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指先に詩をあつめて、温もった体温で  作者: 今井葉


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「ハイ、チーズ」

懐かしい写真を取り出して、

いもうとと頭を寄せ合う、

机にばらまかれた数枚。

かけっこするいもうとの、

ポーズを決めるぼくの、

晴天だった運動会。

コッター着て澄ますぼくの、

抱っこ紐の中のいもうとの、

礼拝堂での音楽会。



息を飲みシャッター切るあの頃の、

レンズを向けられ、

戯けるようなぼくの、

学校に行けない今日のぼくを思う。

恨めしいほどの夏の高い空、

雀のチュンチュン鳴く始業を示す時計の、

風も止んだ昇降口で、

学校に入れないぼくに、

差し出す懐かしい写真数枚に、

ぼくの涙がぽつりと落ちる。



写真握りしめ、向かう玄関で、

後ろから押される背中に、

ランドセルに添えられたMの掌。

「なにやってんの?」

と向けられる笑顔に、

ぼくの翳りが、

シュワシュワ泡となって弾けた炭酸。

パチパチ音を立てて消えた炭酸。




ぼくは写真をポケットにしまい込み、

追いかけるMの後ろ髪の。

フツーに入っていった学校の、

学校と溶け込むぼくの、

ふわりと薫る風とともに。



蟠りが解ける夏の、

今日のぼくを写す航空写真。

おろしたてのポロシャツの、

折り目の入った袖口が、

ぼくの涙の染みる。

染みたシャツを写す航空写真の、

笑顔を向けたぼくの。



パチパチ弾ける胸の奥の、

擦り傷みたいな胸の奥の、

立ちのぼる炭酸に、

満ちる身体が、

乾くシャツの染みと、

ぎこちない笑顔の一枚に。

葉擦れのさらう空に、

遠くで吹かすエンジン音に、

ぼくのいる風景に。

ぼくのいる一枚に。

「ハイ、チーズ」

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