクトップに赤い目、黒い左腕を持つその男は、アタックケースを片手で抱えたまま施設の中を逃げ回っていた。


 男が通路を走っていると、目の前にFCSの隊員が数人現れる。男は銃弾を避けながら、隊員たちに蹴りを入れその場を逃れる。


 階段を下りると、同じような通路へと出る。


 T字路の先。直線上には、FCSの隊員たちがこちらに向かってくるのが見える。右の通路にも、少ないがFCSの隊員が居た。


 しかし、右側の通路の先から、悲鳴のようなものが次々と聞こえてくる。右側通路の前列は、男を捉え銃を構えている。後列は、後ろから迫ってきている何かを警戒していた。


「グア!」

「がはっ」


 奥から次々と、隊員たちが倒れていく。


 倒れる途中。隊員の首からは、血が火花のように飛び散っていた。


 隊員の首を狙い、跳び移りながらナイフを首に当てていく。そうやって男の下に近付いてくるのは、狼の耳と尻尾を生やした少女だ。


 藍色の手袋に、藍色のロングヘアー。前髪の真ん中だけに、白い髪の束がある。そして、巻かれていた白いマフラーが靡いていた。


 跳び移り、隊員一人一人の首を瞬時に切り裂いていく少女は、隊員たちを数秒で排除してしまった。少女は男に向かって、こう言った。


「こっち」


 男はそれに従い、少女に付いていく。FCSの部隊に追われながら、二人は窓のある通路へと辿り着く。


 少女は銃を構え、窓ガラスを撃ち抜く。渇いた銃声が数発、通路を駆け回る。窓ガラスが砕け散ると、少女はハープーンガンのようなものを取り出し、窓の外、施設を囲む壁に向けて発射する。


 壁の外縁に引っかかると、ハープーンガンを窓際に固定する。すると男は、ハンガーのような専用の器具を取り出した。すぐにハープーンガンのロープに器具を引っ掛け、ロープウェイのように滑り、壁の方へと向かっていった。


 奥の方から、FCSの隊員たちの足音が聞こえてくる。狼耳をピクつかせながら、少女も専用の器具を使い、後を追うように壁へと向かった。


 壁に降り立つと、少女はナイフでロープを切る。二人は壁の外へと降り、去っていった――。


「クソ! 逃した‼︎ 捜索隊を要請しろ!」


 施設からは、そのような声が聞こえていた。


 ◇◆


 ――林の中を、男と少女が走っている。


「中々やるようになったな、雪夜(ゆきよ)


 雪夜と呼ばれた少女は、驚いたような顔をした後、微笑みながら答える。


「――グレンの、おかげ」


――――第一話 裏万事 ――――


 一ヶ月前――

 路地に紛れた事務所の中――奥のデスクで、新聞を読んでいる男が一人。

 グレン・リーパー、それが彼のコードネームだ。裏万事を営んでいる。


 紅茶を入れたティーカップを、グレンのデスクに置く少女が一人。

 冬月雪夜(ふゆつきゆきよ)、コードネームはウルフ。グレンを師匠としている少女であった。


「ご苦労さん」

「いいえ」


 雪夜はそのまま、グレンのデスクを正面から見て左側にあるデスクへと向かう。


 左側デスクにあるパソコンと、睨めっこをしている者が居る。グレンよりも年上で、ボサボサ髪のおっさんと呼ぶに相応しい姿の男が一人。

 ライラック――それが彼のコードネームだ。裏万事での情報、ネット関係を担っている。髪の色と同じ霞んだカーキ色の、コートのようなものを着ていた。タバコを咥え、キーボードを打っている。目は疲れているようにも見えるが、正常だ。


 雪夜は隣に、紅茶の入ったティーカップを置く。


「ありがと」

「いいえ」


 紅茶を出し終えると、雪夜はグレンのデスクから見て正面。右側に、玄関が見える壁に凭れかかった。右手を左腕に当てている。


 アラスカ都市群で、最も恐れられている者たち。裏万事(うらよろず)――それが彼らの仕事だった。


 合法にない仕事を受け持つ、裏のなんでも屋。対融合対策機関FCSが警戒している生業の者達である。


 ライラックが紅茶を飲みながら言った。


「最近色々なニュースが出てるねー」

「あぁ、物騒なものばかりな」


 グレンはそう言うと、新聞紙を仕舞う。そのタイミングで、雪夜も喋り出す。


「三日前の依頼の件、ニュースになっていないですね」

「ここの警察は、世界一無能で有名だからな。じゃなきゃ、裏万事なんてものは流行らん」

「その代わりに、FCSとかいうめんどいやつらが居るんだけどね〜」


 ライラックはそう言うと、タバコを灰皿に擦り付ける。


 アラスカ都市群は、二つの世界が融合した融合事件以降。来訪者たちによってわずか一年で作られた、世界的にも新しい都市群であった。


 また、アラスカでは融合事件により発生した異物が多く発生しており。それによる各国との交流も盛んであった。


 ――夜の闇と、レンガ造りの建物が並ぶ裏路地。事務所前のライトだけが、夜闇の中でも眩しく灯っていた。レンガ造りの街は静かで、地面と屋根を覆い尽くすほどの雪が降っていた。事務所の前に、影が二つ見える。


 グレンたちが紅茶を飲み終えた辺りで、玄関から扉をノックする音が響く。


 雪夜は扉を見ると一度、グレンの方を見る。グレンが頷くと、雪夜は玄関の方へと向かう。


「どちら様でしょうか?」


 その問いかけに、扉の向こう側に居る者は答える。


(あか)を見にきた」


 それは、グレンが営む裏万事での合言葉であった。


 雪夜はドアを開ける。そこには、黒の帽子を被り、黒のコートを羽織る大男が一人。そして、鳥のような不気味なマスクを付けた者が一人立っていた。


「どうぞ、お入り下さい」

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 長編新作、巡導の運命をお読み頂き、本当にありがとうございます。初の長編ということで、これから長い間、どうかよろしくお願いします!

 さて、タイトルの読み方なのですが、これで

――じゅんどうのさだめ――と読みます。どのような物語となるか、楽しみにしていて下さい。

 また、一話分を分割しての更新となりますので、第一話はまだ続きます。第一話 裏万事 2 もお読みになって下さい。

 長々と後書きを書いてしまいましたが、よろしくということです。では、また次回お会いしましょう。

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